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宏観

なりふり構っていられない。この場から逃げ出せないのであれば、絶花の精神を取り戻す事に集中したほうがいい。他人任せなのが心苦しいが、ここは彼女に任せるのが賢明だ。


 「お願い、真名子。入れ替わって」


 (私が絶花君の気持ちを取り戻す!!)


 意識が胸の奥で交代した。この身体を操っているのは竜宮真名子である。と、同時に能力も完全に入れ替わる。激情を振動に変えて体外から発射する能力から、相手の振動を落ち着かせて静寂させる能力へと。


 「項垂れている今がチャンスだ」


 竜宮真名子は叫んだ。下を向いて動こうとせず、刀にも手を添えない絶花にたいして、静寂の光を与える。栄螺鬼に対して放った心の安寧を授ける技だ。癒しの波動である。


 「さぁ、正気に戻って……」


 「それが終わったらコッチにもお願いするにゃあ」


 そんな呑気な言葉を矢継林続期は言う。これで勝負がついたと思ったのだろう。五芒星が全員揃うには、土御門カヤノが正気に戻る必要がある。何よりこの結界を破って八岐大蛇を止めに行かなくてはならない。先に優先すべきはアッチだったかもしれない。


 「あれ? どうして悪霊を皆で倒さないんです? これだけの戦力がいれば、あのレベル4の悪霊にも対抗出来るでしょうに」


 「自分から成仏する決心がついた悪霊に手を加えたりしないにゃあ。それに今は竜宮真名子の波長をしているはず。彼女は我々と同じ五芒星だにゃあ」


 「…………あら、ほんと」


 竜宮真名子の精神治療を邪魔される訳にはいかない。その場にいたメンバー全員が土御門カヤノの前に立ちふさがる。化け猫、猫又、迷い家、蝶化身、白兎、白溶裔、さがり、首切れ馬。各々の式神が行く手に立ちふさがる。妖気で満ちているのっぺらぼうと野槌もこれには少し怯えている。


 「その顔無し妖怪には邪魔させないにゃあ。弟君の治療が終わったら、次はお前にゃあ」


 「通させないよ」


 「この結界が逆に仇となりやしたね」


 竜宮真名子は力一杯願っていた。この癒しの波動が倉掛絶花に効果がある事を。このまま続けていれば、上手く精神を取り戻せる事を。だが、現実はどこまでも非情である。


 「効いていない……」


 (そんな馬鹿な……)


 倉掛絶花は妖力で自分の身体を防御していた。あまりに以上に歪んだ妖力は、陰陽師の力を持っていしても制御出来ない。特に今は竜宮真名子が波動を送っている。従って悪霊の力は一切入っていない。先ほどの身体の傷が回復しなかったのと同じ原理だ。倉掛絶花を救えるほどのパワーが無いのだ。五芒星の水の巫女の力を持ってしても。


 (入れ替わって。私が弱らせる。取り敢えずあの危なっかしい剣を光波干渉で叩き切る!!)


 「お願い」


 また身体の主導権が入れ替わった。今度は倉掛百花の意識が前に出てくる。今度は悪霊の波長を取り戻し、威力も抜群に上がっているはずだ。まぁ、癒す事は不可能で破壊する事しか出来ないが。まずは弱体化させる事だ。ある程度は身体の抵抗を奪ってから、絶花の意識を取り戻す。


 「言掌ことのて


 衝撃波を浴びせようとした。目に見えない空気圧の攻撃。まるで暴風に見舞われたような感覚になるはずなのだが。倉掛絶花は後ろに軽く引き下がるだけで、この攻撃をアッサリと躱して見せる。


 「躱された……」


 言掌の弱点は風を操る能力ではなく、所詮は平べったい衝撃波なのだ。攻撃の的が合わない限りは、衝撃波がヒットしないのだ。だが、目に見えず、音に聞こえず、全くの回避する情報が無い攻撃である。動き回ってでも回避不能であろう無敵の技が、こうもアッサリと躱されるとは。


 (百花ちゃん。きっと具体的な裏があるよ)


 「アイツ、気味悪い態度をとっておきながら、戦闘に関しては冷静なのかよ」


 この場にいる人間の中で緑画高校理事長である渡島塔吾だけは、このカラクリに気がついていた。彼もまたレベル4の悪霊に対抗すべく思考を凝らしていたから。彼は顎に手を添えてフムフムと小刻みに頷く。


 「なるほど、宏観こうかん異常現象だな」


 「なによそれ……」


 「地震が起こる事をなまずが察知するって聞いた事がないかい? カラスの大群が逃げ出すとか。地震大国の日本では、今の科学者の中で凄くホットな話題なんだ。地震が発生する一週間前には、必ず電磁波が流れると言われるのさ。それでテレビやラジオに電波障害が為される。科学的な根拠が無い話だから否定的な意見が多いけどね」


 倉掛百花が苦い顔をする。つまり、攻撃する前に必ず身体の外へと一定の電磁波を放出しており、そっれを絶花が事前に察知して、その上で躱している。そういう話になってくるから。


 「人間が感情を顕にする時に、走馬灯のような一瞬時が止まる感覚があるだろう。特に誰かが怒り出す瞬間に得体の知れない感覚が来る。それと同じ原理かもしれない。彼は他人の感情を察知している。電磁波として、粒子の振動として物理的に受け取っている」


 まさに人の気持ちが分からない倉掛絶花が、悩んだ挙句の果てに手に入れた同調技術である。


 「姉の振動の発信を、弟が受信している。倉掛絶花……もし他人の気持ちが分かった上で行動が出来るというのであれば、それはほぼ最強の能力に等しい」

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