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秘術

 そう。土御門カヤノと倉掛絶花は八岐大蛇の討伐に成功はしていない。結局は尾にあった天叢雲剣を手に入れただけであり、八岐大蛇は倒せずに放置してきたのだ。あの山奥に。だが、八岐大蛇は土地のそのものと合体した妖怪だ。悪鬼なんて言葉では足らないくらいの大災害である。


 火炎を吹き、猛毒を流し、身体の森林や山脈を自由に操れ、川を反乱させ、鉱物を生成する。


 相手は神々の領域に達している日本の妖怪の中で原点にして頂点の怪物だ。


 「えぇ。正義に犠牲はつきものですから」


 悪気など無く、楽しそうに、嬉しそうに、誇らしげに、自慢するように、胸を張りながら、土御門カヤノは言い放った。


 「なんて事をしてくれたんだ……これじゃあ日本が消滅する……」


 「えぇ。それが目的ですから」


 その場には残り四人の五芒星と緑画高校の生徒が二人いたが、誰も声を出さなかった。唖然とした顔で、言葉を失いながら、そこで笑いこけているクレイジーモンスターを眺めているしかなかった。倉掛百花の中の竜宮真名子まで信じられないという顔をしている。


 「おい、八岐大蛇って確かさぁ……」


 「日本で最古の妖怪かもしれないにゃあ。陰陽師という名前が出る前に封印された、複合属性の妖怪と言われるにゃあ」


 複合属性……。そんな稀有な妖怪がいるのか。倉掛百花でも八岐大蛇の名前くらいは知っている。確か酒に酔った所を殺されたとくらいには。


 「でも、どうして八岐大蛇を復活させたの? 寝かせとけば良かったじゃん」


 「そこが疑問でありやす。土御門の姉さん。とっととお答えなさってくだせぇ」


 雲行きが怪しくなってきた。不信感と恐怖で場の空気が包まれていく。この環境を楽しんでいるのは、他の誰でもない土御門カヤノ、たった1人だ。


 「面白くないからです。だって、皆さんが『甘い』んですもの。こんな程度では。いいですか? 創造は破壊からしか生まれません。陰陽師復興なんて語っておきながら、あなた方は守りに守りに入っている。面白くない。大切なのは今までのゴミを全て捨ててしまう事なんです」


 まるで政治家が庶民に語りかけるように、肩に垂れ幕でもかけてメガホンでも持たせたいくらいに、彼女は熱く激しく心を込めて語る。


 「部屋が片付けられない人は、掃除が苦手な人と同義ではありません。物が捨てられないんです。掃除をする上で必要なのは、拭く事でも、掃く事でも、洗う事でも、ワックスを塗る事でもない。まずは捨てることなんです!! 片付けられない女は駄目なんです!!」


 その場にいた全員が凍りついた。まるでこの女の狂気が伝染したように。全員の肩が小刻みに揺れる。開いた口が塞がらない。土御門カヤノは落ち着いて深呼吸をする。胸に手を当てて優しそうな顔で言い放す。


 「お掃除しましょうね。お掃除」


 「…………つまりお前は何がしたいんだ?」


 倉掛百花が恐る恐る質問した。


 「うふふ」


 土御門カヤノは優しそうな声で答える。


 「み・な・ご・ろ・し」


 あまり知られていないが、八岐大蛇には今までの攻撃方面以外にも、特殊能力が存在する。いわば精神侵食。人間を狂気に陥らせる事である。これは二千年前にはハッキリとはしていなかった。文献がアテにならない事実である。八岐大蛇に立ち向かった人間がいない、というか人間が存在しなかったから。この生き物は人間がいる前から存在する生き物なのである。


 スサノオは神々の中でも異端児であったが、戦闘においてはエキスパートであった。戦闘中に恐怖や絶望で心がおかしくなる事など無かった。ただ真っ直ぐに化け物退治に勤しむ単純な男であった。まだ人間が生まれる前の戦いである。だが、八岐大蛇の能力は天叢雲剣に受け継がれている。使用者は必ず絶命する。気を狂わせる秘術を持つ。


 つまり、倉掛絶花と土御門カヤノは正気を失ってしまったのだ。八岐大蛇の妖力に精神を汚されて。あの闘いの中で空気感染していたのだ。かなりの距離まで接近していた。


 そうでなくても、両者共々少し気が狂っていた。倉掛絶花はかつて無いほど落ち込んでいた。土御門カヤノも初めから危険思想の持ち主だった。だが、それを立場や理性で胸の内に隠していたのだ。だが、八岐大蛇の影響により、完全に心が壊れてしまった。


 「コイツ、狂っているにゃあ」


 「えぇ、正気じゃありません。どうしますか……」


 答えなど誰も持ち合わせてはいない。酒で酔わせて殺せばいいか? そう簡単にはいかない。あの巨体を切断出来るのは天羽々斬くらいだろう。その剣が今、どこに行ったかも分からない。酔わせて殺すにも酒樽はどこから調達する? 用意出来たとして飲んでくれるだろうか。


 「お片付けしましょう。八岐大蛇を解き放って、皆でお掃除するんです。妖怪も、陰陽師も、一般人も、殺してしまって、新しい世界を創るのです。そこに倉掛絶花を党首に置いて、この何も無くなった世界で1から」


 「もうお前は黙っていろ!!」


 倉掛百花が大声で叫んだ。これは竜宮真名子の感情を受け取ったからでもある。このままでは、八岐大蛇が全てを崩壊させてしまう。誰かがあの妖怪を食い止めねばならない。


 ……いや、その前に解決すべき問題が浮上する。


 ★


 「お姉ちゃん」


 「絶花」


 開門海峡に倉掛絶花が瞬間移動で姿を現した。


 ★

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