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闊歩

 「質問に答えろよ!!」


 絵之木が叫ぶ声を無視して優雅に橋の上を歩く。ずっと不気味な笑みを浮かばている。妖力が濁っている訳でもなく、なにか奇怪な行動を取っている訳でもない。それなのに、この土御門カヤノから得体の知れない恐怖を感じる。


 「ほう。お前も相良十次を任命してくれるのか。それなら歓迎してやるにゃあ。とっとと、弟くんを引き渡して、任命式をしたら、我々の前から消えるにゃあ」


 嫌そうな顔をしながら夜回茶道が見つめる。ガン飛ばしながら矢継林続期が睨む。もう友好的な関係は望めないかもしれない。この女は気味が悪すぎる。倉掛絶花を誘拐した真意には答えず、ただ嬉しそうに橋の上をゆっくりと闊歩するだけ。掴みどころがないというレベルではない。意味が分からないというレベルだ。


 「相良十次。はて、どなたです?」


 ようやく声を発したかと思いきや、ここにきてとぼけた表情をする。つまり、コイツも以前の白神棗と同じで、相良十次の党首任命に反対している奴という事になる。


 「他に適任がいるのかにゃ?」


 「語尾、気持ち悪い」


 「お前みたいな奴に言われたくないにゃあ!!」


 いちいち話の腰を折ってくる。なかなか確信を聞くことが出来ない。コイツ、話をズラすのが好きなタイプだ。会社の上司が部下にヒントを与える時に、意味もなく小分けにするような、気色悪い自己満足である。我々が困惑するのを楽しんでいる。


 「私が推薦したい人間は『倉掛絶花』という陰陽師です。彼こそ新時代の党首に相応しい。そうは思いませんか? 皆さん」


 繋がった、遂に白状しやがった。他の連中は目を丸くして驚いていたが、倉掛百花にとって絶花が党首になる云々はどうでもよかった。問題はコイツが絶花を拉致していた、そうでなくとも何らかの形で関わっていた事が明確になった事である。はやり結界で探知を弾いていたのは、コイツの仕業だったか。


 「……どうして弟くんを? 優秀な陰陽師だとは思うけど、党首に適任な性格だとは思わないにゃあ」


 因幡辺と白神棗は困惑している。因幡辺はまだ相良十次に真面に会話した事もない。白神棗に至っては毛嫌いしている。こんな状態で任命式が行えるとは思えない。五芒星の中で意見が分裂してしまった。


 「いいえ。彼はとっても理想的な男ですよ。血筋も問題ありません。それと、これから功績も整えます。今の復興を目指す陰陽師に仇なす反逆者、及び妖怪一同を彼一人で殲滅しますから」


 …………。今までも十分に理解不能は内容を語られていたのに、ここで全員が頭を傾げて唖然とした顔をしている。先程まで絶花の安否を気にして騒いでいた絵之木ピアノや、五芒星任命の件で意見が衝突した矢継林続期さえも、この爆弾発言には絶句した。空間が静止したように、全員が黙りこくった。


 「それなら相良十次が向かったにゃあ」


 「遅い」


 恐る恐る声を出した矢継林続期の声を、一瞬で掻き消す。


 「何に関しても『遅い』。時は金です。時間が遅い人間は、それだけ人生を無駄に浪費しています。特に周りにも迷惑をかけるから始末が悪い。まだ、殲滅の報告が届いていないという事は、彼は戦闘中なのでしょう。何時まで我々を待たせるのです? こんな鈍間な男を信用できますか?」


 この場に遅れてやって来たお前がそれを言うか!? という尚早が一同の脳内に流れる。


 「党首に必要な素質は、慈愛精神でも、チームワークでも、特殊能力でもない。ましてや、『安倍晴明の血統』など、そのような要素はどうでもいい。大切なのは圧倒的な『強さ』。何もにも負けない、どんな絶望的な危機も1人で解決するような、完全無欠のエースなのです」


 まるでスカウトマンか、と突っ込みを入れたくなるくらい、暑苦しく激しく理屈を喋る。例えどんな条件を出そうが、矢継林続期はテコとして自分の意見を曲げない女だ。しかし、残りの面々は反応が違う。


 「別に推薦人がいるなら、ソッチと比べっ子いたしやしょう」


 「そうだね。私も実際は相良十次の任命は反対派だし。その……ナントカさんが凄いなら、ソッチがいいかも」


 裏切りとは呼べない。元々、この二人は仲間ですら無かったのだから。ここで下手な仲間意識で意見の共有を押し付けるのは、ルール違反だと思う。このまま多数決で判定が決まり、私の弟が党首になったとしても。


 「まだ……貴方の意見を聞いてなかったよね。倉掛百花さん」


 「私は……」


 (反対って言って。なんかあの人は……嫌な感じがする。相良十次に任命したいって気持ちは私も同じだから、自信を持って反対って言っていいよ。正直、絶花君に任せようとする魂胆が分からない)


 「私の意識の中の竜宮真名子は反対だってさ。私も絶花には荷が重過ぎると思う。安倍晴明の子孫だが知らないけど、ここは安全杯で相良十次が大安定だと思う」


 「へぇ。倉掛のお姉さんの弟でございやすか」


 「う~ん。会ってみない事にはなんとも……」


 二人共、少なからず土御門の陰謀には気がついている。特に因幡辺はそんなに彼女に依存していない。心の心拍数も安定している。矢継林続期はとても不安定に大きく波打っているが。


 「私の弟をどこへやったの……」

 

 「失礼な。自分から飛び出して行ったのですよ。戦場に」

 

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