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援軍

 現れたのはムカつくアイツの顔だった。七三分けのエリートサラリーマンみたいな顔をして、営業スマイルをし、高価な腕時計や金色のネクタイを身につけて、偉そうに佇んでいる、あの男。


 「緑画高校理事長、渡島塔吾」


 「いやぁ、遅くなってすまない。援軍を率いてきたよ」


 空間転移、こんな離れ業を使える陰陽師はこの世に1人しかいない。亜空間を移動する能力を持った妖怪。目目連を従える安倍晴明の子孫。


 「間に合ったな。4人で心細かっただろう。いや、5人か。俺たちも参加するぜ」


 相良十次、矢継林続期が党首として推薦している男であり、今の政治家とのパイプになっている事実上、陰陽師党首代理のような男。緑画高校の生徒でもある。確か木属性の五芒星を探しに白神山地まで向かっていると聞いていたが、どうやらここまで戻ってきたようだ。


 そして……。


 「にゃああああ! この妖力は!」


 「どうやらお出ましのようでございやすね。木属性の五芒星。白神棗の姉さん」


 そこには旅館の女将のような鮮やかな着物をまとい、簪で髪を括った女の子が立っていた。彼女が木属性の五芒星、白神棗しらかみなつめである。童顔であまり大人びた印象は無いが、その目は鋭く蟹坊主の方を睨んでいる。相良十次が連れてきたのだ。これで土属性を除く五芒星の全員が集合した事になる。


 「……マジで悪霊になっているよ……竜宮真名子のやつ。しかも、残り二人も五芒星がいるし……。これって本気でコイツを党首任命する気かよ……」


 「悪霊で悪かったな。私が殺される瞬間を目撃して、ショックで山に引き籠ったと聞いていたけど、無事に社会復帰したんだな」


 「えぇ! 小声で喋ったのに! なんで聞こえているの!」


 それは柵野眼の能力である悪鬼羅刹強襲之構フィーリングアサルトゲイザーが『波』を操る能力なのだから、音も敏感に察知出来るのだ、なんて解説は入れない。列車の中から遠目で姿だけ見ると、すぐに視線を逸らした。運転席の下で縮こまっていた夜回が飛び出して来た。絵之木ピアノも額の汗を拭って、ようやく不安が取れた顔つきになった。


 敵が大型妖怪を出現させ自分たちは逃げ出したお陰で、橋の上は大きくスペースが空いている。相良十次は至る所に障子を出現させて、そこから次々に緑画高校の制服を着た学生が姿を現す。形成が逆転したとは言わないが、ようやく柵野眼を抜きにして敵と戦える戦力が整ったと言える。


 「にゃあ! 北九州の方に陰陽師たちは逃げたにゃあ。彼らを追うにゃあ。このデガブツは私が抑えておくにゃあ」


 猫又の三味線で幻覚を見せるも、あんまり朱の盆には効果が無いように思える。彼女は高速移動で奴の額の傍まで移動すると、角の部分を抱き抱え、橋にヒビが入るくらい全身に力を入れると、山の方へと投げ捨ててしまった。目を疑う程の怪力である。


 「ここで大妖怪を抑える班と、追跡班に別れるにゃあ」


 相手は四匹だ。しかもサイズからして一筋縄ではいかない。構図的に矢継林続期が朱の盆を担当する流れとして、既に因幡辺は海の上で蛸入道と交戦している。絡まる触手を白溶裔しろうねりで引っ張って、引き千切り合いになっている。彼女も苦戦しているようだ。


 「私の妖怪は空は飛べるけど、非力なのが多い。出来れば陸上で戦いたいから、あの蟹坊主と戦わせて。地面が広ければ私は優位なの」


 山口県側の橋の方へ白神棗が駆け出して行く。栄螺鬼と戦わないのは、奴が単純に硬い殻で覆われているので、それなりのパワーを求められるから、それが嫌で因幡辺と白神棗は遠慮したのだ。確かにあんな防御自慢のような相手とは誰でも戦いたくない。


 「相良十次君。君は逃げた連中を追うんだ。君が党首になる男ならば、君はソッチへ行くべきだろう」


 「でも、あと厄介な妖怪が一匹いるじゃないですか」


 「アイツは残りの緑画メンバーでお相手する。緑画高校のメンバーを半分に分ける。小回りが効く妖怪を持つ陰陽師は相良君に続け! 大型妖怪や力自慢の妖怪を持つ生徒はこの場に残り、私と一緒に栄螺鬼の迎撃だ」


 相良十次は大きく首を縦に振ると、そのまま矢継林続期のいる方向へ走り出した。同時に何名かの生徒が駆け出していく。この場の迎撃も大切なのだが、本丸は逃げたアッチの方にいる。ここで一気に戦力を減らす算段だろうが、きっとまだ戦略は残っているはずだ。敵の戦力が未知数である以上は、出来るだけソッチに人員を回したい。


 「ここに残るのは理事長だけでいいよ。あの栄螺とは私が戦う」


 遂に空に浮く幽霊列車から倉掛百花が降り立った。ギロっと鋭い目で栄螺の方を睨む。カーデガンのポケットに手を突っ込んで、片目を瞑りながら面倒な顔つきで太平洋側の海を眺める。


 「え、でも……」


 「五芒星がここを凌ぐって話になっているでしょ。別にこの闘いの後に暴れたりしないから。私に『これからの陰陽師』ってのを見せてよ。渡島塔吾、相良十次! この戦争は私が絶望する為の戦いにしないで、私を納得させる為の戦いにして」


 矢継林続期が一瞬だけコッチを見て嫌そうな顔をしたが、すぐに自分の戦いに注意を戻した。彼女も受け入れてくれたのだろうか。倉掛百花の鶴の一声を聞いて、緑画高校の生徒が一斉に橋の外へと駆け出す。相良十次を先頭に。


 相良が矢継林続期とすれ違った。


 「色々、迷惑かけたな」


 「ここは任せるにゃあ。しっかり勝てよ、未来の党首様」


 相良十次は全速力で駆け抜けて行った。これで橋の上に残ったのは五芒星たちと理事長だけになる。


 「さぁ、私の本気を見せてやるにゃあ」


 「役者は揃ったようでござんすね。アッシも全力でお勤めを果たさせて貰いやしょう」


 「あーもう! 私も戦わなくちゃならないじゃない! やっぱりあの相良って奴、アタシは嫌い!!」


 「…………殺るか」


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