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栄螺

 この作戦の主旨は察する事ができる。狙いは五芒星の消耗だ。いくら莫大な妖力を持っていたとしても、陰陽師である以上は妖力には限界がある。これは体力と同じで根性論でどうにかなる問題じゃない。どんな雑魚を相手にしても、1勝を勝ち取る間にはそれなりにエネルギーを失う。そうやって弱らせるのが目的なのだ。


 だから奴らは思い切った攻撃をして来ない。殴りかかっている連中は渾身の一撃を放っているだろうが、あんな妖怪で倒せないのは戦況を見ていれば分かるだろう。倒しきる段階ではない、今はとにかく消耗させるのが先だ。そういう事だ。だから奴らの作戦の欠陥としては、五芒星の1人が戦場にいないこと。水属性がまだ幽霊列車の中で様子を伺っている事である。


 「さぁ、さっきから壁の奥で引き籠っているジジイ。このままだと、貴様が切り札を出した瞬間に私が形成を逆転させるぞ。さぁ、どうする?」


 暗殺は失敗した。そろそろ一般人の人質というカードを切ってくるタイミングだろうか。


 「どう? 絵之木ピアノ。人数は減ってきた?」


 「残念ながら全く出現する妖怪の勢いが止みません。このままでは……。それと、海岸沿いから超大型の妖怪が東西南北から押し寄せてきます」


 残弾は山ほどある。まだ勝負に出る機会ではない。それよりも奥に控えている竜宮真名子を引きずり出すのが先決だ。そう思われているのだろう。


 「二人が危ない。助けに行くべきだろうか」


 どうしてこの場を戦場に選んだのだろうか。大人数で押し切るならば広い土地の方が有利のはず。わざわざ橋の上なんて、動きが制限される場所を選ぶメリットはない。だが、この場所は決戦ステージとしては由緒正しい場所だ。周りが海で逃げられないという、まさに背水の陣と化すこの場所は、幾多のドラマを生んできた。


 壇ノ浦の戦いで安徳天皇が入水し、平家一門が滅亡した。宮本武蔵と佐々木小次郎による巌流島での決闘が行われた。下関条約が結ばれた場所でもある。ここは日本の歴史の中で、火花を散らす場所なのだ。もし、この場所を選ぶ理由があるとすれば……。


 「偉く縁起が良い爺さんだ。歴史を塗り替える気なのか」

 

 もし五芒星に無理矢理に党首に任命させる事を目的に戦っていないとすれば。党首の座なんてどうでもいいと思っているとすれば。正義の味方である五芒星をここで潰したいと思っているだけとすれば。


 「あぁ、そういうこと。五芒星なんて彼らには必要ない。世紀末から新しい世界を構築するのに、秩序を語る巫女なんて目障りなだけってことか」


 奴らは漏れなく私たちを殺す腹積もりだ。人質交渉などするはずがない。初めから相手は、五芒星たちを殺す腹積もりしかないのだから。と、考えに行き着いた瞬間に戦場は第二ラウンドに突入する。この場を選んだ理由は、自分たちの逃げ場を無くす為ではないらしい。むしろ五芒星の一味を逃がさない為だ。


 一気に四匹の超大型妖怪が東西南北に立ち並ぶ。まず北の日本海側から栄螺鬼さざえおにと呼ばれる鬼が現れた。人間のような両腕を持ち、貝の蓋の部分に目のついたサザエの姿をしている。大きさは横幅が橋の三分の一を締める程だ。見た目からかなり頑丈なイメージがある。


 太平洋側からは蛸入道たこにゅうどう。巨大なタコの姿をしているのに、頭がタコなのに人間の顔のように見える。見た目は可愛らしのだが、どうもあの触手が曲者で、海に引きずり下ろされたら勝ち目はないだろう。


 山口県側からは蟹坊主かにぼうずという妖怪だ。山梨県の妖怪で全長は4メートル。奴が動き度に地震でも起きているように、地面が揺れる。巨大な蟹なのに武将のように頭の上に兜を被っていて、腰には鎧を纏っている。今までの4匹は水属性だったので竜宮真名子の生前の知識で名前が分かった。しかし、九州側からやってきた妖怪だけが名前が分からない。


 鮟鱇アンコウのように見えるが水属性ではない。鬼の顔だけの妖怪としか表現できない、口が大きく避けており、一つ目で巨大だ。角がデコに一本ある。鼻も大きく、鼻息が荒い。輪郭が横長で見た目は地中に生息していそうな深海魚だ。しかし、全体を見ると雲や煙のようにモヤのかかった姿をしているようにも見える。


 「朱之盆しゅのぼん。火属性の中でもかなり厄介な野郎だ……」 


 矢継林続期が嫌そうな顔をして言った。冷や汗を流しながら、唇を噛んでいる。朱之盆しゅのぼん、それがこの妖怪の名前であろう。栄螺さざえたこかに鮟鱇あんこう。こうして、見渡す程の大きさの妖怪が四匹も同時に出現してしまった。


 「相手も切り札を使ってきたな」


 「こんな巨大な妖怪を四匹も相手にするなんて……。どうやったらこんな戦力を整えられるのでしょう!!」


 「あの頭の大きい爺さんの使い手である陰陽師。かなりの手練てだれかもね。これは私を温存する余裕はないかも」


 すると、因幡辺が懐から一枚のかなり装飾が薄い御札を一枚取り出す。この危機を察したのか、遂に彼女も切り札を使う気になったのだろうか。


 「出し惜しみ出来やせんねぇ。来い!! 白溶裔しろうねり!!」

朱の盆は鮟鱇と表現していますが、鮟鱇とは何の関係もない妖怪です。

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