表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
179/221

甲羅


 「あなた達が自殺志願者?」


 「……あぁ?」


 開門海峡。本州の下関市と九州の北九州市を隔てる海峡。その裏側である荒廃した橋の上に、大軍が押し寄せていた。ざっと数えて200人以上はいる。ただ陰陽師の服装や礼服は着用しておらず、オッサンの普段着みたいな思い思いの下手な格好をしている。エリート進学校のお坊ちゃんが高校デビューしようとして、下手に真似して失敗する感じに似ている。霊界の風景と相極まって一段と似合っていない。


 「随分と楽しそうな集団だにゃあ。いい歳したオッサンがだらしないにゃあ」


 「有り余る力は身を滅ぼす。まさに彼らは心が腐っていますね」


 まだ地上へは降りていない。幽霊列車の上で奴らの動向を睨んでいる。地上に降りてくるようにメガホンで呼びかけられるが今は無視している。と、思いきやテレパシーでさっそく倉掛百花が喧嘩を売ってしまった。様子を伺うという事を知らない彼女は、もう出会った瞬間に全面戦争だと思っていたのだ。


 「お願いだから何もしないで百花ちゃん!!」


 「…………はぁ」


 荒廃した橋の上にはうじゃうじゃと人がいる。それだけではない、式神も多種多様に蠢いており、陰陽師の野心を感じ取ってなのか、目つきが悪く凶暴化しているイメージがある。幽霊列車に乗り込んできた『しょうけら』も確認出来た。この中の誰かの式神であろう。彼らは元地方の所属の陰陽師であり、本部解体と共に党首不在で自分たちを縛る相手がいなくなったので、自由行動を取っている暴れん坊たちである。


 体はウロコで覆われくちばしがあり、背中には亀の甲羅、頭には皿を乗せている妖怪がいる。河童だ、柵野眼は竜宮真名子の知識を拾い上げて妖怪の名前が分かる。全国でも有名な妖怪だが、この九州がメジャーな妖怪ではある。また、九州の妖怪と言えば、あの塗り壁も確認できる。九州の陰陽師が集まっているのかもしれない。


 集まっている陰陽師たちは、陰陽師と思えない。飢えた野獣のように、目をギラギラさせて物欲しそうにコッチを見ている。あれが理性を保っている大人がやっているから、気持ちが悪い。精神が汚染しきっている。妖力が濁り始めており波動が不安定である。


 人間には普通は特殊な力などない。だから、そんな人間を守らなくてはいけない。だが、そんな陰陽師の大原則も、もう彼らの思考には存在しないのだ。あるのは自分たちが好きに遊ぶための庭である。おおよそ五芒星なんて面倒な連中ははやく始末するに限る。そうでなくても利用してやろうという魂胆だ。


 「降りて来いよ!! 腰抜けども!!」

 

 「女の子相手に数で圧倒して囲い込んでいる連中に『腰抜け』とか言われたくないにゃあ!!」


 「同意いたしやす」


 「ほんとそれね」


 相手も馬鹿ではない。いや、動機は馬鹿なのだが、闘いの戦術としては賢い。質で勝てないならば数で圧倒する。常套手段だ。まぁ、レベル4を目の前にしては無駄な足掻きだが。残りの五芒星である因幡辺と矢継林続期には有効かもしれない。近接戦闘組にはこの戦術は痛いはずだ。


 ちなみに攻撃手段すらない夜回茶道は幽霊列車の運転席に逃げ込んでしまった。この戦いが終わるまで出て来ないだろう。絵之木ピアノは柵野眼を除いて唯一の遠距離砲台だが、この人数を捌くのは至難の技だ。


 三人でこの状況を切り抜ける事は難しいだろう。特に無関係の一般人である人質を用意されている状況では。ここまで妖怪の種類が違うのが多種多様に存在すると、対処法を考える余裕すらない。わざわざ罠に嵌った、やはり緑画高校で援軍を引き入れてから向かうべきだったかもしれない。


 「どう、三人で勝てるの?」


 「勝てる勝てないではなく、勝つ!! それだけにゃあ」


 「予想通りの展開ではありやす。私の式神は白兎しろうさぎだけではありませんし、如何程いかほどにも裁き用はありますよ」


 「私が援護します。早撃ちには絶対の自信があります」


 強がっている。確かに絵之木はともかく残りの因幡と矢継林は強い。五芒星の称号は伊達ではない。だが、相手の中には曲がりなりにも党首を目指すレベルの奴がいる。七巻龍雅の大百足のように捕獲不能レベルの妖怪を持っているかもしれない。


 「三人を私は信じている、仲間だと思っているから。でも、仲間だからこそ、問答無用で助けてあげたい。だから、苦戦するようなら参戦するから。悪霊の力はなるべく使わないわ。だから……」


 「駄目にゃあ!!」


 「お気持ちはありがたいでござんすが、不必要でござんしょう。アッシ等にお任せくださいよぉ、倉掛のお姉さん。汚れ役はアッシ等が勤めやす」

 

 「上空にマウントしています。制空権を握っている時点でコッチが有利。あとは人質さえ奪い返せば、それで済む話です。ご安心して座っていてください」


 倉掛百花は気になっていた。この三人が自信満々な顔で頷きあっている時にも、どうしても気がかりがあった。奴らの中に一匹だけ明らかに妖力の量と質が桁外れな妖怪がいるのだ。見た目は全く強そうではないのだが。

昨日は飲み会で今日も更新が遅れてすいませんでした。

評価、感想、レビューお待ちしています。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ