感謝
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倉掛絶花は人から嫌われている。人から嫌われる理由は大きく訳で4つほどある。無趣味、正論、否定・批判、自己中心的思考。絶花はこの全てを持ち合わせている。気に入らない相手は徹底的に理屈でねじ伏せるし、間違っている事を間違いだとハッキリ言う。他人の趣味に合わせて流行りの物に手を出したりせず、とことん自分の好きな事を貫く。我が儘で自分勝手で強情で陰湿で意識が高くて、それでも誰かを守りたいと思っているのが倉掛絶花という少年だ。
誰も絶花と友達にはならない。学校では完全に孤立している。夏休み明けの投稿初日に学校へ行かなかった時は、担任教師から本気で登校拒否になったのかと心配されたレベルである。絶花は他人と違う事をしても気にしない。馬鹿にされたら徹底的にやっつける。誰にも負けない。そんな感じだから孤立した。本人は陰陽師として丁度いいと解釈した。裏では彼らの暮らしを守る為に、必死に悪霊と戦っていたのに。
親しい間柄を嫌い、馴れ馴れしい関係を嫌い、人と触れ合う事を嫌った。誰からも賞賛されて崇め奉られて親しまれて、平和の象徴になることを拒んだ。嫌われ者で厄介者で疎ましく思われて、それでも誰かを救うダークヒーローになろうと思った。特撮番組や最近のアニメでは、性格が悪くて難癖あるヒーローが世界を救っている。そういう感じのヒーローを目指した。幸い絶花に孤独は痛みにならなかった。
ここ最近の夏休みになって絶花に家族が出来た。今まで完全に一人ぼっちだった男に姉が出来た。自分を邪険にする嫌味な姉だった。姉との母親が違った。それは自分の父親が原因で、家族内の環境は最悪だった。絶花の異常行動も相極まって、最初は姉との距離をかなり感じた。
絶花は姉に対しても態度を変えない。だが、姉は陰陽師でもなく同学年でも無かったので、意識が高い事を押し付ける事は発生しなかった。正論を言う機会も批判するような場面も無かった。姉は家事炊事が出来た、絶花は全く出来ないのでひたすら感謝できた。姉は距離感を保ってくれるので、趣味の話や旬な話題を振る危険がないので以外に拗れなかった。
何よりお互いがどんなに嫌いでも食事は一緒に取っていた。だから、完全に関係を離れてはくれない。絶花にとって唯一、目の前から逃げ出さない女性だった。優しい姉ではない、頼れる姉ではない。でも、絶花にとって唯一無二の掛け替えのない存在だった。大切な人だと思った。ずっと一緒にいたいと思った。だから、姉が悪霊になった時はショックだった。自分は陰陽師だから。
孤独の痛みを知った矢先である。姉の温かさが身に染みた瞬間だった。たった1人の絶花の味方である姉が目の前からいなくなってしまった。今まで何とも感じなかった孤独感が一気に押し寄せた。今まで連戦連勝の無敗神話を誇っていた絶花の自尊心が崩れかけた。自分はダークヒーローなどではなく、ただの嫌われ者なのではないか。
陰陽師の在り方は変わろうとしている。年功序列やお家柄騒動や妖怪を奴隷とする関係を撤廃など、今まで絶花が真髄としてきた『正しさ』が崩壊しつつある。自分はナルシストで嫌われ者で、誰も友達がいなくて、不幸せで、ツマラナイ人間だ。中学二年生にして、ようやく自分の事を客観的に判断してしまったのである。絶花が生まれて始めて他人からの視線を気にしたのだ。
絶花は誰からも感謝などされていなかった。格好良く悪霊を退治する自分に酔いしれているだけだ。自分の価値観を相手に押し付けて優越感に浸っているだけだ。絶花は自分が嫌いになりそうになった。人を救う意味が見いだせなくなった。学校に行ってもつまらなくなった。今までは気に掛からなかったのに、クラス全員から無視されて除け者にされて、会話もせずに1人で給食を食べるのが急に虚しくなった。負け犬にでもなった気分だった。
こんな苦しみを脱却するには姉を取り戻すしかない。今までの自信満々の倉掛絶花を取り戻すのだ。誰がそばにいなくても孤独じゃない。例え世界中が自分の敵になろうとも自分には倉掛百花がいる。そう思えれば、まだ明日を生きていく元気が生まれるから。それだけで、心の平静を保てるから。自分が好きになれるから。
八岐大蛇を復活させた。そのおかげで多くの妖怪が死んだ。地形が変化し民家は壊れ、災害跡地のようになった。取り返しのつかないほどの他人に対する大迷惑である。古の妖怪など封印していれば良かったのだ。無理にも倒す必要など欠片もない。もっと別にやるべき事が山のようにあったはずだ。そもそも悪霊になった姉を受け入れれば話は済んだはずなのだ。でも絶花にはどうしてもそれが出来なかった。
罪悪感が胸を侵食する。本当な不幸な自分を嘆いて逃げ出してしまいたい。タイムマシンがあるならば、幼稚園にでも戻って友達と仲良く歩む人生を目指したい。失った者は返って来ない。深く刺さった傷は回復しない。もう絶花が何をどう頑張っても、苫鞠中学校で順応するのは不可能だろう。そんな苦しみを吐き捨てるように、寝静まった八岐大蛇の首に十束剣を振り下ろし続けた。
こんな回があるから読者を失うのだと思う。
( ;´・_・`)ぅ・・ぅん




