土地
倉掛絶花が絶賛行方不明である。自宅に帰って来ない、いくらなんでも遅すぎる。メールに連絡も帰って来ない、既読にもならない。完全なる音信不通で連絡が取れない。多少は自分勝手な性格を許してきたが、今日ほど苛立ちを覚えた日はない。それは自分に対してもである。あれだけ嫌いだった弟を必死で心配している自分が。
母親がパートから帰ってきた。絶花が帰宅しない事を報告すると、最初はいつものマイペースだと取り乱さなかったが、徐々に状況が飲み込めたらしく焦り顔になった。絶花の居場所の特定が出来ない。何かしらの結界で封じられている。探知を妨害している力が働いているらしい。つまり、絶花は完全に誘拐されたのだ。生死が危ぶまれる状況である。
絶花を誘拐するメリットは大きい。最凶の悪霊である柵野眼の唯一の弱点と言っても過言ではない。彼女が一番に効果的な人質だ。捨て置くことが出来ない大切な弟だ。しかし、ここで敵の正体が掴めないのである。『倉掛絶花を誘拐した。返して欲しくば……』なんて感じで現れたなら、言弾で瞬殺するだけだ。緑画高校の人間とは思えない、緑画の方針は私を敵ではなく五芒星の一角である味方として認識している。では、地方の陰陽師だろうか。一体、倉掛百花がレベル4の悪霊になってしまったことなど、誰が知っているという。
何の手がかりもないまま、絶花が消えて居場所が特定出来ない状況なのだ。
「弟君に個人的な恨みのある輩の仕業かもしれないにゃ」
「そんな細かい事まで考え出したら、どんな理由で誘拐したのか分からないでしょ。私が悪霊であることを知っていて、尚且つ絶花を誘拐してメリットのある人間を考えなきゃ」
倉掛百花と矢継林続期は家を出た。御札で霊界へと潜り捜索へと出かけた。元苫鞠陰陽師機関に立ち寄ったが、そこに残っていた陰陽師に話を聞くと、絶花は今日は事務所に姿を出していないらしい。つまり、仕事の依頼で悪霊討伐に出かけたのではないと考えられる。では、どこに言った? 奴が他県に知り合いがいるとも思えないのだが。根っからの嫌われ者なので。
「それにしても、列車を出して貰って悪いね」
「いいですよ。女の子同士仲良くやりましょうよ。どうせ、今まで作戦に参加させて貰えてなかった謹慎処分の身ですから」
霊界は現実世界の土地の大きさと全く同じ広さである。現と反対側の世界なのだ。つまり、飛行手段の無い倉掛百花、矢継林続期の二人は急遽、追加メンバーに捜索の協力を依頼した。夜回茶道と絵之木ピアノである。以前は絶花と共に襲われた宿敵だが、今は利害の一致により味方してもらっている。
「第八小隊は壊滅しました。メンバーは全員、漏れなく謹慎処分だったのですが、今は緑画高校も深刻な人手不足なもので。私と絵之木はここの協力に回れと理事長先生からご通達がありました」
「すまない。私が居場所を特定できれば良かったのだが。相手もかなりの手練だろう」
取り敢えず緑画高校へと向かっている。矢鱈に探し回っても拉致があかない。誘拐犯がアクションを起こした時に迅速な対応が出来るように移動しておくのだ。
「ねぇ、続期。私がレベル4の悪霊って知っている人間ってどれくらいいるかな」
「そうだにゃあ。緑画高校の生徒と先生と理事長。相良十次に竜宮関係者。それを除くと、強力な悪霊感知能力がある人間と、残るは『五芒星』かな」
そう、五芒星が特殊な妖力によって意思伝達をしている。勿論、記憶を共有したり、居場所を知らせたり、意思疎通は全く出来ない。だが、何となく重要な事だけは言わずとも五人で共有しているのだ。これは何となくというフィーリングみたいな物である。妖力が悪霊の物と成り代わり汚れたのは、他の五芒星だって感づいているはずなのだ。
だから、矢継林続期は御門城へと向かった。新たな党首を誕生させる為に。土御門カヤノは倉掛絶花を匿った。新たな党首を導き出す為に。白神棗は動くことを拒んだ。事の重大さと壮大さに絶望し、立ち向かう勇気が無くなったから。因幡辺は陰陽師を潰しだした。柵野眼の行動に感服し、悪事を働く陰陽師を消す事が、世紀末である今の陰陽師の世界を元に戻す方法だと思ったから。そのまんま、倉掛百花と同じ発想である。若干、五芒星の使命と合致しているのが始末が悪い。
そして、この妖力共有システムを倉掛百花だけが共有していない。だって倉掛百花が五芒星なのではなく、竜宮真名子が五芒星だから。容姿は紛れもなく竜宮真名子が高校生に成長した姿だ。だが、精神は倉掛百花寄りである。勿論、全てが完全に分断されてはいない。お互いに様々な部分を持ち合わせている。だが、この五芒星とのコネクトは送信は出来ても、受信は出来ないという結論に至るのだ。
だから実は矢継林続期は絶花が五芒星の誰かと行動しているのを知っている。微かに絶花の妖力が、当たっているのを感じる。
「木は引きこもった。金は生中継されて誘拐どころじゃない。さて、残るは土属性にゃ。ただ居場所が分からないにゃ」
「やっぱり五芒星が犯人だったか。アイツ等は私が悪霊になった事を知っているから」
「問題児が多すぎて困るにゃ」




