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方舟

 ★


 世界は混乱期に入っていた。陰陽師は党首になろうとする相良十次やレベル4の悪霊である倉掛百花の想像を遥かに超えて崩壊しつつあった。洗脳の技術を一般人に使用しているのは、柵野眼だけではない。地方の陰陽師が自らの培ってきた能力を暴走させて、一般人に危害を加えたのだ。洗脳による亀裂はただの序章だった。


 以前に緑画高校の生徒が地方の陰陽師を狙い撃ちした事件があった。倉掛兄弟もその被害にあっている。幽霊列車の事件がまさにそれだ。しかし、そんな事は日常茶飯事に頻繁に起こっていたのである。今は相良十次と渡島塔吾の掛け声により、その攻撃も沈静化した。しかし、爪痕が消え去る事はない。時代に取り残された老害と呼ばれる陰陽師は、想像絶するように狂った。


 党首の存在が消えて自分を見張る存在がいなくなった。人間は人知を超えた力を手にすると精神さえも変貌する。今まで何の為に一般人を命懸けで守り続けていたのか。なぜ党首を神聖視して崇めていたのか。何で社会の裏側で隠れるように生きているのか。どうして誰からも感謝されないのか。新陰陽師と名乗る連中からの襲撃により、自分たちが時代に取り残された、ノアの方舟に乗せて貰えなかった民なのだと感じた。


 ここからは荒れ狂うばかりだった。無法地帯と化して全ての陰陽師機関は完膚無きまでに崩壊。事務所は崩れ去り、器物は破損する。絶えず陰陽師同士での暴動が止まない。更には自分の固まった正義感によって、これから自分が党首になると言い出す連中が後を立たない。七巻龍雅もその1人であった。戦国時代が如く霊界では陰陽師が式神を駆使して戦争し放題である。


 ここで話は収まらない。一般人にまで危害を加えたのだ。偉い政治家の精神を乗っ取ったり、気に入らない歌手に怪我を負わせてみたり、一般人を洗脳して軍隊のように指揮してみたり。とうとう陰陽師だけの問題ではなくなった。陰陽師という存在を認知していた政治家は、血管が切れるかのように怒り狂った。しかし、その怒りをぶつける相手がいない。相良十次に言おう物ならお門違いだ。彼はむしろ限界まで復興に尽力している。そして、他に目星い奴はいない。


 最悪の悪霊の出現に、最悪の時代。これが現実である。


 遂に老害である陰陽師の人間が大きく動き出したのである。大物社長を拉致、そして監禁。自分たちは陰陽師だと名乗る連中が、とある会社でテロを起こしてしまったのだ。マスコミはこれを大々的に発表。ただの馬鹿な連中が騒いでいるだけと、いつものネタ拾いで取り上げたのだろうが、これが最悪だった。

だって、相手は本物の陰陽師なのだから。洒落じゃなかったのである。


 式神が警察官を攻撃した。殺害には至らなかったが、血を流し重症を負う。拳銃やライオットシールド、防弾チョッキなど陰陽師の前では役に立たない。突入隊が手堅い反撃に合い、身代金だけ奪われて、ほぼ全滅して人質を助けられないという前代未聞の大事件へと発展した。更には自分たちが日本を支配すると公言まで仕出かす大始末。もう手の付けられない大惨事だ。


 彼女が現れるまでは。


 「これはこれは警察の皆々様。ご無沙汰してぇございやす。そこをどいておくんなせぇ」


 「…………誰だ、君は。ここは立ち入り禁止だ。ここを通す訳にはいかない」


 「この期に及んでそんな世迷いごとを。もう警察なんぞでは太刀打ち出来ないのは明白でございやしょう。ここは1つ、プロの専門家に任せてくれやしませんか」


 「君は……陰陽師なのか」


 「聞かれて名乗るもの烏滸がましいが、聞かれたからには名乗らせて貰いやしょう。お控えなすって。姓は因幡いなば、名はあたり。陰陽師を裁く陰陽師にございやす。この混沌とした時代に、秩序を齎すべく参上致しやした。陰陽師を愚弄する行い、それ即ち死刑。お勤め果たさせていただきやす」


 三度傘を深く被り、長楊枝を口に咥えている。低身長で小柄なイメージがある。黒いマントを着ていて、世捨て人のような格好だ。腰には無数の独楽を装備して、如何にも頭のおかしい江戸っ子口調に似せた痛々しいコスチュームをしている。肩の上には彼女と同じように長楊枝を咥えた前髪が特徴的に曲がっているウサギがいる。


 「この因幡辺いなばあたり。粉骨砕身の思いにござんす。今まで五芒星として陰陽師の社会に顔を出さず、大人しく行く末を見守る所存でございやしたが、まさか私の代で世紀末になろうとは。結構、結構。ならば我が使命を果たすのみ」


 「ちょっと待ちなさい。死刑ってどういう意味だ。人殺しになるつもりか」


 「ご心配なさらず、人間の方は半殺しで差し上げますよ。殺すのは妖怪のほうだけって感じで。お願ぇ致しやす」


 風にマントが揺れながら三度傘を右手で抑えて、颯爽と歩く彼女。警察は唖然とした顔で彼女を眺めていた。今すぐにでも彼女を引き止めに入るべきだろうが、そうはいかなかった。彼女のすぐ頭上には、極めて恐ろしい巨大な妖怪が迫っていたからである。お歯黒を付けたかのように真っ黒な歯を剥き出しにし、三本指の両手を振り上げる、三段腹で真っ裸で頭や胴体もシワだらけの、ハゲた鬼が襲いかかっていたのだから。

これで五芒星が全員ですね。

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