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羽衣


 相良十次には式神が三匹いる。目目連、夜幢丸、そして面来染部つららいせんべという男だ。面来染部は妖怪じゃない、いわばレベル3の悪霊である。昔はバックミラーで地縛霊などしていた男で、竜宮真名子をおかしくした柵野栄助の側近だった男である。彼は1人の少女を愛していた。その彼女は柵野栄助に狙われて悪霊の媒介になり、相良十次はその女を拘束した。禁術を使って目目連の亜空間に閉じ込めて、最後には闘いの犠牲になって彼女の魂は消えた。


 陰陽師は一般人を戦いに巻き込む事は許されない。この事はこの事件に関わった偉い連中に揉み消された。彼女は初めからいない存在として処理された。当然、面来染部は憤怒する。相良十次は殺されかけた。罪滅ぼしをする約束で見逃してもらった。主犯格は面来染部と相良十次の目の前で死んだ。だからといって、彼の心に背負った十字架が消える事はない。


 一生、罪を背負って生きていくのだ。存在を抹消してしまった彼女の無念を晴らす為にも。


 「本当はこの力は見せたくなかった。陰陽師の存在意義を否定する物に等しいから。でも、俺の奥の手を見せるぜ」


 そう言いつつも肩の上に直立し、二匹のなまはげを睨む。赤面がジジナマハゲ、青面がババナマハゲと呼ぶ。包丁を片手に鬼の形相で激しく睨む二匹。ギャラリーである鶴見牡丹や他の妖怪も、巨大な妖怪同士の戦いに注視する。


 「なまはげを先に倒すつもり……。いやでも、あんな所に登ってどうするつもりよ。逃げ場を失っただけじゃない。天狗、蝶化身。一気に畳み掛けて!!」


 呼び声と共に二種類の式神の軍勢が四方八方から襲撃してくる。しかし、相良十次は障子を使って逃げ出そうとしない。これではまさに袋の鼠である。彼は目を瞑ったままゆっくりと深呼吸して、自分の身体の中に眠る命の炎を外界へと解き放った。


 その近くに浮遊していた妖怪の全てがドス黒いオーラを全身の浴びる。次の瞬間に無残な悲鳴をあげて妖怪たちが上空から地面へと墜落する。全ての式神が相良十次の返り討ちにあった。天狗と蝶化身の羽が汚らしく無残に散る。


 「悪霊装甲、羽衣『かぐや』」


 羽衣と称したが実際は暖房衣服のマフラーだった。生前に面来染部が着用していた物である。もうこの世界に面来染部はいないのだ。彼は相良十次に全てを託した。自分の愛するべき人を監禁して、一般人抹消の片棒を担がせた相良十次に全ての未来を託して消えたのだ。彼の死因は自殺であった。彼女のいない世界にこれ以上はいたくない。仇討ちを成功させたら死んでもいい。


 だが、面来染部は相良十次の事を完全には許せなかった。だから自分で自分の存在を消して武器になった。いつでもお前を見張っている、お前がまた陰陽師として間違った選択をすれば、その時は呪い殺すという契約で。相良十次は今回の倉掛百花が殺害された事件が起きる前から、陰陽師の存在の在り方について問題視していたのである。自分が犯してしまった罪と向き合いながら。


 「陰陽師が悪霊の力を利用するなんて」


 面来染部は悪霊である。だから彼から編み出されたこの武器は悪霊の波長を宿している。だが、陰陽師である彼が、悪霊の力を使うのは冒涜に等しい。悪霊と人間の全く異なる妖力を練り合わせることでレベル4の悪霊が完成するように、相良十次は悪霊と共に戦う事を念頭に置いていたのだ。


 さも、初代党首である安倍晴明が宿敵である妖怪を式神として武器にしたように。


 「陰陽師の世界がマトモになってくれ。コイツはそう言って死んだ。だから竜宮真名子の言葉にも俺は耳を傾けた。これからの悪霊から世界を守るには、こういう『悪霊の反逆者』の意思が必要なんだ」


 レベル3の悪霊には意思がある。ただの復讐や怨念だけの感情だけで動かない。生前の記憶を持って、自分という存在と向き合っているのがレベル3だ。彼らが無差別殺人や快楽殺人をしないのは実証済みだ。確かに陰陽師を敵対する者ばっかりだったが、そうでない反逆者も存在した。それが面来染部である。


 「悪霊を……武器に……。ふざけるなっ、お前なんか党首どころか陰陽師失格だ!!」


 格好良くもなく、作戦は卑怯で、陰陽師の暗黙の了解を破り、五芒星から嫌われている。それでも相良十次は言い切れるのだ。自分が党首になるのだと。そうアイツに約束したのだと。


 「肩の上にいる奴を狙え!! なまはげ!!」


 羽衣が大きさを変えた。両端から布地が増殖するかのように増えていき、なまはげのミノを回転しながら包んでいく。包丁で切り刻んで難を逃れようとするが、腕が絡まってしまい動けない。次第に絡まっていき顔も見えなくなった。


 「俺には陰陽師の世界を救う天命がある。だから、どんな手段も厭わない」


 白神棗はそれはもう血管が切れるかのように激怒していた。歯を強く噛み、拳を力いっぱい固めて、女の子に似合わずガニ股で仁王立ちして威嚇している。レベル3に母親を殺された経験がある彼女にとっては、これ以上にない屈辱だろう。だが、彼女自身には特殊な力はない。式神だけに戦わせる戦法の彼女には、身動きが取れなくなった妖怪を助ける事が出来ない。


 「夜幢丸、あとは頼んだ」

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