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舞妓

 ★


 鶴見牡丹は嫌そうな顔をしていた。相良十次はかなり追い詰められている。数の暴力によって屈しかけている。あの男は正義の味方でも主人公でもない。確かに血筋は優秀だ。元はヤンキーだが今は更生している部分もあげられる。合理主義者で優しさも持ち合わせて、誰かを本気で守ろうとしている。夢を持って、目的を持って、一番の座を狙っている。ここだけ聞くと主人公の適性があると思いがちだが、鶴見牡丹に言わせたら断言できるほど、あの男は主人公には向いていない。


 それは理不尽を乗り越える力がない、そういう意味だ。ヒーローとは圧倒的な理不尽を叩き潰し、どんな不利な状況からも立ち上がり、誰から馬鹿にされても、それでも常人の予想を遥かに上回る。それが出来るのが物語を最も盛り上げる存在だ。以前の鶴見牡丹の仲間であった主人公がその期待に応えていた。全てを超越して見せた、予想を上回った、絶対的不可能を跳ね除けた。彼は主人公であった。


 しかし、相良十次はそれが出来ない。合理主義者で感情で戦わない。優しい性格から心から誰かを憎めず、全てを理屈で打算してしまい、優秀な血筋だけで物事を解決してしまう。彼は傍から見ていて格好良くない。ただの『良い人』であり主人公ではない。


 「本当に駄目なやつだな。初めから自分には五芒星に勝てる実力なんかないから、鶴見牡丹様にご協力をお願いしたい。って言えば、少しは協力してやったのに。私もアイツが党首になればいいとは思っているからさ」


 「皆で仲良くが彼の真髄だとおっしゃっていましたね」


 近くのコロポックルが話に応じてきた。


 「でもアイツは一騎打ちを受け入れた。見栄とプライドを優先させた。勝てない勝負をする男じゃないのに」


 「勢いで挑発に乗ってしまったのでしょうか」


 「いいや。アイツは本当の意味で安倍晴明を否定しようとしているのかもね」


 安倍晴明は文献で残っている限りでは完璧超人だった。誰にも負けず、全てを守り、才を持ち合わせ、研鑽を積み、誰よりも努力し、多くの部下から信頼されて、優しく清潔感があり清らかで。


 …………そんな人間が党首になれるだろうか。この世界は漫画じゃない。ご都合主義など存在しない。現実は人間の薄汚い陰謀と欲望が渦巻くのがこの世界だ。本当の英雄が果たして誰からも信頼される皆のリーダーだったのだろうか。そんな人間が妖怪を式神として陰陽師の奴隷とするシステムを開発するだろうか。一般人は安倍晴明を誤解している、陰陽師は安倍晴明に執着し過ぎだ。誰かが今の時代から彼を否定しなくてはならない。


 新しい時代の幕開けは今までを否定し問題点を吟味しなくては始まらない。


 ★


 おでこを出し、前髪を垂らさず、後ろで一つのお団子ヘアーにしていて、髷の下の部分はおふくがけと呼ばれる赤い布でおさえる。舞妓の髪型の中でも『おふく』と呼ばれる髪型をしていて、舞妓として認めてもらえた証拠の髪型である。伸ばした首の先から、捕えた相良十次を小馬鹿にするように『ろくろ首』が顔を覗かせる。


 「おほほほほ。無様ねぇ、この程度の実力で党首になりたいだのと」


 「…………」


 「なんとか言ったらどうなの? そんなしかめっ面していないで」


 「俺の能力を把握しているつもりなら、この作戦は失敗だったな。俺はいつだって白神棗に勝利できる。俺には勝ち誇っている理由が分からない」


 「負け惜しみなんて、よっぽど殺されたいようね!!」


 締め付ける力が強くなる。このまま放置すると腕の骨を粉砕されそうだ。それを歯を食いしばりながら耐えている。足をバタつかせて抵抗してみるが、あまり効果はない。


 「貴方はもうおしまいよ。このまま絞め殺してあげる!!」


 「…………仕方がない。こんな真似だけはしたくなかったが」


 相良十次が突如として現れた障子の中に吸い込まれるように姿を消した。しかし締め付けられている状況は変わらない。ろくろ首ごと障子の中に無理やり吸い込んだのだ。数秒後、鶴見牡丹を除くその戦いを外で眺めていた一同が驚愕の顔をする。地面に沿う平行な形で障子が出現し、相良十次が土でも掘り返したようなポーズで帰還する。と、同時に障子が空中にも出現する。そこからは血だるまになったろくろ首が、岩場の上に無残な姿で帰ってきた。


 「倒したっていうの……亜空間で」


 信じられないという顔を浮かべる白神棗に対して、相良十次が冷淡に応える。


 「俺は何もしていないよ。ろくろ首を倒してくれたのは、一緒に落ちてきたアイツだよ」


 ろくろ首の傍には先ほどの戦いで障子の中に消した山姥の姿があった。この妖怪も血だるまで動けなくなっている。


 「固有の空間に山姥を鎖で動けなくしていた。その部屋にろくろ首と一緒に入って、山姥の拘束を解く。と、同時に山姥が一気に暴れ出す。理性が少ない暴れるだけの妖怪だ。俺を攻撃するつもりが、俺はろくろ首の肉壁でしっかり守られている。散々暴れまわったが、ろくろ首を包丁で滅多刺しにして、ろくろ首も山姥に反撃して……。最後は仲良く岩に落下でダメ押しだ」


 白神棗がここに来て始めて苦い顔になった。

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