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包丁

 ★


 相良十次は立ちはだかる脅威に挑んでいた。相手は五芒星の1人で木属性の陰陽師。白神棗しらかみなつめ。奇形の岩と丈の低い針葉樹、小さな池を配した天然の庭園のような一帯である場所に案内された。鶴見牡丹は参入しない、完全なる一騎打ち。互いに向かい合って距離を取る。相良十次は心に信念を思い出す。ここで勝たなければ陰陽師の未来はない。


 「なまはげ!! 出ておいで!!」


 現れたのは、大きな出刃包丁を持ち、鬼の面をしている化物だった。文句無しに『鬼』である。、イネ科植物のわらを編んで作られた雨具の一種で『ミノ』という服を着ている。ミノムシの語源だ。正月に現れて、「悪い子はいねがー」「泣ぐコはいねがー」と奇声を発しながら、家に入って怠け者の子供を探して暴れる。東方地方の教育の一環らしい。最近は行っていない伝統行事らしいが。


 問題はその大きさである。身長が10メートルもある巨人なのだ。それも一気に二匹もである。出刃包丁も大きさが人間の長さくらいだ。ミノが全身を覆っているせいで、包丁を握っている片手以外は足や手がどこにあるのかラインが見えない。しかも二匹とも相良を見下ろすようなポーズになっているので、前かがみになっている。余計に分からない。


 「あれ? 私のなまはげのイメージと違うのだけど。なまはげって人間より少し高いくらいだと思っていた。見越し入道くらいの高さだよ、あれ」


 「よくある勘違いですね。あれは伝統で人間がなまはげの格好をして練り歩くから、そういうイメージになっているだけで、実際のサイズはあれくらいなんですよ」


 鶴見牡丹は遠く離れた地で、他の部下と共に観戦している。その周りをキジムナーとコロポックルが囲っており、逃げ出せない状況だ。卑怯な作戦に出ないように監視しているようにも思える。


 「ようやく東方地方らしい妖怪が出てきたな」


 「私は全ての木の祝福を受けている。キジムナーもコロポックルも木の精霊だから呼び寄せられた。私は全ての植物の加護がある。この大きさならば、さっきの目目連が生み出した狭い部屋には隔離出来ないでしょ」


 「なるほど。これは気を引き締めないとな。最初っから切り札を出していくぜ。来い、夜幢丸!!」


 現れたのは史上最悪の妖怪とされる陰の力を持った妖怪。真っ黒の甲冑を纏い、顔まで鎧で埋め尽くされて、腰には日本刀を携えている。漆黒に覆われた落ち武者という風格だ。大きさは約15メートル。なまはげよりも一回り大きい。


 「なまはげよりも高い」


 「ただし一匹しかいない。数の上ではリードされているから、こっちも余裕じゃないさ」


 だが、夜幢丸となまはげの闘いではない。相良十次と白神棗の戦いだ。奴の式神はまだ『天狗』が残っている。こっちも『目目連』がいる。これは大怪獣バトルではないのだ、陰陽師同士の戦いだ。この勝負はいかに相手の大型妖怪をねじ伏せるかが勝負の鍵になる。


 「暗門滝あんもんだき陰陽師機関所属。白神棗。絶対にお前なんかを党首にさせない!!」


 「無所属、相良十次。俺は絶対に陰陽師機関の党首になる!!」


 なまはげの出刃包丁が容赦なく夜幢丸を切りつける。サイズが肩の高さまでしかないなまはげは、上向きに包丁を傾けて、首を掻っ切ろうとするが夜幢丸の腕に阻まれる。鋼鉄の甲冑には少しの傷すらつかない。この夜幢丸は前回の戦いで、疲弊していたとはいえあの四凶である窮奇を負かしてる。日本の中でも最強を名乗って良いほどの妖怪だ。なまはげの威力も決して弱い訳ではないのだが、まるで歯が立たない。


 「これでも死んだ前回の党首である阿部清隆あべのきよたかの秘蔵の式神だぜ。そう簡単には倒せないよ!!」


 「よそ見をするな」


 倒せない事は百も承知だった。狙いは注意を引きつけることである。彼女も同じ形の包丁を取り出して相良十次に斬りかかった。狙いも同じで首を狙っていく。それを間一髪で腰に巻いていた鎖鎌の鎌でセーブする。鍔迫り合いになったが、女性の力では押しきれない。白神から包丁を払って後ろに大きく距離を取る。


 「包丁は料理をする為にあるものだぜ。戦闘には向いていないよ性能が」


 「鎖鎌だって元は農業用具でしょ。お前に言われたくない」


 相良十次は考えていた。彼女にはなにか特殊な能力があるのではないかと。五芒星の実力は計り知れない。竜宮真名子も生前はかなりの実力者だった。矢継林続期も本気を出せばその辺の陰陽師が束になっても相手にならない。この白神棗もまだ正式には受け継いでいないかもしれないが、素晴らしい才能を持っているはずだ。


 「これ、自慢じゃないけどね。私は五芒星の中で『最も妖力がある』陰陽師なんだ。つまり全国で最強の妖力の蓄積量をほこる」


 「なんだと」


 「あの式神だって『数が多い』と思わなかった? 私はあんまり身体能力も高くないし、神秘的な強さもない。でも、私には誰にも負けない特技がある」


 白神棗が動いた。袖から数千枚の御札を取り出して空中にバラまく。相良十次も奴の恐ろしさに気がついて、焦ったような顔をする。後ずさりして悔しそうな表情を浮かべた。


 「数千の妖怪と式神契約しているって話だよ」


 この天狗の奥庭に……数千体の式神が出現した。

相良十次って名前は実は元ネタがあります。

孤児院を創設した教育者の石井十次です。

私が大学で教育を学んでいるので……。

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