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瓢箪

 「お婆さん。あんた、何者なんだ」


 「…………」


 答えない。お婆さんは嬉しそうな顔を浮かべたままシワを動かさずに、ただ座布団の上に綺麗に正座して動かなくなっている。相良十次も一瞬でその不気味さを感じ取った。彼女は自分たちが追い求めていた五芒星ではない可能性が高い。別の何者かである。その疑念が脳内に浮かんだ。それが恐怖へと変わる。


 「小娘。どうして私を人間じゃないと判断する?」


 「第六感。殺気が漏れている。何か怨念のようなものだ。私も性格が劇情型で人の話とか聞かないタイプの人間だからわかるのよ。その人間が狂っているかどうかくらい」


 「そんな物で決めつけられてもねぇ。根拠が曖昧じゃないか。私は確かに君たちの作戦に非協力的だが、情報提供もしっかりしているはずだ。儀式の場所を教えています。あなた方の宿敵ならばこんな真似はしないのでは?」


 最もらしき言葉を言っているが、もう相良十次の目は老人をいたわる目ではなく、威嚇するように睨みつけていた。形相から信用していなのがにじみ出ているように。正座を崩して胡座をかいて眉間にくっきりと皺を寄せる。


 「鶴見。もうコイツの話は半分に聞こうぜ。それよりも別働隊になった残りの連中が心配だ」


 「あの……どうして……」


 「急に饒舌になったな。確かに目は泳いでないが、さっきから顔とか動かな過ぎなんだよ。まるで自分が偽物だと悟られないように気をつけているみたいだな」


 外の風が吹き抜ける音が聞こえるくらい部屋の中が静かになった。もう誰も声を発しない。彼女は弁解もしないし、動揺や慌てる様子もないし、誤解を解こうという努力も見えない。なのに笑顔は相変わらずキープしたまま、正座して正面を向いている。ただ殺気だけが相良十次でも肌で感じ取れるまで肥大化していく。


 「何か言ったらどうだ? 本物の白神柄杓しらかみひしゃくをどこへやった? お前は何者だ?」


 「相良くん。答えるはずがないよ」


 「この感じは本当に人間じゃないな。悪霊か? いや、そんな感じもしない。妖怪なのか」


 妖怪は基本的に陰陽師を恐れている。式神になれば一生その家計の奴隷だ。こんな田舎であればその風習は根強いだろう。もし陰陽師に対して物怖じしない妖怪がいるとすれば、それが捕獲不能レベルの妖怪だ。倉掛絶花の化け鯨、七巻龍雅の大百足。海坊主、ガシャドクロ、九頭竜、土蜘蛛、烏天狗などの妖怪がいる。鶴見牡丹が所持している牡丹燈篭という妖怪も捕獲不能レベルだ。と言ってみると数多くいるように聞こえるが、そんなに複数体いないのが現状である。


 「いい加減、正体を現せ。お前の負けだ」


 「負け。そうか、あの時もお前はそう言った」


 ……ようやく声を出したかと思ったら随分と意味不明である。あの時だと? 確かに相良十次は性格がああまり良くないので、多方向の人間に喧嘩を売るような言動を繰り返していた。だからイチイチそんな言葉をかけた人間を覚えていない。


 「俺に個人的に恨みがあるのか?」


 「お前じゃないさ。安倍晴明だよ。アイツを恨んでいる」


 「そりゃあ俺のご先祖様なのかも知れないけど、俺とは関係ないだろ。だからお前は誰なんだよ」


 「蘆屋道満あしやどうまんの子孫と言えば分かるかい?」


 急に奴が立ち上がった。今までの具合の悪い演技は何だったのかと思うくらいあっさりと。蘆屋道満が何者かくらいは知っている。安倍晴明の最大のライバルとして君臨した陰陽師で、晴明に勝るとも劣らないほどの呪術力を持っていた。確か呪術勝負の一騎打ちにて敗北して最後は主従関係になったと聞いているが。


 「蘆屋道満って確か安倍晴明様の弟子さんの一人でしょ? そんな奴がどうして現代になって威張るのよ」


 「まさか党首の座を狙っているのか?」


 いや、奴は陰陽師ではない、妖怪だ。今になって波長が妖怪になっている事に気が付く。奴の身体に施しておいた何かが切れたのだろう。戦闘態勢と考えて差し支えない。目が血走り、顔が真っ赤に染まる。しわなど気にならないほど細身の身体中から血管が浮き出て、さっきまでの笑顔は消え去り怒りと憎しみを纏った憤怒の顔だ。


 「それがお前の本性か。蘆屋道満の末裔さんよぉ。いや、これはどういうことだ……。なんで人間が悪霊になっている……」


 「そうだよ。結局、このお婆さんは妖怪なの? 悪霊なの?」


 その結論は答えを迷っている出た。顔は真っ赤で鼻が異様に長く、背中に翼を持つ。羽団扇はうちわを片手に持って、瓢箪ひょうたんを腰から下げて、布のような服を着ている。


 「大天狗おおてんぐ!!」


 大天狗とは日本三大悪妖怪の一匹であり、酒呑童子しゅてんどうじ玉藻前たまものまえと並ぶ最強クラスの悪鬼である。だが、この大天狗は他の伝説とは少し違う特殊な妖怪である。日本各地に多数の伝説を残しており、時代もまばらに複数に渡って登場している。つまり、一回の大暴れで有名になった妖怪ではなく、複数回に渡って逸話を残した、その登場頻度の高さそのものが有名な妖怪なのだ。


 通常の天狗よりもより強力な神通力を持つとされる天狗である。善悪の両面を持つ妖怪とされ、優れた力を持った仏僧、修験者などが死後大天狗になるといわれる。そのため他の天狗に比べ強大な力を持つという。これは天狗の中でも強力な鼻高天狗はなたかてんぐ烏天狗からすてんぐには見られない習性である。


 「覚えているか、私のことを」

豆知識ですが「日本三大妖怪」も存在して

鬼・河童・天狗

だそうですよ。そういえばこの「特に何もしない陰陽師」のシリーズを通して

河童が一度も出てきていないな( ;´・_・`)ぅ・・ぅん

③に期待(*´∀`*)

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