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熾烈

 ★


 「お姉ちゃん。その人は誰?」


 「お邪魔しているにゃあ」


 「五芒星の火属性のひと。名前は矢継林続期。この通り、変なやつだよ」


 「変な奴じゃないにゃ。エロい店で働いているアルバイトで、語尾が猫っぽくて、佐賀県出身というだけにゃ」


 「エロい店って、ただのコスプレ喫茶だろうが」


 倉掛百花が夏休み中に友達と会っている様子を見たことが無かったので、倉掛絶花には極めて新鮮に感じた。しかみ、かなり個性の強い人だ。自己否定はしているが間違いなく『変な人』のカテゴリに入ると思う。猫耳とか痛い服とか絶花は始めて目の当たりにした。どう反応したらいいか分からないので、言葉に詰まった。後に遅れて『なんで他人の家でそんな服を着ているのだろう?』という疑問に悩まされる事になる。日曜日の朝からカルチャーショックで二度寝しそうだ。


 「どうしてそんな奴が我が家にいるの?」


 「昨日、苫鞠高校の体育館で思いっ切り喧嘩してきた。で、決着はついたけど、さすがに血だらけで横たわる痛々しい服の女を放置は出来ないから、背負って家まで帰ってきた」


 「いやぁ、面目ないにゃあ」


 日曜日だと言うのに母親はパートの仕事とは別に引越し業者の仕事にへと向かっていた。それが場所が遠かったので、皆が起きる前には家を出てしまい朝からいない。なので朝食は姉が作ってくれるはずだったのだが、どうもこのパンケーキを作ったのは、そこの猫耳少女らしい。手馴れた動きでフライパンを回している。様になっている所が驚きだ。


 「キッチンを貸していいの?」


 「仕方がないだろ。一泊させてくれたお礼とか言って、家事をすると言い出したんだから」


 それで倉掛百花が簡単に折れると思わない。随分と熾烈な言い争いの上に決断したことなんだろうな。五芒星の火属性と言ったか。竜宮真名子のように屋敷に山ほどお手伝いを持っていて、家事など出来ない性分かと思っていたが、家事スキルが極めて高いらしい。人は見た目や肩書きでは判断がつかない。


 「弟くんが甘党と聞いて、パンケーキを甘くしてみたにゃ」


 卓袱台ちゃぶだいの上にパンケーキを乗せた皿が出る。何ともミスマッチなこの光景。だが、絶花は特に気にしていない。素早くナイフとフォークを手に取ると、綺麗に切り分けて口へと運んだ。

 

 「いただきます。…………食えたもんじゃねぇ」


 「え!! そんな馬鹿にゃ!! お客さんには大好評だったのに」


 やはり喫茶店で磨いた技術だったかと思う。しかし相手が悪かった。倉掛百花にはこうなることが予想が出来ていた。倉掛絶花は想像絶する甘党だ、多少砂糖の量を増やした程度でこの我が儘な弟が納得するはずがない。


 「自前のシロップと蜂蜜と練乳とバターとメープルシロップがあるから。ちょっと部屋に行ってとってくる」


 「トッピングが自前っ!! いや待つにゃ。確認していないけど、そんなものは冷蔵庫にも入っているはずにゃ。それにちゃんと味付けはしているはずにゃ。普通のパンケーキよりも甘くして、それでいて全体の味のバランスを崩さないように」


 後半の努力が蛇足だったな。この弟には全体の味のバランスなどどうでもいいのだ。常人ならば味覚が崩壊するような甘い味でも、この弟は旨いと言って食べるのだから。矢継林続期の忠告など無視してさっさと座布団を蹴飛ばし、部屋に戻って行ってしまった。


 「冷蔵庫にはそういう甘い物は入れないの。あの馬鹿が全部、夜な夜な食べちゃうから」


 「不健康にゃ!! なんで太らない!!」


 それは女子である私も嫉妬する部分だけど、なんて苦笑いをしているうちに絶花が腕に大量のシロップを持って帰ってきた。随分と速い帰還である。甘い物を見ると人格が変わってしまうのだ。


 「うわっ、甘すぎて誰も手を出さないようなシロップばっかりにゃ。蜂蜜とか超高級品を自前で持っているにゃ。ここまで甘いものにお金かけている人を始めて見たにゃ」


 陰陽師の仕事で稼いだお金を次から次にお菓子や甘いものに変えてしまっているのが、今の絶花の現状だ。本当に嗜好品は甘味だけにしかお金を使わず一貫している所が、絶花の気合の入り具合である。絶花はパンケーキの上にこれでもかという程に、上から蜂蜜やシロップを流し込んでいく。それも多種類を織り交ぜるようにである。


 「パンケーキの味とか絶対にしないにゃあ」


 「おい、もう見るな。悲しくなるだけだぞ」


 ナイフとフォークで綺麗にドロドロの液体を絡めとり、一滴も零さずして口の中に放り込む。そして、目が輝いたかのように幸せそうな表情を浮かべて足をバタバタさせる。矢継林続期はプライドを傷つけられたのか、その場で立ったまま固まったようにショックを受けていた。そんな絶花の特殊なコダワリを知っている姉は、テレビの方を向いて呆れたようにため息をついた。


 「それで、どうして五芒星が集合しているの? なにかあったの?」


 「あったのではなく、これから起こすのにゃ。五芒星が全員集まって、相良十次を党首と任命するのにゃ。安倍晴明様が初代の党首になった時のように。これで混沌とした陰陽師大混乱時代も終焉にゃ」


 「あぁ、そういう事か。納得した。でも……それって邪魔とか入らないの? 五芒星だって全員が相良十次を党首と認めているとは限らないでしょ。それにライバルが名乗り出すかもしれない」


 不意に絶花が言ったその言葉に、倉掛百花は顔を振り向いて反応する。


 「絶花。なにか心当たりでもあるの?」


 「うん。安倍晴明様の時にも強力なライバルがいた。その名前を蘆屋道満あしやどうまん

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