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地震

 先程から驚きの連続である。一応は女の子として育てきた身だ。喧嘩をした事くらいはあるが、ここまで肉弾戦を味わったことはない。正拳突きや空中での回し蹴りだの、普通の格闘家でも出来ないような技を身を持って体験している。


 「陰陽師って妖怪に頼って卑怯な戦法が多いと思ったんだけど、ここまで自らが戦うのも一考だね」


 「幻覚で動けなくしているから、ちょっとその言葉は耳が痛いにゃあ」


 だが、やはり柵野眼は悪霊である。ただの正拳突きではない、矢継林続期と化け猫の二つの妖力を合わせて込めて放った一撃だった。内臓破裂では済まない、一般人が受ければ肉片がバラバラになって即死だろう。彼女が吹き飛んだ後に激突した壁は大きく凹み罅が割れている。体育館の床に衝撃で飛び散った火の粉が燃え移る。その一撃の強さは建物の破壊具合で証明されている。なのに……。


 絶対に無傷ではないはずの柵野眼がゆっくりと立ち上がった。外傷は全く見えない。破れた服でさえ、ビデオが逆再生するかのように治ってしまった。レベル4を倒した前例などこの世には存在しない。その無限に溢れる妖力が傷など回復させてしまうのだ。物理的な攻撃など役に立たない。


 「痛かったよ。痛覚は消えてないみたい。本当に死ぬかと思った。でも、自然と痛みなんて消えて無くなってしまうものね。痛覚って身体が脳に向かって放つ危険信号みたいな物でしょ。だから危険が無くなれば、痛覚も消えるって話かな」


 「いや、そんなに私の一撃は甘くないにゃあ。痛みも感じる暇もなく即死するはずにゃあ。これでレベル2の悪霊だって仕留めた経験があるにゃあ。こうもあっさり治癒能力を見せられると、ちょっと絶望しちゃうにゃ」


 「今度はこっちの番ね」


 冷や汗で服が濡れている。また矢継林続期が下唇を噛んだ。拳を固めて太腿ふとももに力を入れる。逃げなくては、回避しなくては。奴の攻撃を一撃でも浴びれば、もう二度と立ち上がれないだろう。光や音を使った攻撃をしないと言っても、まだあの広範囲の衝撃波がある。あれにも警戒しなくてはならない。上手く奴の後ろに回り込んで……。


 「精神とは鼓動である。心には波がある。例えどんな人間でも、緊張すれば筋が伸長し続けて心臓が早く動き鼓動が高まる。感情とは精神に直結している。感情が熱しやすくて冷めやすいのが人間だから」


 サーモグラフィーという装置がある。物体の熱分布を図として表し分析する装置だ。赤外線もまた光である。色とは光の波長によって決まるものだから。また、心電図というものがある。死ぬ間際の病人患者の前で家族が見守る時に、画面に波打っているあの図だ。


 「感情の波動を現実に変える!!」


 一瞬で大きな振動を感じた。何かが来る、そう矢継林続期は思った瞬間には遅かった。体の動作よりも大幅に早い。いや、速さなどこの際どうでもいい。そんな圧倒的に反則的な攻撃だった。矢継林続期は自分のスタイルと照らし合わせて、この体育館という場所を選んだ。敵を仕留めるのに十分な移動スペースであり、相手の攻撃から逃げられるスペース。ここが一番最適だと信じていた。


 だが、そうじゃない。彼女はまさに袋のねずみだった。


 「震度7の地震をこの空間だけに引き起こしたよ」


 まだ運動場やグラウンドで戦えば、攻撃が来る前に自分の持ち前の超脚力で揺れが収まるまで上空に逃げられたかもしれない。まあ空中では動けないので落下地点で仕留められるとも思うが。だが、この体育館という場所は、天井という逃げられる高さに限界がある。こんな田舎の学校が立派な高さの体育館なはずがない。


 震度7とは、地震による揺れの強さを表す指標の一つであり、最も階級の高いものである。その恐ろしさは立てなくて動けない。揺れに翻弄されて飛ばされることもあるほどだ。家具が倒れて、建物が崩壊する。しかも震源は目と鼻の先にいる女だ。


 勢い余って大きくジャンプし過ぎた。そのまま天井に激突する。と、同時にそこで大きな振動を体に味わう。まるで電気ショックにでもあったかのような、身体全身を大きく揺さぶられる気持ち悪さ。そのまま地面へと力なく落下した。そこでまた地面から伝わる揺れが身体に染み込む。何か家具や壁など掴まれるものがあったら話も違ったのかもしれないが、彼女の落下地点にはそんな物は無かった。


 自分が揺れているのか、世界が揺れているのか、それすら分からない。自分の式神が発した幻覚が可愛く見えてくる。揺れの後に脳を襲う頭痛と吐き気。嗚咽が止まらなくなる。車酔いなんて範疇じゃない、全身を気持ち悪く揺さぶられた衝動だ。まるで子供がお人形を持って上下に振るように。そんな絵柄に見えた。


 「あっ、が、がっ、うぐぅ」


 「まだ意識があるなんて。やっぱり底知れない執念だね。でも、そっちの猫はもうギブアップだと思うよ。どう? 全身を揺さぶられた気持ちは。幻覚じゃないリアルならとっても刺激的でしょ」


 猫又は泡を吹いて倒れていた。その際に自分の手に持っていた三味線を、自分の体重で押しつぶしてしまい、弦がもつれて真ん中からバッキリと破損している。


 「お、おま、お前。しが…ら…み…………」


 「マトモに喋ることも不可能か。これは勝負あったね」


 「ぐっ、くっ、そ」

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