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抜群

 柵野眼の服には刃物のような物は見えない。首を切断するなんて恐ろしい事を言っても、それを実行する武器がない。だが、矢継林続期は確信していた。奴にはそんな物は必要ないのだと。奴の言葉そのものが切れ味抜群の刃先なのだから。それであの巨大な生物である大百足をバラバラにしたのだ。


 「そんな死に方は御免にゃあ。来い、『化け猫』、『猫又』!!」


 矢継林続期の両サイドに同じ赤い着物をきた、巨大な猫と通常サイズの猫が出た。巨大な猫は色は白黒茶色の三毛猫である。強大な柵野眼の妖力に物怖じせず、場違いにも前足を舌で舐めている。尾が二本あり、クルクルと回転しながら動いている。背中には巨大なサイズに適した大きい三味線を抱えている。


 小さい方は灰色で、二足歩行でひたすら威嚇の鳴き声を出している。おっとりしているデカ物とは違って警戒心で満ちている。連絡を取る為に使いにされた、あのゴスロリ猫とは妖力の総合力が比にならない。コイツは本当に戦闘用の式神なのだ。


 「死者の亡骸を奪う妖怪『猫又』。それと、毎度おなじみ『化け猫』にゃあ」


 「猫を殺すと七代までたたられるんだっけ。それは狙いたくないな。本体を攻撃しよう」

 

 「そうはいかないにゃあ」


 ネコはその眼光や不思議な習性により、古来から魔性のものと考えられきた。肉食性のネコが腐臭を嗅ぎわける能力に長け、死体に近づく習性がある。身軽で、爪が鋭くて、敏捷性に優れて、足音を立てずに動ける。夜行性で目が光る。


 「さぁ、憑依装甲にゃ」


 小さい猫の方が矢継林続期の体に入っていく。憑依装甲という技術は柵野眼も始めて見る技術ではない。絵之木ピアノが馬を拳銃にしたように、先駆舞踊が鎌鼬を本物の鎌にしたように、初めはあの猫を武器に変形させるのだと思った。しかし、そうではない。


 矢継林続期の体に入っていくように、妖力だけが混ざり合っていく。瞬間的にあの痛々しいウェイトレスの服は消えて、赤と白の巫女の服に着替えていた。さっきまで飾り物の猫耳だったのが本物の耳となり、今まで飾りでしかなかった尻尾が、今度は生きているかのように動いている。顔には頬から眉間にかけて赤い線のような筋が浮き出た。全身から爆炎を纏うように炎が吹き出ている。


 「あの服が武器そのものって感じかな。急に妖力が増した。やっぱり猫って怖いわ。世界中から逸話を残しているだけあるね。黒猫が呼び込むのは幸か不幸か」


 「陰陽師の世界には幸せで、お前には不幸せにゃあ」

 

 次の瞬間には矢継林続期は瞬間移動していた。場所は柵野眼の目の前である。眼が動き出す前には、もう彼女は拳を固めてしゃがみ込む形で頭下まで潜り込んでいたのだ。柵野眼の顔が下を向くと同時に彼女の容赦ないアッパーが眼の顎を突き上げる。柵野眼は思いっきり背後に倒れた。


 「別に嫌がらせの目的だけで『顔』を狙っていないにゃあ。お前の能力は声が発動する鍵である。だから声を出させないだけにゃあ」


 受身など柵野眼は取り方を知らない。地面に仰向けで倒れ込んだ眼に対して、矢継林続期は彼女にまたがり、鬼神装甲で形を変えた鋭い爪を振り上げて喉笛を引っ掻こうとした。


 「わっ!!」


 だが、またも失敗。咄嗟に柵野眼が小さく金切り声をあげたのだ。それが衝撃波となって体育館中に響き渡る。しかし、矢継林続期は口の微妙な動きを見逃さなかった。声を上げる前に驚異的なスピードで地面を蹴りつけて、体育館の天井の角まで逃げていたのである。衝撃波で吹き飛ばされたのではない。自分から回避したのだ。


 「目の動きや口の動きより早いとか反則だろ」


 「音速よりも光速のほうが早い。声が届く前に逃げるし、声を出す前に攻撃する。どんな重い一撃も圧倒的なスピードの前には無力にゃあ」


 猫は犬以上に聴覚が良い。人間には到底聞こえないような音も簡単に聞き取れてしまう。猫がキョロキョロと周囲を見渡すのは、人間には聞こえないような音を聞き取って、そっちを向いているだけなのだ。一番の大きな衝撃が来るポイントが来る前に、音が伝わる速さよりも早いスピードで逃げる。矢継林続期にはそれができる。猫と融合し、妖力と特性を十二分に受け継いでいる彼女ならば。


 「そっか。でも、そっちのデカ物は…………動いていない。あの衝撃の耐えたのか」


 猫又に関しては動いてすらいない。咄嗟の防御とはいえ、それなりの威力だったはずだ。まともに防御したようにも思えない。ちゃんと体育館全域に衝撃波は到達したはずだその証拠に、体育館で違う球技同士が球が入り込まないように使う、緑色のカーテンは吹き飛んでいた。バスケットゴールは破壊できなかったが。


 あの猫又という妖怪。かなり腹が出っ張っているデブ猫、あの衝撃波を何事も無かったかのようにしている。登場してから舌なめずりしかしていない。戦闘に加わる意思もなく、ただこの場にいる。


 「感情を司るってのは嘘じゃないのだろうけど。お前の戦闘方法は分析出来たにゃ。おそらく振動を操る能力にゃ。『水』、『音』、『光』。そこから『地震』や『津波』、『衝撃波』を巻き起こす。物体の高低運動そのものを操る『震源』がお前の能力にゃ」

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