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手本

 ★


 「ここなら邪魔は入らないにゃ」


 「お前、本当に五芒星の1人なのか? 喫茶店の服をなんでこんな外にまで着ている」


 「これ私服にゃ」


 問答無用。ブッ潰そう。そう百花は決意した。


 倉掛百花が在中している実家に、あのお洒落な猫がやってきて一週間ほど経過した。話し合いというほど複数回はしていないが、式神である猫を通して時間の合う日時を設定し、二人で落ち合うことになった。矢継林続期は佐賀県出身という話だが、どうもこの近くにホテルを借りて住んでいるらしい。彼女も学校には通っているらしいが、式神を変化へんげさせることで身代わりにして、出席には問題ないらしい。


 だったら彼女の言う『アルバイト』とはなんだという話になるが、どうやら彼女の通っているのは、大手喫茶店のチェーン店であった。彼女はその地方にあるお店のバイトリーダーらしいが、彼女の功績が極めて高く、他の後輩や社員から『神』と崇められているらしい。彼女を目当てとした客も多いらしく、店の売り上げに無視できないレベルで貢献しているらしい。


 そこまで凄い店員は是非他の地区にも来て欲しい。その技術をもっと色々な社員に見せて欲しいという依頼が来て、彼女はこの辺の店にも来て、その頭角を表していたようだ。本人はエロい店だと表現していたが、実際はただのコスプレ喫茶であり、彼女の磨いてきた技術というものもいわば接待の能力のようなものである。勿論、話がうますぎる。彼女の実力やアルバイトの手本という話は幾分は真実だろうが、細かい設定のズレは妖力で補正してあるのだろう。記憶をいじるのは陰陽師の常套手段だ。


 彼女は夕方から仕事、百花は夕方まで授業。という時間のズレが互いにあり、結局二人が合間見えたのは日曜日の昼の時間帯であった。倉掛百花は午前中に家庭の仕事を済ませてきた。矢継林続期も陰陽師の仕事優先という事で、昼間はシフトに入っていない。13:00きっかりに二人は顔を合わせることになった。場所は苫鞠高校体育館。人払いは済ませてある。約束の時間よりも30分くらい早く到着した百花だったが、それよりも早く続期がスタンバイしていた。


 いつもの喫茶店の服を来て、ニコニコと微笑ましい無垢の笑みを浮かべながら、両手を背中で組んでただ立っていた。顔が見えるように入口の方を向いて。相変わらず際どい服だ。低身長で猫目、茶髪に黒い猫耳を付けて更には尻尾まである。また、全体的に黒を基調としたドレスのような服で、胸元が広く、スカートの丈が短い。百花は同じ女として同年代の女の子がそういう格好をしているのを受け入れるのは不可能だった。どうしても偏見の目で見てしまう。


 「私服というのは冗談として、もう以前に話した通りにゃあ。差し支えなければ、一緒に相良十次を党首に任命して欲しいにゃあ。水の五芒星である竜宮真名子として」


 「へぇ、こんな開放感溢れる広い空間に呼び出しておいて、それはないんじゃない? 人払いの御札でバスケ部員やバレー部員消して、練習時間を奪ってまで、どうしてこんな場所を選んだの?」


 「そりゃあ理由なんて」


 「交戦しかない、よね」


 先に百花が答えてしまった。その後は睨みつけるように続期を見ている。感情を司る能力を持つ倉掛百花。彼女の神経を逆なでする行為は、的に塩を送る行為に等しい。いや、エネルギーを送っているようなものだ。


 「…………。どうして悪霊になってしまったのにゃ? 竜宮真名子。あなたは確かに性格が弱い人間だった。とても勇敢な人間ではなかった。おしとやかで、つつましやかで、気品があって、優しさの情で溢れた、典型的なお嬢様だったはずにゃあ。それがどういう手違いで、こんな体から怨念を撒き散らす悪霊に変わり果ててしまったのにゃ」


 彼女は竜宮真名子の素性を知っている。今までで竜宮真名子と矢継林続期の二人が交流があったのではない。だが五芒星は親が子へ死に際に記憶の一部を提供してきたのだ。だから、五芒星が結成したあの日から、相手がどんな能力を持っていて、どんな性格でどんな顔なのかまで把握しているのである。


 「半分は竜宮真名子で間違いないけど、もう半分は倉掛百花なのよ。気が強くで、負けず嫌いで、強情張りで、行動力があって、勇敢な性格をしていた。そんな倉掛百花が私の中にいるの」


 「それで? 反社会的な思想も持っているということかにゃあ?」


 こんな緊迫した重要な話し合いの中でもフザけた語尾を直そうとしない。煽っているのか、わざと怒らせようとしているのだろうか。


 「別に。悪霊の仕事なんて陰陽師や人間を道連れにすることだけでしょ? だからそれを実践しているだけよ」


 「道連れなんてお前には似合わないにゃ。だってレベル4の特性は、死を無かった事にして生き返ることにゃあ。道連れなんて実際に人間として生きている人間に言われたくないにゃ」


 「あっそ」


 「それと調べはついているにゃあ。この学校の全ての生徒が既にお前の洗脳の餌食になっていることも」


 「だって面倒なんだもん。初めはクラスメートだけにしか暗示をかけていなかったけど。手違いが次から次に起こるから。もう面倒で仕方がないから三日目で学校の全てを掌握したわ」


 「さらっと恐ろしいこと言うな……にゃあ」


 矢継林続期の額から冷や汗が流れ出た。

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