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景気

 嫌われ者が死んで、人気者が生き残る。そんなの悲劇だ。そんな誰もが羨む最高の人間がいてたまるか。誰も知らないのだ、ヒーローが背負った十字架を。例え世界から嫌われても、自分だけは世界を愛し続ける貴さを。陰陽師は外界を拒絶しなくてはならないのだ。順応して生きるなどあってはならないのだ。その他にも、妖怪を仲間だと思うとか、年功序列を廃止するとか、縦社会を撤廃するとか、そんなフザけたことがあってはならないのだ。


 だが、このまま相良十次が党首になれば、それは完成するだろう。緑画高校の余波が全国を埋め尽くし、新しい党首の下で陰陽師の世界は劇的に生まれ変わるだろう。それを是非としていいのか。このまま見過ごしていいのか。


 絶花もこの混沌とした陰陽師の情勢が良いとは思っていない。地方が荒れていて本部が崩壊している状態は通常業務に支障をきたす。しかし、それでどうして新しい制度になるのだ。今まで通りに党首様を立てて、建物を復旧して整備を整えて、それで終わりでは駄目なのだろうか。確かに倉掛百花の死や倉掛花束の死は居た堪れないものだと思う。しかし、記憶が無くなっていただけで心中するなんて、普通はそこまでの発想にはなれないだろう。制度が変わったくらいでこのような事故を防げただろうか。


 確かに絶花の父親である朝日谺あさひこだまは倉掛一輪を奪い返した。ただ許嫁であったはずの倉掛一輪が別の男と恋仲になったのが問題なのだ。自分の母親を悪く言うのは気が引けるが、母親が陰陽師の規則に順応さえしていれば、こんな事にはならなかったのだ。初めから倉掛花束と付き合わなければ良かっただけの話だ。その場合は姉は生まれてこなかったかもしれないが。


 確かに朝日谺は性格が最悪のクズ野郎だったが、別に倉掛花束と倉掛百花の命を直接的に奪ったわけではない。例え母親である倉掛一輪があの家族に残っていたとしても、一家心中が免れたという保証などどこにもない。これは屁理屈ではないだろう。景気の悪さなんて誰が招き入れた事でもあるまいし。


 この一件は本当に陰陽師の失態から起こったことだのだろうか。責任の所在は本当に陰陽師の古い体質が原因なのだろうか。不慮の事故が起こってしまって、恨む場所が他になくて、責任のシワ寄せをしているだけではないのか。どうして自分の父親が殺されなくてはならなかったのだ。あの人だって曲がりなりにも人の命を救っていた人間だったのだぞ。


 理不尽なのはどっちだろうか。どうして古い考え方が否定されるのだろうか。初志貫徹だって素晴らしいことじゃないか。時代に合わせて在り方を変えるなんて心地よい響きかもしれないが、裏を返せば優柔不断ということだ。決められたルールを守れず、楽な方、楽な方に逃げているだけだ。キツイから、苦しいから、楽な方に逃げ出しただけだろう。


 今までの方針には一千年もの間、日本を守り続けてきた実績がある。それが正しさの証明であり、その法律を敷いたのは他の誰でもない安倍晴明様だ。彼の意見を否定するなど、それはもう陰陽師の所業ではないだろう。今更新しい方針を打ち立てて、それが成功するという保証はどこにあるというのだ。


 気に入らない。自分の考え方が全否定されて、正しさを押し売りされている現状が。勝手に悪人に仕立て上げられて、そのまま殺されていった自分の父親が忍びない。正論かどうかなんて分からないのに、社会が決められた濁流に従わされている感覚が気持ち悪い。昔ながらの風習を大切にすることが、そこまで悪行なのだろうか。


 今の社会がそんなに褒められた美しい日本だろうか。離婚率は増える、DVは増える、老人は増える、引き籠もりは増える、リストラは増える、ニートやフリーターも増える。出生率は増えない。環境問題は減らない、犯罪率は減らない、いじめは減らない、不登校は減らない、母子家庭は減らない、不正時給者は減らない。この世の中は社会問題だらけじゃないか。誰も新しい社会に順応なんて出来ていないじゃないか。


 人間は変われない生き物だ。精神や性格はそう簡単には変われない。新しい社会に対して在り方を変えていくなんて、どこの誰にも出来はしないのだ。運命は変えられないのである。この世の中は漫画の世界じゃない。ご都合主義で最後の最後には皆で笑ってハッピーエンドなんて、そんなことはありえないのだ。人間は変わりたいのではない、変わろうとする自分が好きなだけだ。


 ダーウィンが言った。変われない生き物は死ぬしかない。絶花はそうは思わない。生物には必ず変わらないものがある。隕石で絶滅したはずの恐竜が鳥類として生きているように。人間の深い所の本質は絶対に変わらない。だからこそ罪深き人類なのだ。生き物の弱肉強食や生命の円環であるといった、絶対に普遍の原理が社会に存在する限りは、人間は変われない生き物なのだ。


 「反対だ、新しい陰陽師制度、絶対に反対」


 そう絶花は自分に言い聞かせた。


 

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