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原作

 「分かった。時間と場所は折り合いをつけよう」


 「あれ? どんな店なのか興味がないのかにゃ? 弟くんを連れて遊びに来てくれると嬉しいにゃあ」


 「罠でも敷いているのか? 中途半端な殺害方法でこの私は殺せないぞ」


 「いや、正直に言って、あなたに今死んでもらっては困るにゃあ。陰陽師の未来の為にも」


 隣の家の屋根の上で猫が手をこまねいている。愛らしい表情で。黒い衣装が暗闇に溶け込んで見え難くなっている。その中でも黄色い目が光るようにしっかりを見える。月の光によく溶け込んでいる。


 「五芒星の役目は陰陽師存続の危機に陥った時に、五人が集結し世界を救う架橋になる。今がその時なのにゃ」


 「確かに陰陽師機関は崩壊したな。あぁ、それで収集しているわけか」


 「そうそう。安倍晴明様を任命した時の如く、陰陽師の党首を任命する儀式を行うにゃ。それに参列して欲しいのにゃあ」


 「おい。面と向かって話したいことがあるのでは? いいのかよ。こんな所で確信に迫る話をして」


 「私ってミステリージャンルのドラマとかアニメを見ていると、つい物語の中盤で話の結末が知りたくて、原作を買ってしまうお茶目な高校生にゃあ」


 「私はミステリーは好きじゃない」


 話したい題材がもっと他にあるのだろうか。今ここで全てを話してしまうとも思えないが。


 「まあいいや。教えて貰えることが多いほどありがたい。それで? 私とあなた以外の五芒星は見つかったの?」


 「相良十次と緑画高校の愉快な仲間たちが全力で搜索しているにゃあ。でも、まだ見つかっていないにゃあ。もしかしたら別の陰陽師を党首に推薦するかもしれないにゃあ。そうしたら陰陽師の全総指揮のかけた覇権争いになるにゃあ」


 「……他の推薦人を見たわけじゃないけど、私は相良十次を押す。私は政治的権力は持たないけど、任命権を持っている人間なんでしょ。竜宮真名子は相良十次に一票を投じるわ」


 「そうねぇ。私も入れて二票にゃあ。残りが結託しなきゃ決定かにゃあ。まあ、ほかの推薦人なんているのかどうか怪しいけど」


 相良十次が党首になれば、少しは私が恨む腐りきった陰陽師の仕来りが改善するかもしれない。そのために生かしてやっているのだ。彼には働いて貰わなくては困る。


 「いいわ。参列してあげる。それで陰陽師の世界が良くなってくれるなら」


 「ふ~ん。ビックリするくらい素直な悪霊さんだにゃあ。あなたは陰陽師の世界を救いたいのか、滅ぼしたいのか、どっちなんだにゃあ」


 「母である柵野栄助はその答えを残さなかった。好きにしろと言って消えていった。私も正直に言って悩んでいる。私と私の父親を殺した陰陽師を恨み辛みで滅ぼすのか、それとも相良十次や理事長の傀儡で組織は新しいスタンスになり、二度とこんな事件が起こらないように改善されれば、それでいいのか」


 「弟くんに聞いてみるといいにゃあ。その答えを知っているのは、倉掛百花と倉掛絶花だけなのだから。また連絡にくるにゃ。カレンダー見て予定が決まったらまた来るにゃあ」


 そんな言葉を去り際に言って、あの猫は私の前から姿を消した。


 「馴れ馴れしいな、アイツ。現代人か」


 ★


 陰陽師はなるべく外界の人と触れ合ってはいけない。知り合ってはいけない。仲良くしてはいけない。ただ、社会の裏側に君臨し、影から人知れず世界を救わなくてはならない。妖怪を奴隷とせよ。式神を道具と思え。非情であれ、姑息こそくであれ、狡猾こうかつであれ、我が儘であれ、卑怯であれ、鬼畜であれ、傲慢であれ、孤高であれ。他人を見下して生きろ。人気を欲するな。他を否定し自分を肯定して生きろ。自分以外の誰も信じるな。他人と馴れ馴れしくあるな。誰であろうと罪を許すな。誰にも謝ってはいけない。誰にも知られず、誰にも気付かれず、誰からも愛されず、誰の目にも止まらず、誰から嫌われている。嫌われ者であれ。それでこそヒーローだ。


 これが父親である朝日谺あさひこだまの教えだった。そう教わったから、こうなった。だから、こうなって今に至る。これが陰陽師の鉄則だと習ったから。あの人は正しさの塊だった。いつも部下を完膚なきまでに論破していた。仕事の部下を奴隷扱いしていた。家では母親を蹴飛ばしたり様々な暴力をふるった。式神を道具として扱い、慈しみなど欠片もなかった。何も知らず生きている人間を、俺が救わないと生きられないあくただと笑った。プライドが高く、人の意見に耳を貸さず、独善的であった。


 クズが! ゴミが! 生きる価値のない猿め!


 それが父親の決め台詞だった。


 そんな父が最後の会話などする暇もなく、ただ無残に死んでいた。誰からも愛されず、誰からも尊敬されず、誰も彼の存在を疎ましく思い、誰からも嫌われていた。そんな人間がたった一人で実家で死んでいた。血だらけで、恐怖に怯えて、涙と鼻水でグチャグチャで。そんなみっともない、人様には見せられないような、無様な姿で死んでいた。


 「お父さん」


 お父さんは死んだ。この世の嫌われ者が死んだ。


 「お姉ちゃんが目指す正しい陰陽師の世界ってさぁ。俺の親父みたいな人間がいない世界なんだろうなぁ」


 絶花は泣いて、泣いて、泣いて、泣いて、泣き止んだ。


 「嫌われ者か」 

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