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弾丸


 倉掛絶花は無力だった。姉を説得して陰陽師の虐殺を止めることもできない。陰陽師として例え姉でも、悪霊ならば殺すということも出来ない。潔く死を通してでも戦うこともしない。どうすることも出来ない。それを言い訳にアクションを起こさない。


 もう逆らう気力は無かった。絶望に打ち拉がれる乙姫様を警備の人に預けて、取り敢えず姉を家まで運ぶことにした。乙姫様が最後まで竜宮真名子を取り戻そうと声をかけていたが、もう無駄だと悟った絶花が無理矢理に引き剥がした。それに対して百花も何も感じてはいなかった。


 言われるがまま霊界を通って家まで帰ってきた。深夜を回っており、母親が不安そうな顔で家の前で待っていた。変わり果てた娘の姿を目撃して、こっちも気絶しそうになっていたが、それよりももっと絶望的な事件が起こっていた。


 近くの山奥で倉掛花束の死体が確認されたのである。警察が身元調査に乗り出した。父親の死体は白骨化しており、身につけていた遺品から身元が判明した。帰ってきた倉掛兄弟に警察が詰め寄ったが、殺人事件と思って捜査はされていないそうだ。遺書も一緒に見つかった。筆跡鑑定でもすれば自殺だと気が付くだろう。実際に自殺であるし。


 警察が姉に詰め寄った時は本当にハラハラした。絶花が恐ろしい顔で姉を眺めていたが、姉は取り乱すことなく、『母親と弟と三人で暮らしていたので、父の事はわかりません』と、そう語っていた。どうやら殺害対象が陰陽師だけというのは本当みたいである。先ほどまでの不気味さは晴れて、悪霊の妖力を垂れ流さず、背筋を伸ばしてハキハキと受け答えしていた。


 問題は俺たち家族が父親の死に気がつかずに8年も放置していた事である。表向きは家族三人で父と別居していたことになっており、父の自殺には気がつかなかったという運びになった。しかし、八年という歳月の言い訳にしては無理がある。陰陽師が記憶を消して消去するにも、今の機関事態の混乱に乗じる人手不足、更には倉掛花束がそもそも陰陽師関係者ではないので、そこまで表立って陰陽師達は記憶消去には乗り出さないだろう。


 それにしても、陰陽師機関本部が解体しこの家に来た時には絶花と一輪は、倉掛花束と会話している。あれがまさかレベル4の悪霊で人間の波長を持っており、柵野眼が化けた姿だったとは。そこまで分かっていたなら、ここまで話はこじれなかっただろう。相手が悪すぎた。


 問題はここからである。死んでしまった倉掛百花と竜宮真名子の死体だ。もう柵野栄助が使い切ってしまって、この世にないのであれば問題ないのだが、それが発見されれば洒落にならない。取り敢えず一輪に手短に事の結末を伝えた。倉掛百花の実の母親である一輪は深夜に泣き叫んだ。まさか八年も前に既に自分の生んだ娘が死んでいたなんて。そして、その犯人が自分の元夫だなんて。母親の精神がこの事実に耐えられていないことは一目瞭然だった。


 そんなことは露とも知らずに、柵野眼は知らん顔で倉掛百花の使用していた部屋に戻っていった。そこから先の彼女は分からない。どうやら柵野眼は倉掛一輪に関しても無関心らしい。彼女は無差別に殺している訳ではない。彫り固まった考えの陰陽師や、独善的な陰陽師、本分をわきまえないいわば社会の為にならない陰陽師を抹殺しようとしている。だから陰陽師を片っ端から殺しはしない。


 葬儀を行うお金などない。これからシングルマザーで中学生と高校生を食わせていく必要がある。それも母親はこれといった職にはついていない。一般から見れば不幸な家庭に見えるだろう。だが、その家族の深淵はもっと黒いのだが。


 ★


 次の日、またもバットニュースである。倉掛絶花の父であり、倉掛一輪の再婚相手。倉掛家から母親を奪った諸悪の根源とも言うべき男である朝日谺あさひこだまの変死体が発見された。死因は分からないが、元絶花が住んでいた自宅で、白目を向いて口を大きく開けていたらしい。絶花はこの知らせを受けて始業式から学校を休んで父親の所へ向かった。部下が取り囲むのを押しのけて父親の最後の姿を目撃する。


 外傷はない。体のどこにも傷跡などない。それでも何かに怯えたような顔をしていた。


 「なんでだよ。確かにコイツは責任を取るべき男だけど、殺すことないだろ」


 そう言いつつ、誰がどうやって殺したのかおおよその察しがついている。犯人はきっと倉掛百花だ。琵琶湖にて彼女が言い放った一言である『言弾』という言葉。そしてピストル状にした手のひらから放たれた妖力の弾丸。あれが原因で間違いない。ここでようやく絶花はこの危機的状況を心に飲み込むことができた。自分の姉は本当の意味で悪霊なのだ。柵野眼は柵野栄助の娘であり後継者なのだと。


 「お父さん……」


 涙など湧いてこない。それでも、心の中に悲しみがある。ろくな父親らしい活躍など見たことがなかったが、それでも失って大切な人だと気がついた。


 「お姉ちゃんを止めなきゃ」

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