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平地

 「誰だ、お前」


 「俺の名前は倉掛絶花。中学生だが陰陽師だ。苫鞠陰陽師機関所属」


 「あっそ。俺の名前は七巻龍雅。社会人で陰陽師。三上山陰陽師機関所属」


 そこは竜宮城の湖の前だった。少し広くて何もない開放感のある平地に男が二人で佇んでいた。唐傘が倉掛百花に対して『仲間を引き連れてくる』と言ったが、あんなものは彼女を安心させる為の嘘に決まっている。生粋の嫌われ者である倉掛絶花に、非常時に手を貸してくれる仲間などいない。だから霊界に潜って化け鯨の背中に乗ってここまで来るしかなかった。


 「お姉ちゃんも俺も明日から学校なんだぞ。どうして誘拐なんてする。相手は妖力を持たない只の一般人だ。お前、陰陽師としてのプライドがないのか」


 「あぁ? 竜宮城の乙姫様が一般の学校になんか行くはずがないだろう。弟とか言ったか? それ多分勘違いだぜ。住所と電話番号教えるなら結婚式くらい呼んでやるから、ここは大人しく帰れ」


 どこか噛み合わない二人の会話が交差する。倉掛絶花は知っている。全て唐傘を通じて全ての情報を聞いていたから。自分の姉がどういう人間で、どういう過去を持ち、どうして妖力が体のなかから消えてしまったのか。そして七巻龍雅が姉に対して一方的に結婚を迫っていることも。


 「お姉ちゃんは渡さない。俺はちゃんとお姉ちゃんと会って話し合わなきゃいけないことが山ほどある」


 「だからお前のお姉ちゃんじゃないだろ」


 半身は倉掛百花であると言うのであれば、まだ弟を名乗っていいはずだ。俺の親父が母さんを奪ったから、俺の家族の仕来りが許嫁なんてものに個室したから、陰陽師という古い文化が新世代に昇華できないから。お姉ちゃんという悪霊を生んでしまった。自分の家族に責任を感じた。自分の義理の父親と、自分の姉を殺したのは、無理心中に追い込んだのは、紛れもなく陰陽師機関なのだ。


 「お前なんかに構っている暇はない。俺はお姉ちゃんに会いに行く」


 「お前、本当に何者なんだ?」


 「そこをどけよ。俺は急いでいる。そこをどけ!!」


 絶花はいつもの冷静さを捨てて作戦ナシに走り出した。走行中に御札から折りたたみ傘を取り出す。柄を伸ばして片手で一回転させると、奴に向かって思いっきり殴りかかった。しかし、攻撃は通らない。軽く片手で受け止められてしまう。中学生と成人男性。身体的なアドバンデージがある。


 「俺はこれから全ての陰陽師をぶっ飛ばして、そのまま陰陽師の世界の頂点に立ち、この世界を平和にする。今の陰陽師の世界は混沌としている。秩序を失い、統率は乱れて、規則は崩壊だ。世界が俺の登場を待っているんだよ」


 「ふざけるな。もう後任の党首様は存在する。お前みたいな自己中心的な人間が党首になんてなってたまるか。俺は断じて認めない」


 「違うな。自己中心的な人間こそリーダーに相応しいのさ。他人の為に生きる人間に魅力なんか無い。男は口じゃなくて背中で語るものなんだよ!!」


 左手で折りたたみ傘をがっちり抑え、右手で絶花の眉間を殴打した。背後に飛んで尻餅をつく。すかさず立ち上がって距離を取った。


 「俺は生きたいように生きて、したいようにする。俺に従いたい奴は拒まないし、去る者も追わない。戦いたい奴は掛かってくればいい。人間は戦うことで語り合える。拳と拳が交われば、そこに言葉なんかいらねぇ。俺が党首に相応しいと暴力で納得させてやる」


 悪びれもせず格好つけながら、さぞ凛とした表情で言い放った。顎を上げ見下すように身長の低い絶花を眺める。絶花は精一杯の威嚇で奴を睨む。


 「陰陽師の目的は悪霊の駆除だ。お前のやっていることは陰陽師の本分に害するぞ。守る為の力だ、それを支配する為に使うなんて」


 「弱い奴に悪霊は倒せない。強くあろうと思わない奴は一生かかっても弱いままだ。競い合いの精神はどこでも必要だ」


 「違う。世界を守る為に自分を高められる。その崇高さこそが陰陽師の証だ。自己犠牲と慈愛の精神の無い者が、陰陽師なんか目指してはいけない!!」


 「そんな人間がこの世にいるはずがないだろ!!」


 奴が遂にふところから式神を取り出した。情報としては唐傘から聞いている。図体で言えば化け鯨以上だろう。実際の大きさはこの前の幽霊列車よりも巨大。土属性の妖怪にして捕獲不能レベル。


 「来やがれ!! 大百足!!」


 現れた、表現したくもないくらい禍々しい妖怪の姿が。真っ赤な鮮血の色合いの顔。強靭そうな上顎と下顎に長い触角がある。目玉は真っ白。それ以外は神々しく黒光りした甲殻がある。それが何重にも重なり合っていて、その両側から気色の悪い脚が何本もウネウネと生えている。体毛が真っ白な羽のようだ。


 「大百足……」


 「唐傘お化けってことは、お前は水属性だな。俺との相性は最悪。戦う前から勝負は決まったようなものだな」


 「お前のその醜い精神が妖怪にも現れているようだ」


 「あぁ?」


 「見せてやる。本当の陰陽師の戦いってやつを。俺のお姉ちゃんに手を出そうとしたからには容赦なしだ!!」


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