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蝶蝶

私が式神契約を出来る理由。それは私がただの『適正ナシ』の人間ではないからだ。私の元は陰陽師としては最強格であった竜宮真名子だ。倉掛百花にしたって多少の妖力が体にあった。つまり陰陽師としての機能は私には十分あるのである。


 私は人間であり、陰陽師であり、悪霊なのだ。妖力が消えてしまった状態でも。


 「式神契約は陰陽師の常識として妖力を持つ者に許される特権だと言われる。しかし、それは違う。妖力などなくとも、人間は妖怪を目にすることが出来る。しかし、干渉は出来ない。でも一度でも干渉した人間ならば何度でも干渉出来る。例え、一度死んで、また生き返った人間だとしても」


 「これもあなたの仮説を裏付ける実験だったの?」


 「うん。まあ目的の主題は私の後継者を生み出すことだけどね」


 柵野栄助は薄らとポニーテールの方を見た。奴は水中の中で踊り狂うように飛び跳ねている。バレリーナのように、体をグルグル回転させながら、手や足を白鳥のように伸ばして舞い踊る。本来ならば水圧であんな複雑な動きが出来るはずがないのに、物理法則を完全に無視している。


 「どうして私たちだったの?」


 「竜宮真名子は特別な存在だ。陰陽師なんて軽い括りに入れてはならないくらいに。五行の水を司る神聖なる巫女。くらいは安倍晴明より上。つまり党首以上。ただし政治的な権限を持たない。この世界に危機が訪れた時だけ、世界を救う架橋となる存在だ。日本の中でも五本の指に入るほど、竜宮真名子の妖力は量も質も特別な物だった」


 なるほど、レベル4なんて簡単に作れるはずがない。バトル漫画でいうなら『膨大なエネルギーが必要』となってくる展開だ。だが、竜宮真名子がそれを一人で解決してしまったのだ。


 「それともう一つ。悪霊として最も大事な素質。それは『怨念』だよ」


 怨念? 実の娘を殺した倉掛花束に対する倉掛百花の恨みだろうか。でも、倉掛百花は父親の苦しみも理解していたはずだ。それに倉掛花束はこの世にもういない。いったい誰を恨むと言うのだ。


 「陰陽師を恨んでいるのだよ。君だってそうだろ?」


 陰陽師……。そうか、合点がいった。確かに私は陰陽師という組織が嫌いだ。古い格式に縛られ、人民の記憶を書き換える。なにより大切な家族を奪い取った。


 「憎いよ。確かに陰陽師は今でも大嫌いよ。でもそれで復讐しようとは思わない。彼らだってこの世界を守る為に戦っている。だから不備があるのも仕方がない」


 「と、思えないだろう。君は時代の変革を知っているはずだ」


 時代の変革? 確か似たような言葉を絶花が言っていたな。陰陽師が徐々に馴れ馴れしくなってきている。妖怪を奴隷としてきたのが、今は変わった。陰陽師は人と関わりを持ってはいけなかった、それが変わった。陰陽師は秩序ある由緒正しい防衛組織だった、今は壊滅した。


 「時代が変わった」


 「そう時代が変わったのさ。昔は町工場は助け合うものだった、だが今は違う。倉掛花束の工場は破産して借金で頭が回らなくなった。不景気になったものだよ。昔の人間はもっと逆風に強くてストレス耐性があった。だが、倉掛花束は娘と心中すると言い出した。今は昔よりも家族を大事にする家庭が多い。だから母親を奪われた倉掛家は精神的に追い詰められた」


 時代の流れに添って生きていけない者は死んでいく。ダーウィンが言った。この世で最も生き残る生物は、強い生き物でも、賢い生き物でもない。変化に適応できる人間であると。陰陽師は変化に乗り遅れた。いや、動きはあった。それが緑画高校の生徒や七巻龍雅のような陰陽師だろう。しかし、大部分は間に合わなかった。受け入れられなかった。変化を拒んだ。


 「とあるベテラン先生が言ったんだ。ワシは20年間も同じ教育方法をとってきた。それで今までは成功していた。なのに最近になってクラスが学級崩壊を犯す。おかしい、最近の子供はおかしい。社会が悪いからだ、と」


 私はそろそろ寝そべっている体制を起こした。右手で左肩を掴んで、奴を睨みながらゆっくりと立ち上がる。


 「違うよね。今と昔の子供が同じはずないだろう。20年前の教育方法が今の子供に合うはずないじゃないか。でも、人間は変わらない生き物だ。自分が正しいと思えば疑わない。自分が間違っていると思って生きるのは辛いからだ。人を傷つける理由なんてそんなものだろう」


 ★


 「唐傘。私の力でアイツを倒せる? それと絶花は今どの辺にいる? そろそろ到着しそう?」


 私は胸ポケットにしまってある唐傘に返事を求めた。もし勝ち目があるなら、最低でも逃げられる可能性があるならば。


 「唐傘。返事して」


 「お探しのものはこれかい?」


 奴の手には二枚の御札があった。唐傘お化けと蒲牢の御札。私の武器を奪われたのか。用意周到だな、いや熟練の戦士なら敵の武器を気絶中に奪うのは当然か。


 「そう言えば、コイツは君の正体を初めから知っていたみたいだぜ」


 そう言って何故か柵野栄助は私に向かって御札を一枚だけ投げた。ひらひらと蝶蝶が飛ぶように私の手に御札が帰ってきた。


 「蒲牢……」


 「だから言っただろ。アンタとアンタの弟は、初めから戦う運命だって。陰陽師と悪霊だから」

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