表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
111/221

早足

この二人、確かに楽しい雰囲気はある。七巻の部下ということで精神が陰陽師風味の古風ではないので、一般の高校生の友達と会話している気分だ。七巻とはもう精神では断絶しているが、この二人とは仲良くなれそうな気がする。


 「ねぇ、名前はなんて言うの?」


 「「ごちそうさまでした」」


 二人は私の質問に被せるように両手を合わせて叫ぶと、皿をそのままに勢いよく立ち上がった。手を合わせるタイミングが完全に一致していたので、少しびっくりした。ポニーテールの方の皿は無残に食い散らかしてあったが、ツインテールの方は見事に彼女の周辺の皿の上が綺麗に消え去っている。あの量を全部一人で食べたのか……。


 「あの……」


 今まで楽しく会話していたのが嘘のように、二人は私の言葉になど耳を傾けず、早足で去っていく。呼び止めようと思う前に、部屋から消えてしまった。酔いどれているとはいえ、上司である七巻を完全放置とは随分と忠義心が薄い連中である。


 「まあ名前なんていつでも聞けるか」


 七巻は完全に酔っ払ってしまって動けなくなっている。竜宮の使用人に肩を担がれながら部屋を後にした。その後に母親の方を見るとグッタリとしている。手を差し伸べようと立ち上がったが、母親は私の方を見ずにさっさと部屋からいなくなってしまった。私に疲労している姿を見せたくないのか。


 「私、一人になってしまった」


 結局、ろくに食事に有りつけていなかった。私一人で孤独に食事を再開する。


 「やっぱり美味しい」


 我が家に帰ってきたという感覚は一切ないが、それでもここが私の出身地だというならば、体がこの味を求めていたのであろう。来る決戦に向けてエネルギーを体に入れておく必要がある。ここが一世一代の大勝負なのだから。


 「姉君……おかしいです」


 「あぁ、唐傘。どうしたの? 一人で食事は寂しいから話し相手になってよ。ここの従業員の人に話しかけても、マトモな会話をしてくれないと思うからさ」


 「姉君。よく考えてみて下さい。どうしてあの七巻龍雅の護衛の娘は、『あなたの居場所を特定』出来たのですか?」


 先ほどのツインテールが美味しいそうに頬張っていた刺身を頂く。やはり美味しい。こんな高級な鮮魚は初めてだ。長年の貧乏生活の反動は凄まじい。


 「え? 絶花や一輪さんが私の家に来たことで、柵野眼が世間から私の存在を神隠しすることが出来なくなったから。外部の感知能力者も私を特定できるようになった、って結論が出たんじゃないの?」


 「そんなはずはありません」


 私は口直しに高級そうな水を飲んで一息入れると、今度は真面目に尋ねてみた。


 「なんで?」


 「あなたの何を感知したというのです? あなたには今も妖力なんて流れていない。一般人と何も変わらないのです。陰陽師は妖力を探って悪霊や妖怪、他の陰陽師を特定します。その能力を長距離に発信できる優れた人間も存在します。しかし、何の妖力もないただの人間を感知するなんて不可能ですよ」


 「う~~~~ん」


 少し考えて、確かにおかしいということに気がついた。


 「え? あいつ、どうやって私の居場所を特定したの?」


 その言葉のあとに脳内が麻痺したような感覚がやってくる。途轍もない睡魔が私を襲ったのだ。


 答えは簡単だった。凄くシンプルな答えだった。私の居場所を知っている人間なんて、アイツしかいないに決まっている。気が付くのが遅すぎた。どうして私はこの可能性を懸念していなかったのだろう。私が最も会いたかった奴じゃないか。


 「あのポニーテールが柵野眼だ!!」


 奴がこの場所へと連れてきたのだ。私をこの場に連れてきて竜宮の『風景』を見せれば、睡眠を取って夢を見た時に、過去の思い出と直結して全てを思い出すから。ここに来たのは偶然ではなく、柵野眼の作戦だ。ここまで奴のシナリオ通りなのだ。奴は強行手段に出たのだ。


 椅子から転げ落ちそうになるのを、椅子の柄とテーブルクロスを握り締めることで、なんとか状態を空に残す。しかし、今にも気を失いそうだ。


 「しまった、油断した……眠い……」


 悪霊の分際で食事に睡眠薬を投入なんて、推理小説みたいな事をやってくれる。慌てた従業員や警備員が私の方へ駆け寄ってくる。さぞ不安そうな顔つきで。だが、見てられない。まぶたが今にも閉じそうなのだ。私はついに地面へと倒れ込んだ。テーブルクロスが一緒に滑り落ち、皿の何枚かが割れる音が聞こえた。


 「こいつだ」


 割れた皿の破片を握り締めた。激痛と共に少しだけ頭が冴えてくる。流れる血を見て従業員が悲鳴をあげる。それを気にすることもなく、私は歯を食いしばりながら必死に考える。この今の状況を。


 「なんで私を眠らせたい? それと……あのツインテールはどこの誰だ……」


 絶花はまだ到着していない。ここで私が寝ている間に奴が暴れ回れば……この竜宮城は壊滅する。しかし……もうこの状態の私にはどうしようもない。


 この夢で何を思い出す。過去の場面のどこに直結する。竜宮真名子の記憶といえば、龍宮城での陰陽師としての教育か、母親との外に出た楽しい思い出か、それとも倉掛百花との友情話か。


 どこ? どこに飛ぶの? 睡魔が完全に私を覆い尽くした。

 

 ★


夢の中でたどり着いた場所は、倉掛家のお茶の間。いつも私たち家族が囲んで食事をする場所。そこにいたのは部屋に向かい合っている倉掛百花とその父親の倉掛花束。それを押し入れから見ている私(竜宮真名子)。


 は? 


 「百花、俺たちはもうおしまいだ。一緒に死んでくれ」









 ………………………………は?

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ