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冷静

 弟は自慢気に笑みを浮かべる。あの調子に乗った顔を歪めてやりたい気分だが、今はあいつにしか頼れない。余裕があるなら、はやく始末して欲しい。


 「化鯨。そのまま抑えておけよ」


 奴が悪霊へと近づいて行く。あの手に持っている傘で物理攻撃するつもりか。それで倒せるなら是非も無い。私の焦りなど無視して、弟はゆっくりと勿体ぶって歩いている。遅いんだよ、はやくしろよ。時間かける事に何の意味があるのだ。


 「ない……ですね。ただの格好つけているだけです」


 「そんな……これ……仕事だとか言っていたよな」


 「仕事の……はずですが」


 はずってなんだよ。もうあの馬鹿弟は意味もなく時間をかけ……て……いや、意味はあるのか。あいつ……まさか……。


 「もしかして一撃で倒せないから戸惑っているんじゃないか?」


 「なるほどです。格好つけたはいいが、それに見合う成果が得られないから。時間をかけて取り敢えず、時間稼ぎをしているのですね」


 待たせているこっちの身にもなれ……あぁもう!!


 私は今に話しかけていた、左手の折畳み傘の柄の部分を伸ばした。虎穴は入らずば虎子は得ない。ここは姉の私が決着を付ける。倒せなくても、弟がどうにかしてくれるだろう。


 「いけません。姉上様。作戦以外の行動を取ってしまっては」


 私は弟と真逆の方向から駆け寄り、傘の部分を悪霊に叩きつけた。ギャラリーが信じられないという声を発する。弟の顔も驚いた顔になった。見たか……いざ攻撃してしまえばこっちのものなのだ。悪霊は転がった。腕に当てた感覚はあった、ダメージを与えたのは間違いない。


 「どんなものよ」


 「いけません!! 化鯨の拘束が解けました!!」


 え? なんだって? 折り畳み傘がなにか奇妙なことを言った。拘束が解けた? まるで私が余計な真似をしたような言い方じゃないか。


 「あ~あ。お姉ちゃん。やっちゃったよ。人間の目には見えないだろうけど、実は目に見えない拘束を貼っていたんだよね。化鯨の口からその糸が張っていたのだけど、今ので取れちゃったね」


 ……それは……マズイ。やってしまった……。折角の捉えた悪霊を開放してしまったのか……。


 「ちょっと、化鯨だっけ? はやくもう一度拘束してよ!!」


 「そんな簡単は話じゃないから。悪霊を一匹……そして一人で拘束するとか、入念な前準備があって、始めて成り立つことだから」


 じゃ……私の不用意な行動でここまでのお膳立てが全て無駄になった……。弟が真面目に取り組んでいたであろう仕事を、肝心な大詰めで台無しにしてしまった。


 「ごめん、私が……」


 「いいよ……俺もモタツイテいたから。お姉ちゃんがまさか痺れを切らして突進するなんて考えていなかったから」


 なんかもっと怒るかと思えば……なんかまだ冷静だ。取り乱してはいない。どっちかと言うと、ヤベェみたいな顔をしているが、それでも冷や汗だけでまだ頭では何かを考えている。


 「お姉ちゃん。最悪なことをいうんだけどさ。ここで二人で心中かも」


 「はあ…」


 なんだと……なんだって!! 何を言っているのだ。確かに私は作戦の邪魔をしたのは認めるが、対象を見失ってもギャラリーだけは助けるとか……そういう算段ではないのか。


 「お姉ちゃん。見ろよ、あれ」


 ギャラリーがギャラリーじゃ無くなっていた。全員の目がおかしい。さっきまでの震えや発狂はどこにいったのだろうか。まるで誰かに洗脳されたように、まるで隊を組む軍隊のように。


 「うわぁ」


 「洗脳されているじゃん。あの……悪霊に……」


 そうなのだ、もうそう判断せざるをえない。もう全員が正気を保っていない。目がどこを向いているのか分からない、それでいて戦意だけは完全にこっちを向いている。

 

 私と絶花は距離を取る為に、化鯨を利用して結婚式の祭壇まで逃げた。悲しい事に親族の皆さまも悪霊にとり憑かれている。この場いったいはもう奴の術中に嵌ったと言っても過言ではない。自分の家族なのに……こんな真似をするのか。生きていた頃の家族愛は消えてしまったのか。悪霊に何を望んでも無理なのか。


 「あんたの仲間はどうしたんだっけ?」


 「全員がこの建物の裏側から防御壁を張っている。最悪は見捨てて、この場にいる全員を含めて封印ですね」


 「私は助からないじゃない!! ふざけんじゃないわよ!!」


 「いやいや、諦めるのは早いって。ここはベテラン陰陽師である倉掛絶花さんに任せてくださいな。お姉ちゃん」


 弟が歩いた、傘を構えて。戦う決心のようだが、この人数差で真面な反撃ができるだろうか。


 「しゃぁ!!」


 すぐ目の前の中年男性が私を襲った。まるで昔に見たゾンビ映画のように、私を掴みかかろうと前のめりに歩いてくる。あんなにヨタヨタと歩いているのに、なんてスピードだ。


 「させるか!! 俺のお姉ちゃんに触るな!!」


 弟が素早くガードに来た。どんな事をするかと思えば、なんてことはない。ただ……右の拳で相手の顔面を力一杯殴っただけである。親族のお方になんて酷い真似を。この人は被害者なのに。まあそんな悠長な事を言っている状況でもないが。現実じゃセクハラだったろうし、今のは見なかったことにしよう。


 「さぁて。技を見せていこうか。鬼神スキル『宵氷』!! 拡散モード!!」

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