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失踪

 「そして?」


 「絶対に他言しないことを条件に色々と教えたわ。この城をてきとうに見学させた。陰陽師も後継だけで人材が回らないから、適性がある人間を外界から受け入れる場合もあるの。少しは妖力を秘めていたから、最悪はここで働いてくれれば良いと思った。彼女も乗り気だったし。何よりも真名子に友達が出来たのは嬉しかった。最低限の人との接し方を学ぶなら、この子には意味がある」


 なるほど、会話の練習台か。確かにありえそうな話ではある。母親としては娘に友達が出来たのは、純粋に嬉しかったのだろう。しかし、話はそう簡単には終わらない。


 「でも、やはり親御さんのこともあるから、取り敢えずは半日で家に帰した。本人は嫌がっていたけど、誘拐事件なんて騒がれたら溜まったものではないから。住み込みで働くならば、それなりの理由を彼女の身内の記憶に擦り込まなくてはならない」


 彼女には母親がいない。記憶を改変する対象者は倉掛花束のみ。だが、それでは倉掛花束があまりに可哀想だ。陰陽師に自分の最愛の人を奪われて、その次に娘まで奪われるなんて。でも、いくら陰陽師の情報を知りたいからって、倉掛百花が竜宮に居残りたいと主張するかな。あまりに父親の事を失念し過ぎではないか。確かに魅力的は話ではあったのだろうが、父親のことは考えなかったのか。


 「真名子と携帯電話で通話しているみたいだった。ここの従業員になるかは、判断を真名子に委ねた。別に私はその事を深く考えていなかったから、彼女がここで働くのがいつになろうと、働かないという決断になろうと、どうでも良かった。今でも私は『倉掛百花』なんて名前だったことも知らなかったくらいだし」


 おそらくこの携帯電話でも通話の中では、お母さんの想像を超える話だったのだろうな。倉掛百花は母親を捜すことで、竜宮真名子は彼女を助けてあげることで躍起になっていた。


 「それからも外界には出て行った。その度に倉掛百花ちゃんにはガイドをお願いしていたの。彼女は快く受け入れてくれた。まるで恋人とのデートプランでもたてるかのように、私と真名子が楽しめる計画を選んでくれた。私はそんな光景が微笑ましかった。でもそれは、あの遊園地が最後になってしまった」


 そうだ、ここでようやく竜宮真名子が失踪するのだ。何者かに誘拐されて。おそらく悪霊と化した倉掛百花、今の柵野眼に誘拐された。いや、何かおかしい。倉掛百花はいったい誰に殺された? そもそも何で殺される必要があるのだ? 彼女に陰陽師の概要を吹き込んだ奴とは同一人物なのだろうか?


 「あの遊園地に行く前の待ち合わせ場所に倉掛百花は現れた。でも……その……私が無能だったわ。遊園地を巡っている最中に、私が目を離した隙に二人でいなくなってしまったの。それっきり会える機会はなかった。私が知っているのはここまでよ」


 倉掛百花の連絡先を知っているのは竜宮真名子のみ。一緒にいなくなった彼女を捜す手立てはない。そもそも当時は子供だったであろう倉掛百花が同学年程度である竜宮真名子を誘拐したとは考えにくい。何かしらの目的で誘拐したのだとすれば、すぐさま事件になっているはずである。だが、その後も何の手がかりも見つからなかった。犯行は他の陰陽師だと断定されたのも分かる。竜宮へと恨みを抱えている人物は少なからずいる気がするから。


 「それにしても……記憶喪失はまだ分かるけど、どうしてあなたは妖力を失ってしまったの?」


 「お母さん。その答えは私も分からないよ。少しも体の中に妖力が巡っていないの」


 「それでも妖怪を式神には出来ている」


 「普通、それも出来ないはずらしいけど。私にはそれが出来るみたい」


 そう言って御札から折りたたみ傘の唐傘を取り出した。傘を広げて傾けると、お母さんの目線と傘の目玉が合うように動かした。


 「唐傘お化け。なるほど、水属性の妖怪ね」


 「えっと……その……このたびはまことに……」


 唐傘が言いよどんでいる。竜宮城の乙姫様なんて重鎮を相手にするには心の準備がまだだったのだろうか。かなり取り乱した、裏返った声を出している。


 まだ分からない事は山ほどある。しかし、少し自分が何者だったのか、分かってきたような気がする。


 ★


 大広間に移動した。真っ赤な天井には様々な妖怪や神様の絵柄が描かれており、和風アートを感じさせる。金ピカに彩られた美しい部屋である。金色と朱色の絨毯じゅうたん。銀色の花瓶に美しく生けられた花々。豪華料理が立ち並び、皿の一枚一枚が凄まじいお値段である気がする。目がチカチカして逆に落ち着かない。


 「こんな部屋でご飯食べるの……」


 皿には高級和風海鮮料理が立ち並ぶ。高級な料理など口にする機会がなかったので、あまり美味しそうに感じない。なにより皿の種類は多いが、皿に乗っている量が少ししかないので、どこか腹が立つ。しかもここの従業員らしき乙女達がまだせっせと料理を運んでいる。この苦労の前に用意を手伝わなかった自分が悠々と食べるのは良心が痛む。なにより……。


 「おう。待っていたぜ」


 コイツだ。七巻龍雅。コイツが食事の席の向かい側にいるのだ。

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