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彷彿

私に必要なのは、過去の出来事を完全に知ることだ。自分が何者なのか、大体分かってきたが、それでもまだ腑に落ちない点はいくつかある。だから、まだ私の戦いは終わっていない。


 「お母さん……お願い。教えてください。倉掛百花について」


 「教えてと言われてもねぇ。私もそんなに顔を見たわけじゃないから。出来ればあなたを外界の人と接触させたくなかったの。その……竜宮のお姫様だと知らずに、お友達なんてできたら困るから。あなたのプロフィールを他の人に知ってもらうわけにはいかなかった。記憶を失う前のあなたも了承していたことよ」


 「う~ん。それは分かる」


 でも結果的に友達は出来た。それが今まで私が演じてきた倉掛百花であるだろう。でも、陰陽師が悪霊と友達になるだろうか。竜宮のお姫様なら妖力は嗅ぎ分けられるだろう。つまり、知り合った間近の頃の倉掛百花は生きていたことになるのかな? 


 「確か駅のホームで知り合ったんだよね?」


 「えぇ、私が目を離した隙に女の子が駆け寄ってきたの」


 駅のホームでの倉掛百花との出会いは思い出している。それは柵野眼が幽霊列車と戦うことで、私の夢に見る事を操作し駅を彷彿とさせたのだ。だからその時に後ろから女の子が駆け寄ってきたのは覚えている。それが……生前の倉掛百花だった。


 「かなり古い駅のホームでね。深夜の無人駅にその子はいた。あなたは初めは凄く戸惑っていた」


 そりゃあ同年代の友だちなどいなく、ろくに会話もした事がなかっただろうから。


 「私はその時にすぐにその場を去りたかったけど、なかなか電車が来なくてね。寒空の中に行く宛も分からず飛び出るわけにもいかなかったから、もうその駅にいるしかなかったの。でも……お母さんも外界に慣れていなくてね。いくら電車を待っても来ないと思って、時刻表を確認したら……もう今日の電車はなかったの」


 ……どうして二人だけでお出かけしたんだよ。案内役でも付ければ良かったのに。いや、外に出ることは本来はタブーなことだ。だから二人だけでこっそり行っていたのだろうな。そしてどこで乗り換えてとか分からなく、僻地へきちに流れ着いたと。


 「それで……どうしたの?」


 「電話して控えている仲間に救援要請を出した。でも……到着までには時間がかかる。だから、大人しくしているつもりだったのだけど、その倉掛百花ちゃん、だっけ? その子とあなたの会話が変な流れになったの。私が気が付くのも遅かった」


 会話が変な流れになった? 友達になりたいなら、変な流れになっちゃ駄目だろ。どういうことだ?


 「あの子は……どうも『陰陽師』について嗅ぎまわっているみたいだったの。理由は良く分からないけど、陰陽師の知識を集めていた。どうもその子には少しばかり陰陽師の適正があったみたい。でもごく微量の妖力で、私の目から見ても適正ナシの子供だった」


 理由は簡単だ。倉掛百花は『母親』を探していたのだ。倉掛百花は陰陽師と一般人のハーフだ。適性が無くとも微量の妖力は体の中にあった。だから、何かしらのタイミングで陰陽師の存在を知ったのだろう。生後間もない頃に母親から引き離されたので、陰陽師から記憶の操作もされていないことが根拠として裏付けられる。


 「私が目を離した隙に真名子に色々と陰陽師の知識について質問していた。真名子は陰陽師の規範も把握していない箱入り娘。コミュニケーション能力は皆無。洗いざらい全てを正直に語ってしまった。あの頃のあなただって陰陽師が一般人に異能の力を悟られてはいけない事は分かっていた。でも、分かると出来るは違ったの」


 これにより、更に倉掛百花は陰陽師について知識を知ってしまった。おそらく理由は母親に会うことだっただろう。何者かに陰陽師の情報を吹き込まれ、それを私たちによって拡大させてしまったのだ。


 「焦ったわ。すぐにその子の記憶を消そうとしたけど、その子は頑なに頭を触らせてくれなくてね。それどころか真名子まで『やめて、お母さん』なんて言い出して。今まで私に反抗なんてしたことなかったのに、腕を引き離そうとしたの」


 おそらく母親を探していることを聞いたのだろう。その頃の私は倉掛百花に同情したのだろうな。この子をお母さんに合わせてあげたい、そう思ったのだろう。


 「仕方がないから、その子供も一緒に連れて帰ったわ。そうするしかないもの。そもそも深夜に家を抜け出す子供だから良いと思ったわ。最悪はその子とその子の親の記憶を奪えば良いと思っていたし」


 陰陽師の記憶消去って、こんな感じで『いざとなったら』みたいなスタンスがあるから駄目だと思う。便利な物を多様すると必ずどこかに弊害が生まれる。そのせいで倉掛百花は母親を失う事になったのだから。


 「百花ちゃんも凄く乗り気だった。私が両親が心配していることを尋ねても、『大丈夫、大丈夫』の一点張りだった。私もこの子の積極性は好奇心では説明がつかないとは思っていたわ」


 こうして、倉掛百花は竜宮へと向かった。

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