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巫女

 あまり驚かなかった、もうここに来る前から予想は出来ていた。流石に私と結婚すると言い出したのまでは計算に無かったけれど、それでも大筋は考えていた通りだ。奴の言う戦争とは、陰陽師の世界を全て牛耳ることである。今は本部が壊滅し跡取りはいなくなった。辛うじて分家である相良十次が党首の跡を継いだ。活動も順調だが、如何せん人気は低い。


 七巻龍雅は新しい党首になろうと思っている。今はどこに地方も混乱状態でマトモな敵侵入者の迎撃が出来ない。あの大百足はかなりの大型妖怪だ。今のザル守備ではあっさり占拠されるだろう。


 しかもこいつは竜宮城という大きな城まで手に入れた。そう簡単に攻撃できない、いや神聖な場所として攻めるという発想にすらなれないようば場所を。そしてここは本部のある京都に距離が近い。喧嘩を売るには最適な場所だ。


 そして竜宮城は陰陽師の中でもかなりのパワースポット。竜宮には玉手箱のように、絶大かつ神秘な力が多く存在する。きっと乙姫の力をも利用する気だ。


 「この下衆げすめが……」


 母親が私を抱きしめながら血を流すような涙で七巻を睨む。憎悪と憤怒の感情がその締めつけから感じ取れる。折角、出会うことが出来た生き別れの娘にあったのに、娘を全く愛してなどいない男に、また奪われるのだから心中穏やかではないだろう。


 「苦労したぜ。巫女姫を捜索するのはさぁ。なにせ竜宮の力を持っても見つけきれない神隠しだったから。きっと結界で防御されていたはずだ。だが、その巫女姫様を誘拐した犯人の力は、何かしらの原因で弱まったみたいだぜ。あとは潜伏場所をいち早く察知して、誰よりも先に迎えに行くだけだ。こいつが妖力を感知する能力を持つ陰陽師でな」


 七巻の腰巾着である後ろの女性のうち、女子席に座っていた小柄なポニーテールの黒髪少女が元気よく手をあげた。悪びれもせず、凄く嬉しそうな笑顔で。もう片方の女の子もニコニコしている。罪の意識は無いようだ。長年、行方不明だった少女を見つける為に協力した、自分たちは偉い、その程度にしか考えていないようだ。


 いや、そんなことよりも重要なのは、今の七巻の発言だ。悪霊が私を守っていた? 悪霊である倉掛百花こと柵野眼が? この私を守っていただと!?


 温羅から妖力と能力を奪う為に私を利用したのは分かる。奴が自分が死んだ後の生活を、私に代行していたのは分かる。だが、奴がどうして私を守るという話になる? もっと効率の良いパワーアップはあっただろう。私を倉掛百花と偽装してまで、どんな思惑があったのだ。


 だが、納得できる部分もある。柵野眼の力が弱まったという話だ。それはきっと倉掛絶花が原因だ。私が異能の存在に気がついてしまった。中国の大妖怪が現れたり、京都に遠出したりした。もうあの苫鞠とままりの地で私を匿って、周囲を結界で神隠しするには限界があったのだ。そこは妙にしっくりきている。


 柵野眼の力が弱まったからこそ、私はこの男に見つかったのだ。


 「さぁ、結婚式はいつにしようか」


 「はぁ? ちょっと意味が分からない。どうしてあなたと私が結婚するの? そもそもあたしはまだ高校生であって……」


 「おう。だから結婚できるだろう。昔は君くらいの歳で子供を生んでいたんだぜ」


 法律の話や歴史の話をしているのではない。もっと倫理的な話をしているのだ。


 「お母さん、私との結婚を条件にアイツに捜索願いを出したの?」


 小刻みに震える母をなだめながら出来るだけ優しい口調で言った。久しぶりに会った母親に対する第一声がこれとは悲しい。母は首を振った、まるで激しく訴えるように。


 「まさか。陰陽師の中に巫女姫様との結婚に見合う人間は、全国でも片手の指くらいしかいない。捜索願を見て、巫女姫様を発見したとしても、無条件で竜宮へと届けるさ。一か月前までの世界観ならな」


 だが、今は党首によって統率される規律正しい陰陽師の世界ではない。混乱状態にある今に常識的な判断をする者はいないのだろう。特にコイツみたいな野郎は。


 「だから俺が交渉したのさ。娘さんを見つけた。その娘を無事に届けて欲しければここの主にしろってな。そして今、シナリオ通りになっているというわけだ。俺を非道扱いするのは構わないが、『巫女姫を竜宮に届ける』っていう向こう側の交換条件をしっかり果たしている点は評価してくれよ」


 自信満々に、まるで自慢話でもするかのように、極めて偉そうに言い放った。途中から私は唖然とした顔で呆れていた。


 「ねぇ、そのさっきから言っている巫女姫ってなによ? あぁ、御免。お母さん。私、実は記憶喪失で陰陽師の知識が触りくらいしか知らないの」


 母親が私の顔の方を向いて優しい声でささやいた。


 「陰陽師の世界には五行を司る神聖な巫女が五人いるの。妖力の源であり最初の陰陽師と呼ばれる者の末裔よ。いわば陰陽師界を裏から支える五本の柱」


 私が水属性を使っていることや、ここが竜宮城であることから、きっと私は水の巫女だった。なるほど、コイツにとって私は最高の棚からぼた餅なわけだ。

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