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大変遅くなり申し訳ありません。

これからはもうちょっとなんとかしていきます。

私たちは一本道の階段をどんどん下って行った。


「ウィスプが!」


「みゃぁぁぁぁ!」




「ゾンビが!」


「ひぎゃぁぁぁ!」




「ブリッジで階段を下る女が!」


「ぎやぁぁぁぁぁぁ!」






・・・とまあ数多のアンデッドどもを浄化しながら、どれだけの距離を降りただろう。

私はもう完全に開き直っていた。


「びっくりするほどユートピア!びっくりするほどユートピアぁ!」


握りこぶしで先頭をずんずん歩いていく。もう何も怖くない!

次に何か来たら、全裸になり白目を剥いて尻をパンパン叩く覚悟はできている!


「ねえ、あんたの妹どうしちゃったんだい?」


エクアが完全にヒいているが、そんな些末なことは気にしない。


「あの子はとっても怖がりなんだよ。昔から、風が強い晩には怖がってなぁ・・・

『お兄ちゃん一緒に寝て』ってせがんできて大変だったんだ。

ほらセリゼ、一人で先に行くと危ないだろ?」


妹の奇行に慣れきった兄は通常運転である。さすがの貫禄。

感知したお守り袋の動きはすぐ先で止まっている。どうやら目的地にたどり着いたようだ。

頭上の光源とは違う、うすぼんやりした光を放つ入り口が見える。

入れば絶対に何か出てくるだろうが、引き返せないのでどのみちそちらに向かうしかない。

突入である!


中に入ると、そこはちょっとしたコンサートホール並みの広場があった。半球のドーム状で、天井付近は白く小さな石が組み込まれて装飾されている。

何もなくがらんとしたドームの中央に祭壇のようなものがあり、上にお守り袋・・・あやしすぎだろ。

明らかに取りにいったらそのまま襲われそうな雰囲気を醸し出している。

とりあえず、ポケットからいらなそうな端切れ(お守り袋を作った余り)を出して、投げてみる。


「えいっ」


ぽてっ。

端切れはお守り袋の上に落ちた。しばらく待ってみたが何も起こらない。人が近寄らないとだめなのかな?いやでも・・・


「何してるんだ?」


迷っているうちに兄がさっさと取りに向かって行ってしまった!いやいや、もっと慎重になろうよ!

さっきの勢いはどうしたことか、私は脳内で文句を言った。これは死にフラグだろ!ホラー映画では一人目の犠牲者になるところである。


「兄さん気を付けて!上!それか後ろ!それか足元!」


「どっちだよ!?」


突っ込みを入れる兄。祭壇に登ってお守り袋を回収し、「な?何もないだろ?」といいたげにしている。

いやいや上を見て上を!

天井にはめ込まれていた白い石が盛り上がり、うねうねと蠢いている。いや、あれは石ではなく・・・骨?兄も異常に気付き、飛びずさってこちらに戻ってきた。


「お前は下がってろ!」


兄とエクアが剣を構えて前に出た。

その間にも骨は天井からメキメキと音を立てて伸び、昆虫のような関節を持つ脚を無数に生み出していた。浄化の光を放つが効いた様子はない。


「効いてない!」


「どういうことだい?!」


「何かほかの力が干渉してるのよ!」


「この遺跡に異常にアンデッドが発生するのも、そのせいか!下がってろセリゼ!」


昼日中の町の外までゴーストを向かわせることができたのもそのためだろう。きっと同じような手段を使って、人間を中まで連れ込み強引に仲間にしていたのではないだろうか。あの骨には誘われた被害者の物も含まれているかもしれない。その果てに生まれた化け物は、脚を一斉に痙攣させると、やがて中心にある塊ごと、地響きを上げながら落下した。入り組んだ骨が人の苦悶の顔にも見える、無数の脚を持つおぞましい蜘蛛が生まれ出た。


「力よ!」


私は急いで兄とエクアに強化の術を掛けた。攻撃力、守備力、素早さがみるみるうちに上がっていく。剣にアンデッドに有効な浄化の力も付与し、少々の打撃では傷を負わないようにシールドも張った。あの牛鷲もどきでは恥を晒したが、今回は後衛の本領を見せてやる!私のハッスルバフバフを見さらせ!


「うっわ!気持ち悪いくらい斬れる!」


骨蜘蛛の脚を、フランスパンみたいに切り飛ばしたエクアが叫んだ。冒険者や傭兵ともなると、魔導術による補助を受けたことがある者は多いが、精霊術のそれは一味違う。村でも防壁の建築時に力を貸したことがあるが、普通のおっちゃんが丸太を斧の一撃でかち割れるレベルの強化である。

そんな術を、ただでさえ勇者として一流以上の剣捌きを持つ兄が掛けられれば、蜘蛛の脚なんて巻藁以下だ。上から突き刺そうとする脚を躱しつつ切り飛ばし、半分以上の脚を奪い去られた蜘蛛は、とうとう胴を支えられず床に転がった。

何とか起き上がろうとする蜘蛛が裏返り、腹を見せる。そこに明らかに怪しげな赤い光を放つ玉が!


「そこだぁぁぁっ!」


兄が猛烈な突きを放つと、赤い玉は光を失い、黒く変色した。蜘蛛を形作っていた骨が灰と砕け、消え去っていく。後には玉だけが残された。


「これで終わりか・・・なにやってるんだいあんた?」


「ちょっと・・・壁になりきってます」


苔のごとく入り口付近にへばりついていた私。チキンはなかなか治らないようである・・・





「・・・出口は見つからないね。来た道を戻るしかないのか」


「戻ってもあの部屋につくだけだ。俺はここに何かあると思う」


蜘蛛を倒し終わった私たちは、脱出口を探していた。ところがツルツルの壁には、来た道しか出入り口らしきものはない。こういうのには残されたキーアイテムが大事だし、私は蜘蛛の置き土産の玉を撫でたり転がしたり祭壇の上に載せてみたりしたが、なにか発動したってこともなさそうだ。いっそカチ割ってやろうか・・・いやいや、取り返しがつかなくなったら困る。どこかに嵌め込む場所とかないのかな?とりあえず怪しそうな場所は全部調べてみよう。

祭壇に刻まれた文字を読んでみる。


「女神の・・・子等・・・祝福・・・うーん読めない」


さっきの一騒ぎのせいで、ボロボロになってしまった石に刻まれた文字。まさか故障したとかなかろうな。一生ここから出られないなんて嫌すぎる。


「何してるんだ?」


あいかわらず手がかりが見つからないのか、兄が様子を見に来た。


「ここに何か書いてあるんだけど、見えないのよ」


「どこに?」


手元を覗き込もうと、兄が祭壇に触れる。その時、上に置いてあった玉から光がわき出た!

忘れてた!兄さんって勇者だったんだ!最初から兄さんにやらせときゃよかった…

そんな後悔が終わらないうちに、地面から振動が伝わってきた。


「え、何地震!?」


「掴まってろ!」


揺れはだんだん強まっていき、立っていられないほどになった。頭を抱えてどれだけたっただろうか。気付けば揺れが収まり、私は生き埋めにならないで済んだことに感謝した。

立ち上がって互いの無事を確認する。

誰にも怪我は無いようでで一安心。と、エクアが私の背後を指差した。


「あれを見なよ!」


「うわあ・・・・・・」


「出口か!?」


先ほどまで階段に繋がっていた門から薄明りが漏れている。外だ!やった!これでこのオバケダンジョンから脱出できる!


「ねえ兄さん外だよ外!やったー!これで忌々しいゴースドどもからおさらばできるわ!

 うふふ誰が一番先に出るのか競争よー!」


「待て、危ないだろ!」


そう、私はあまりの解放感に忘れていたのだ。自分自身に立ったフラグに。

ホラー映画ならラスト30分くらいにヤラれ役が言いそうなセリフと共に外に駈け出した私。

この後どうなるか皆さんお分かりですよね?


「やっと外に出れた!私助かったのね!ってグエッ!」


「セリゼ!!!」


「ぎゃぁぁぁぁぁ!」


外に出た瞬間、何かに腹を引っ掴まれて空高く舞い上がった。

追ってきた兄をはるか下に見ながらどんどん遠くに飛んでいく。


ちくしょーーー!これで死んだら私が化けて出てやる!絶対!


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