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(ある意味)グロ描写あります。苦手な方はご注意ください。

私たちは、街の外で待っていた案内人と名乗る街の青年らしき人に連れられて、遺跡の入り口まで来ています。

・・・来なきゃよかったー!!!

鬱蒼と茂る森・・・ひんやりとした空気・・・錆びた鉄柵・・・その奥に広がる、魂すらも飲み込まれそうな暗がり。

いかにもナニか、私の大嫌いなアレが出てきそうな雰囲気だ。

私は案内人の青年に聞いた。


「ひょっとして、ここ、心霊スポットとかだったりします?」


「ええ、この辺りで事件がありまして、ゴーストが見えるという話があります。

街の恋人たちは、近辺で肝試しをするのが夏の風物詩だったりしますよ」


そうか・・・リア充死ね!

映画ではいちゃついてるカップルから先に殺られるんだぞ!私の代わりに存分に死ね!

あーもう、そんな話するからますます行きたくなくなったよ・・・


「セリゼ、つらいようならここで待っていた方が・・・」


私がオバケ嫌いだということを知っている兄が顔を覗き込んできた。


「ヤだ!私一人残されるなんて絶対嫌だもん!

絶対!絶対置いていかないでね!」


必死で兄の腕にしがみつく私。このまま薄暗くなって一人ぼっちなんて怖すぎる。全然それ親切じゃないから!


「怖くないって、俺がついてるだろ?守ってやるから」


「ホントに守ってよね!ぜっったい離さないでね?」


へばり付く私を引きずっていく兄を、しらーっとした顔でエクアが見てくる。

こいつ何ゴーストを怖がってるんだと思ってるんだろうなー。

この世界ではゴーストがそう珍しくない。人間などの複雑な魂を持つ生き物は、魔物のケガレによって傷つけられると、世界を循環するマナの流れに乗れず、生前の姿を保ちながら実体のない存在としてさまようことがある。それがゴースト。魔物が出現する場所では自然見ることになる。だが、ゴースト自体に他者に作用する力はない。時間とともに消え去っていく。問題は、死体や骨など、魔力を留める器になるものや、瘴気が含まれる物質に接した場合、それらに入り込み、人に害をなすモノに変化することがあるということだ。それらはリビング・デッドと呼ばれ、かつて同じ人であった分、魔物より忌み嫌われている。

だから、墓場や屠殺所は魔力を抑える結界を張る必要があるし、神から授かったとされるその術を行う神殿が信仰を集めているのだ。

もう一つ、リビングデッドを退治する方法がある。それは精霊術だ。

精霊術は人の体を流れ、魂を形作る魔力と、世界に溢れるマナとをつなげる力だ。それにより怪我や病の治癒、身体能力の強化、そしてケガレや瘴気を祓う『浄化』を行うことができる。


そう、つまり・・・

精霊術士とは、対ゴーストのスペシャリストなのだ!

人は言うだろう、「なぜ君がゴーストを恐れる必要があるのか」と!

だがちょっと待ってほしい。彼らに対抗する術を持つことが、彼らを恐れないことに繋がるか?

答えは否!断じて否!

例えば、「あなたはゴキブリに戦って負けるか?」といえば、それは違うだろう。連中があなたに危害を加えることはない。

だが、それらに恐怖がないかといえばどうだろうか。

想像してほしい。命の危険がないとはいえ、振り向いたらあの黒いテカテカした甲虫があなたのすぐ後ろにいたら、悲鳴を上げない自信はあるか?靴を履いたらぐしゃりと潰れる感触とともに、奴の破片があなたの足に付着していたら?髪を洗っている最中に、天井から落ちてきたら?カフェオレを半分飲んだら、見たことのある触角が浮かび上がってきたら?

私は断言する。生命の危機の有無とはほかに、生理的な嫌悪や恐怖があると!

ゴーストを怖がる気持ちは、もうしょうがないのだ!


とはいえ、この中に入らなきゃいけないのは、変わらないよね・・・


「うううう、みんなちょっとこれを持っててくれる?」


懐にしまっていた、小さなお守り袋を兄とエクア、案内人の青年に渡す。


「なんだいこれは?」


「味方を識別するためのマーキングよ。これを持っていれば、魔物と戦っていても貴方たちだけに術がかけられるの」


残念ながら私には、戦闘経験がない。じっとしている相手を治療するのと違って、動き回る敵と味方に回復・補助術をかけたら、間違って敵にかかってしまったなんてシャレにならない。

袋の中には私の髪と貴石と数種類のハーブが入っていて、持ち主と私の間に繋がりを与える。これを持っていれば、集中に時間を取れない戦闘中も、精霊術を対象に正確に掛けることができる。

いずれパーティメンバーから外れるとしても、術の精度を上げることは大切だが、とりあえずの対処として、これを持っていてもらおう。


「ありがとうセリゼ、これで安心だ。さて・・・行くぞ」


ギィィ・・・と、錆びついた柵の扉を開けて、私たちは中に入っていった。






遺跡の中は、ただひたすらに下る狭い階段が続いていた。

術で生み出した明かりを頭上に、闇の中へ降りていく。

沈黙に耐えかねたように、エクアが青年に質問した。


「この辺りで事件があったって本当かい?」


「それ今聞くのやめない!?」


思わず突っ込みを入れた。今でも十分怖いのに、なんでますます恐怖要素を増やすのか。


「いや、何があったのか知ることで、対策を立てられるかもしれないじゃないか。

お前は怖かったら、俺にしがみついていればいいよ」


兄さんまで!裏切り者!呪ってやる!

私の心の声を無視して、青年が語りだす。


「そうですね、目的地に到着するまでのお暇つぶしに…」




今でこそ森に囲まれていますが、その当時ここは村だったんです。

小さな村でしたが、平和で、村人たちは貧しいながらも楽しく暮らしていたそうです。

どこにでもある、取るに足らない村だったかもしれませんね。

ただ、住民たちは、力いっぱい日々を生きていました。


それだけなら、事件なんて言えませんよね。

そう、悲劇が起きたんです。

この国で、王妃と王弟の間で諍いが起きたことは知っていますか?この辺りにも、政争に敗れた貴族崩れが落ち延びてきたのです。

国からの年金も、領土も失った彼らが行ったことは、この辺りの都市に援助という名の従属を要求することでした。中央から兵を連れて逃げてきた奴らと、せいぜい魔物退治の警備兵を抱えるだけの領主との兵力の差を彼らは分かっていました。武力で攻められたら抵抗できまい、とね。

もちろん、領主も黙っていませんでしたよ。連中を攻めても返り討ちにされるだけ、なら、せめて防壁のある都市部だけでも守ろうというわけです。砦のように門を閉め、けして奴らを中には入れないという気構えを見せました。

貴族崩れどもは面白くありません。とはいえ、守りに入った街を落とせるほどの戦力はありません。

さて、そこで奴ら名は何をしたと思います?


見せしめですよ。


自分たちに従わない、生意気な平民どもを、砦の中から目の届くところで惨殺し、投石器で街の中まで放り込んだんです。守りのない小さな村は焼き払われ、住民はあっという間に駆り立てられ、犯され、苦痛のうちに死んでいきました。

拷問は自分たちですることもあったし、家族を人質に取った子どもにやらせることもありました。


地獄のような生活にも希望を捨てない村人たちはある日、連中から逃げ出すことに成功しました。

どこにも助けがないことを知っていた彼らは、傷を負いながらもこの遺跡に逃げ込みました。

そして、光も差さない遺跡の中で、飢えと傷に苦しみながら死んでいきました。

ある者は我が子を慰めながら、ある者は恋人を励ましながら、結局は皆絶望して死んだんです。


それから、貴族崩れどもは捕縛され、吊るし首になったそうですね。

だとしても、それが死んだ者の慰めになるでしょうか?

受けた苦しみが購えるんでしょうか?





私たちは、口をはさむこともできずに青年の話を聞いていた。

このパターンは・・・知ってる。猛烈に見覚えがある。

思えばおかしいことばかりだった。なぜ、街の外で彼が待っていたのか?ガイドならその場でつければいいはず。待ち合わせていたなら集合場所が教えられたはずだ。というより、そんなものつけるなら最初から軍を出せばよかったのだ。それに、人よけに作られたはずの柵が、なぜ鍵も持たずに開けられたのか?

私はガタガタ震えて兄の背中にしがみ付いた。兄もエクアも、さすがに異常を感じたのか、身構えている。

いつしか、階段は途切れ、石造りの広場にたどり着いていた。


「僕たちは分かってほしいんです。

僕らがどれほど苦しかったか、悲しかったか。・・・生きて、いたかったか」


先導していた青年が振り向く。いや、正確には『青年だったもの』だ。みるみるうちに彼の皮膚が腐り、蛆がわき、眼球が転がり落ちる。周りの空気がざわめき、壁から、地面から、何百という青白い手が生えてきて蠢く。


「僕らの仲間にな「っひぎゃぁぁぁぁぁぁぁあああぁぁぁ!!!」


もう限界だった。私はあたりかまわず、浄化の光を浴びせまわった。みるみる霧散していく無数の腕。青年の姿をしていたなにかも、一瞬でチリと化し、消えた。

そのまま頽れる。


「ああああ、もうやだ絶対やだ!絶対怪しいと思ってたんだこれ!はめられた!

ばかばか馬鹿!アホ!うんこうんこ!」


すっかり異形の消え失せた広場で、私は頭を床にガンガン打ちつけた。

参謀官様はきっと、この遺跡にゴーストが出ることを全部ご承知の上で、精霊術士の私をぶつけたに違いない。ご丁寧に途中でトンずらここうとした時のために、村に兵をおくことまでして!つまりまんまとうまいことはめられたのだ。


「なにしてるんだ!やめてくれ!」


兄が助け起こしてくれる。エクアも若干引きながら、私の方を見てくる。

この人たちはとばっちりをくらったんだなぁ・・・申し訳ない。特に兄には自分が保身ばかり図っていることも含めて後ろめたい。


「ごめん、二人とも・・・

この仕事が押し付けられたの、私のせいなの」


「いや、あたしは危ないのが仕事だから別にいいんだけど・・・全部あんたが片付けてくれたし」


「おまえのせいなんかじゃない。それに俺から離れたところで、お前が一人で危ない目に合うより苦しいことなんてない」


兄さんのシスコン発言はともかく、せっかく二人が慰めてくれてるのにいつまでもめそめそしたって鬱陶しいだけだ。とりあえず引き返そう。見渡す限りこの広場に出入り口はなさそうだし、遺跡の向こう側に通じる道があるかっていう調査に対しては、十分報告ができるだろう。

・・・出入り口がない?


「来た道がなくなってる!」


「閉じ込められたのか?」


私たちはおそらく階段のあった方へと向かうが、何もないつるりとした壁があるだけだ。

途方に暮れた顔を見合わせる。と、私はあることに気付いた。


「あのね、さっきのリビングデッドに持たせたお守り袋の反応が、動いてるみたい」


「どっちに!?」


「足元。下の方に動いてる」


「あいつはこれを持っていて平気なのかい?」


「お守り自体には、浄化の作用がないもの。だけどあいつが祓われたことは間違いないと思う。だからお守りを動かしているのは、別の何かなのよ」


「とにかく追ってみよう。ここから抜け出す手がかりを逃すわけにはいかない」


広場の床のタイルを調べると、動かせるものがあった。全員で力を合わせて退かすと、そこにはまた下に伸びる階段が!

・・・行くしかないよねー。

誤字修正いたしました。

いつもすみません。

ご指摘、本当にありがたいです。

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