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6

その日の晩、私と兄は宿の食堂でくつろいでいるところを軍に呼びつけられた。

そういえば、一儲けしたのにホクホクですっかり忘れていたけど、魔よけの香を卸しに来たんだった。すっかりわすれていた・・・

とりあえず、兄に革の手袋を渡しておく。指が出てるやつ。

痣が見えて勇者とばれるといけないからね。

しかし、あんな中二アイテムでもつけこなすってイケメンはすごいな。

キャッチフレーズでもつけてみるか。「クレバーに抱いてやるよ・・・」みたいな。


「兄さん、ちょっとこう・・・ポーズ取ってみてくれない?」


「ポーズって・・・こうか?」


「すごい!かっこいい!なんで?」


「その反応はなんだよ・・・」


複雑そうな顔をする兄。生半可な人間がやると失笑しか出ないポーズも、兄がすると実に決まっている。これこそが勇者の資質なのかもしれない。




兵士に連れられて行った先の駐屯地で、私は先ほどに騎士に出迎えられた。

私を見た途端、巨大なカメムシでも飛んできたかのように顔をしかめる彼。あれだけふんだくったら無理もないだろう。応接間の前で私たちに申し渡す。


「君たちがこれから会う相手は、北方辺境防衛司令参謀官であられるカーメッジ少将閣下だ。くれぐれも失礼なまねはしないように」


主に私を見て伝えてくる。失礼な、私は自分の労働の対価をもらっただけですよ。しかし大物が出てきたな。なんでこんな田舎街にやってきたのか、嫌な予感がひしひしとする。

入室許可を請う騎士に、中から「入れ」を声がかかる。

通された中には、いかにもVIP感漂う壮年の男性が腰かけていた。おそらくこの人がカーメッジ少将だろう。さすがに貫禄たっぷりである。


「連れてまいりました。アルカ村からの使いであり、先ほどの襲撃では見事、単身で化け物と向かい合った若者と、近辺では名高い銭ゲバ・・・いや守銭奴・・・失礼しました、精霊術士の妹御です」


おいおい!

別に言い過ぎでは全くないし、そのあだ名は気に入ってるけど・・・

あんまりなその紹介を、大人のスルー力であっさり躱して将軍は話し始めた。


「お二人の活躍、アカルボースから聞かせてもらった。まずは礼を言っておこう」


このイヤミセレブナイトはアカルボースというのか。


「アルカ村から来たそうだな。聞けば村も襲撃を受けたとか。詳しく聞かせてもらうか」


兄がうなずく。


「ゴブリンとフォレストウルフの群れでした。普段は縄張りから出る魔物ではありません。

そして、もっと気になる化け物がおりました」


「化け物か。どのような姿をしていた?」


「納屋ほどもある巨大な怪鳥に、黒い鎧を着込んだ男が乗っておりました」


「鎧とな。人の形をしていたのか」


室内がざわめく。無理もないだろう。人の形をしていたということは、ただのモンスターではなく、強大な力を持つ魔族である可能性もある。


「・・・なるほど。君は名をなんという?」


「アルフェドと申します。彼女はセリゼと」


「そうか、君たちの腕を見込んで頼みがある」


はい来たー!!!絶対こう来ると思った。

私は兄の方に念力を送る。断れ!こ・と・わ・れ!


「申し訳ありませんが、俺たちはなるべく早く村に戻りたいので」


やった!私の気持ちが伝わったようで何よりだ。

でも、ここではいそうですかと許してもらえるようなら、あのゲームでも延々と「そんな、ひどい!」と言われなくて済むのだ。


「ほう?なぜか聞いてもよいかな?」


「先ほど申し上げた通り、俺たちの村は襲撃にあったばかりです。先日は幸運なことに義父が怪我を負っただけで済みましたが、次はどうなるか。一刻も早く帰りたいのです」


きっぱり断った兄。せっかくだし私も何か言っておこう。


「兄のご無礼、お許しください。ですが、私たちも生きていくのに必死なのです。

村には今、治療の手立てを持つ者がおりません。村を守る働き手の若者たちが怪我を負っては、私たちは生活できずに飢えてしまいます。

私たちの村には兵の方々も詰めておりません。銭ゲバ、守銭奴と罵られながら必死にお金を集めて、防壁を築き、装備をそろえたのです。

兄と私がいなくなったら、村はどうなるか・・・この度のお話は、大変失礼ではありますが、お断り申し上げることはできませんか」


もちろん半分は、セレブナイトのさっきの失礼へのあてつけである。

将軍は髭をひねって「ふむ」といった。


「なるほど。君たちはなんとも郷土心のある若者なのだな。

我々としても、アルカ村をそのままにしようとは思わない。魔よけの香はこれからの我が国に必要だ。

村とそのまわり、街道の警備に分隊をつけ、軍医を派遣しよう。優秀な者たちだ。村は私の責任によって保護しよう。

それに、私の依頼は君たちの村のためにもなるはずだ」


彼は机の上に広げてあった地図を指でなぞる。


「この街と、西方にあるメイジャという街の間に遺跡があることは知っているか?

かつて、この遺跡は聖なる力でもって、北方から攻め寄る魔物どもから我らが領土を守ったそうだ。

諸君らにはこの遺跡の事前調査をお願いしたい」


「事前調査と申しますと?」


「この遺跡はラズエルの近くから入り、森の下をくぐってメイジャに抜けるとの資料がある。

そこまでの通行が可能であるか、魔物が巣食っていないかを調べ、内容をメイジャの神殿に伝えてほしい。途中、進めないようだったり魔物が手におえないようなら戻ってもよい。魔物の掃討、遺跡にあるものの調査は後で本隊が行う」


明らかに物騒なクエストだけど、あまりここで粘ると、不敬罪で→牢屋にぶち込まれ→強制労働のコンボを喰らいそうだ。兄はしぶしぶうなずいていた。仕方ないけどな・・・嫌だな・・・


「もちろん君たち二人だけで向かえとは言わん。彼女も同意してくれた」


彼女?きょろきょろ周りを見ると、少し後ろに女剣士もいた。入ってきたドアの横の壁にもたれていたようで、全然気が付かなかった・・・


「あんたたちとは縁があるみたいだね。まだ名前も名乗ってなかったけどね。

あたしはエクア。見ての通り得物は剣さ。まぁ、よろしく」


こうしてパーティメンバーが増えました。私だけ置いてってくれないかな?

8/14 誤字直しました。

ご指摘助かりました。ありがとうございます!

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