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私は何とか兄さんを説得し、村まで誘導することに成功した。
幼児よろしく手をつないで。私手をつなぐの苦手なんだよね・・・手汗とか。さりげなさを装って振りほどこうとすること5回、失敗すること5回、しまいにはがっちり恋人つなぎでホールドされたので、あきらめてこうしてるけど。
村の広場までたどり着いたが、なんだかもめているようだ。回避しようとしたが失敗、村長がこっちに気づいてやってきた。ゆうしゃは まわりこまれて しまった!
「アルフェド、セリゼ、いろいろあって疲れているだろうところ申し訳ないが、頼まれてほしいことがあるんじゃ」
申し訳ないなら遠慮してほしい。だが村長は頓着せずに続けてくる。
「実は国から魔よけの香を依頼されておってな。明日までに隣町へ届ければならん。
だが、魔物の襲撃がないとも限らん。荷を守れればならんが、村の守備のことを考えると人手を割くわけにもいかん。お前たち、隣町まで行ってはくれぬか」
えっ、めんどい・・・。
兄も断りたそうである。そりゃあ今さっき、権力争いに巻き込まれてゴタゴタするかもね、と言われたばかりなのだ。国というキーワードに好感を抱くわけがない。私だったら2週間は引きこもって外に出ない。
しかし、どうやらこれは強制イベントだったようだ。荷が積み込まれている馬車の横で、御者の村人とその妻が揉めている。
「あんた、魔物がいるかもしれないのに外に出るなんて正気じゃないよ!頼むからうちにいておくれよ!」
「心配するなよ、今まで街道に魔物が出たことなんてねえじゃねえか!」
「おなかにあんたの子がいるんだよ!もしもあんたになんかあったら!」
「だから稼いでこなきゃなんねぇだろ?大丈夫、ちゃっちゃと済ませて帰って来らぁ」
うわあ、なんだあれ・・・
死亡フラグ盛りすぎだろ!
どうしよう、もしここで「私嫌です」なんて断って、御者に何かあろうもんなら、身重のその妻に恨まれて、私の快適な村人生活がアウトであることは必至。
兄もしぶしぶ、行くことに同意した。
「セリゼは危険だから、村で待っていてくれないか?」
「絶対嫌!私、兄さんから離れないんだから!」
「そ、そうか・・・」
微妙に照れる兄。たぶん妹のブラコンっぷりを恥ずかしく思ってるんだろうが、こっちとしては、勇者が村を離れてる時に村が炎上して妹死にましたイベントを避けるために必至なので我慢してほしい。
「悪いのう、それではさっそく発ってもらえんかの」
そうして私たちは意外と押しの強い村長に急かされて、隣町を目指したのだった。
私たちの済んでる村は、魔よけ効果のあるアルカ竹を加工して作った魔よけの香が主な収入源だ。RPGでおなじみ、使うと一定期間モンスターが寄ってこないアレである。精霊術でも似たようなことがやれなくもないが、この世界にその使い手はあまり多くないらしい。ちなみにウッディ系のなかなかいい香りがする。
最近は魔物の勢いが激しくなり、売れ行きも上々だ。ちなみに村の名前はアルカ村。分かりやすくてとってもいい(笑)と思う。だが、何せ辺鄙な所にあるもんだから、取引はもっぱら隣町のラズエルで行っている。私も時々出張診療として向かうことがある。費用は上乗せするけどね!
通行手段は馬車である。不思議なことに、馬は前世の私の記憶とまったく違わないままだ。よかった・・・トカゲの進化したのとかじゃなくて。チョ●ボくらいなら許せるが、恐竜もどきを「馬」と言い張られても受け付けられなかっただろう。
荷台でゴトゴト揺られながら、過ぎゆく景色を眺めてのんびりする。このまま何も起こらずに済むといいなぁ・・・
もちろんそんな虫のいい話が通るはずがなかった。
「馬車を止めろ!」
見通しの悪い岩場に差し掛かったあたりで、兄が御者にストップをかけた。
耳を澄ませると剣戟の音が聞こえる。どうやら、道の先で誰かが戦っているらしい。
「兄さん、どうしよう?」
「とりあえず、様子を窺ってくる。手におえないようなら引き返す。
お前はそこで隠れていてくれ!」
兄はひらりと荷車から飛び降り、駆けて行った。何が起こっているのか気になるところだが、ここで追いかけたら、よくて人質に取られるか、悪くて巻き添えになって殺されるかである。おとなしく待っていよう。
馬車の幌に隠れて息をひそめる。しばらくして、兄が声をかけに来た。
「どうやら魔物に襲われていたらしい。小勢だから片付けたが・・・馬がやられて道をふさいでる。
通れるように手伝ってくれないか」
現場には、倒れた馬とゴブリンが山をなしていた。どうやら商人の荷馬を襲った盗賊もどきで、昨日村を襲った連中とは関係がないようだ。
にしても、20を超える群れをあの時間で倒すなんて、さすが勇者補正。この世界のまとも?な剣士との戦力差を考えると圧倒的不平等感である。おそらく今後、妬みつらみを買うこと間違いなしだろう。というか、今買っているようだ。
助けられた商人が、ひたすら低姿勢で兄に礼を言っている。町までの道を一緒に行ってもらわないと、命に係わるからね。護衛をつけなかったわけではないが、役に立たなかったようで、ガン無視である。報酬の支払いも怪しい。
護衛の方はというと、ふてくされたようにゴブリンの死体を蹴りつけている。赤毛でポニーテール、キリッとした顔立ちの美少女の女剣士だ。容姿からしてツンデレっぽい感じがする。おそらく、今後仲間になり、兄に好意を抱き、ハーレム要員の一人となるんだろう。
「お前、怪我はないのか?」
商人の長話をなんとか切り上げたかったのか、兄が女剣士に声をかけた。それがまた、カチンときたらしい。
「あんた、突然現れてなんなのよ。あたしは礼なんて言わないからね!痛つっ」
いきなりの逆ギレ!しかしどこか痛めたのか苦痛に顔をしかめる。
「傷があるなら治療の手立てがないわけじゃないが・・・」
「はんっ、余計なお世話よ!」
あくまで突っぱねる彼女から、兄はさっさと手を引くことにしたようだ。
「それなら早く道をあけてくれないか?お前の仕事だろ?」
傷ついた女の子に冷たくないか?まぁこれがフラグなのかもしれない。「あたしを女でなく、一人の剣士として扱ってくれた彼・・・素敵!抱いて!」となるのかも。兄はイケメンだしな。世の中は不公平だな。
「セリゼは下がってろ。まだ息があるかもしれない。危ないからな」
ただ、シスコンはマイナスポイントだと思う。
そうして兄と御者のおじさんは、死体を道からどかし始めた。
唇を噛んで作業にかかろうとする女剣士に近寄って、私は回復術を使った。こんな所でグズグズしてたらまた新手が来るかもしれないし、さっさと終えて早く出発したい。
「何のつもり?施しかい?悪いが術士さまに支払う金なんてないよ」
「いや、そんなつもりはないです。ただ、私一人突っ立ってるのは気まずいんです。借りにするつもりがないなら、私の分まで撤去を頑張ってください。あと、兄は不器用なんです。許してあげてください」
「兄?あんたあいつと兄妹なのかい?似てないね・・・
まあ、礼をいっとくよ、ありがと」
よし、これで下がった好感度も取り戻せただろう。よかった!
安心した私は、商人と町まで荷物を載せていく運賃についてバトルを繰り広げたのだった。