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私はそのまま一晩、眠り続けていたらしい。

「よかった・・・!このままもう、目を覚まさないものかと・・・」

一晩寝ずについていてくれた兄より、ぐっすり寝た私のがむしろ調子が良いくらいだったのだが、兄は相当心配したらしい。再びオトす気なのかと疑うくらい、ギリギリ締め上げ・・・いや抱きしめてくれた。

「あの後どうなったの?父さんは?村は?寝ゲロは?!」

「父さんはすぐに意識が戻ったよ。怪我も全快していた。村は多少の被害があったけど、魔物も全て退いたし落ち着いてる。寝ゲロは・・・しなかったよ。安心して」

その間はなんだ。

まあ、してないというならそういうことにしておこう。





「おいセリゼ、起きてるか?」

突然扉があいたと思うと、入ってきたのはラドだった。

返事くらい聞けよ。「寝てます」とは答えられないけど。

そんなちょっと抜けてるラドは、兄の姿を見て硬直した。ラドは兄が苦手だ。主に私のせいで。

私が死亡フラグを避けるために、恋人を作らない言い訳として、「お兄ちゃんより強い男の人じゃないと、わたしお嫁さんになりたくないなぁ☆ミ」とかスイーツ極まりない発言をしたおかげで、彼は兄に何度となく挑み、叩きのめされている。大変申し訳ない。とはいえ、勇者の妹の彼氏というのも相当アブないポジションにあるともいえるので、人助けと言えないこともないと思いたい。

兄もあんまりラドが好きじゃないみたい。まぁ兄からすれば関係ないイザコザに巻き込まれてるわけだしなぁ。

「セリゼの部屋にようこそ。そしてさようなら」

「いえ、違うんですって兄貴!用があるんですって!」

「お前に兄といわれる筋合いはない」

お父さんか!

頑固一徹親父みたいなことを言い出した兄が、今すぐラドを追い出しそうだったので、私は声をかけた。

「何?用って」

「ガルフレさんが話したいことがあるってよ」

ガルフレとは義父のことである。あの時言いかけたことだろうか。よかった生きててくれて、あんなところで区切られたら・・・いや内容は大概想像がつくけど・・・気になってしょうがないところだった。

「なるほど分かった。これから向かうと父に伝えてくれ。あと、今後は寝ているセリゼの部屋に入るようなまねはするな」

「分かりました兄貴!」

「だから兄と呼ぶなと」

頑固親父コントがループに陥る前に、私はラドに礼を言って着替えるからと部屋から追い出した。兄はまだ言い足りないようだったが、天丼も繰り返しすぎると面白くないのであきらめてもらおう。

「あいつはいつもあんなに馴れ馴れしいのか?ってなんで脱いでるんだ!」

「なんでって・・・着替えだよ?」

「お前はもっと慎みをもて!」

なぜか兄は真っ赤になって出て行ってしまった。意外とピュアだな・・・前世にも兄はいたけど、お互いパン一で歩いていても一向に気にしなかったぞ。





義父は昨日の怪我の後もなく、全快というのは嘘ではないようだ。よかった。

「セリゼ、目が覚めたか。おかしなところはないようで、何よりだ」

「父さんこそ・・・」

使命云々はさておいても、無事でよかった。私の大事な父親だ。

「さて、昨日言いかけたことを聞いてもらいたい。アルフェドの出生にかかわることだ」

アルフェドとは兄の名である。

「まずはさだめといったが、そのことについてだ。

アルフェド、お前の手の甲には竜の紋章が浮き出ているな。これは王家に言い継がれる、勇者の証と言われているそうだ。

そう、お前は魔王を倒す、伝説の勇者なのだ」

「俺が・・・勇者?!嘘だろ?」

兄はびっくりしている。私は驚かないけど。

その後の父の長い話は要約させてください。



義父はかつて、恐れ知らずの傭兵だった。非道なこともした。

ところが、旅の騎士にあるきっかけで叩きのめされ、世の中にはもっと強い人間がいることを思い知った。

その騎士は、主君であるお姫様とその子供の兄の逃避行の手助けをしていた。なぜ赤子を抱いたお姫様が逃げていたのか、それは生まれた時からあった兄のアザ、『竜の紋章』が政治的に利用されることを恐れたからだ。当時は国王が崩御し、王弟と身重の王妃が争っていた。両者とも、勇者が生まれたとなれば身内に引き入れようとするだろう。さもなければ命を奪うだろう。

義父は護衛として雇われ、いつしか三人に家族のような絆が生まれた。だが厳しい旅のなか、もともと体が丈夫ではなかった姫は命を落とし、騎士も兄をかばって死んでしまった。姫の遺児を、兄を守ってほしいという遺言を残して。

せめてその言葉だけはかなえようと、義父は国の影響がうすい辺境の村に身を寄せ、兄を育てたということだ。




「そんな・・・俺がそんな生まれだったなんて・・・」

「今まで黙っていて、すまなかったな」

「黙っているなら、一生そうしていてほしかった。俺に勇者なんて器はないよ。

俺はそんな大層なことはできない。俺とセリゼと、父さんとで、穏やかに暮らしていきたいだけなんだ。世界やらなんやらのために危険を冒して命をささげるなんてしたくない」

「アルフェド、お前の人生はお前が決めることだ。魔王と戦えなんて言わないさ。

ただ、その紋章を負って生まれた以上、どんな危険がお前にふりかからんとも限らん。

魔物たちがお前を狙うかもしれん。貴族たちがお前を利用しようとするかもしれん。

顔も知らない奴らが、お前にすがろうとするかもしれないさ。

何も知らずに振り回されるより、前もって知っていた方がいいだろうと思ったまで。

繰り返すが、お前の人生はお前で決めろ」

「危険って、まさか奴らが襲ってきたのも・・・俺のせいかもしれないってことか!?」

兄さんは自分の手の甲を見つめ、そしてやりきれないという風に部屋を出て行ってしまった。




どうせだから、わたしも父さんに質問しておこう。

「父さん、いくつか質問があるんだけど、いい?」

「なんだ?」

「私もなんかわけありの子だったりする?」

「いや、お前が家に来た理由は聞かされているそのままだ。

あそこに置かれていたのも事情があるかもしれないが、私には分からん」

なるほどー。まぁ光り輝く竹を切ったら親方中から女の子が!ってこともないだろうしいいか。

「それから、私が昨日ピカーって光って父さんを直せたのはなんでかわかる?」

「その時、意識が朦朧としてからな、はっきりとはわからんが、精霊術の暴走ではないだろうか。

魔力保持量が高い者には時として起こると言われているらしい」

なんかあいまいだが、これ以上のことはわからないだろうしこれもいいか。

「最後に、知っておいた方がいいから教えたって、なんで今?

事が起こる前にじゃないと意味ないような気がするんだけど・・・」

「それは・・・実をいうとな、忘れていたのだ」

おいおい!!!





兄は、泉の前の倒木に腰かけていた。

「兄さん、こんなところにいたら危ないよ?戻ろう?」

「村に戻ったって一緒かもしれない。俺の居る所が危険なのかも」

自分の重大な使命を聞かされ、さすがに参っているようだ。

「昨日ここにいたときには、あんなに幸せな気分だったのにな。

どうしてこうなったんだろうな。俺といたら危険かもしれない。

お前が意識を失った時、どうして俺は守れなかったんだろうって、気が狂いそうだった。

俺のせいでお前はあんな目にあったんだな。

お前の幸せを思えば、俺は今すぐ姿を消すべきだ」

そう言って、兄は私を抱きしめた。言ってることとやってること違うんですけど!

「でも、離れたくない。俺がいなくなって、お前は平和になって、

いつか村の男と結婚して、子どもを産んで・・・祝ってやるべきなのに、

それを想像すると、頭がおかしくなりそうだ。だめな兄さんだよな」

いや!分かりますよ、その気持ち!

自分を犠牲にしてみんなが幸せになるなんて糞くらえだよね!

前世でも、私は学級委員を決めるときとか、どんだけ決まらずにクラス全員居残りにされようと、絶対に手を上げないタイプだったよ!

「だめなんかじゃ・・・ないよ」

私は兄の目をじっと見つめた。私の気持ちが伝わると信じて。

「兄さんばっかり背負うことなんてない。兄さんが犠牲になることなんてないんだよ」

「セリゼ・・・俺の運命を、受け入れてくれるのか?」

「もちろんだよ」

15年前から分かってたしね!

「兄さんも、私が実は魔物だったり古代の生物兵器だったり、得体のしれない宇宙人にアブダクトされて改造されてても、絶対に見捨てないでくれる?」

「・・・相変わらず、お前の言ってることはわけわかんないよな」

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