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この世界での私の始まりは、あまり祝福されたものでもなかったらしい。

辺境にある村の垣の外にある、竹林に捨て置かれた赤子を村人が拾い、不憫に思った義父が育ててくれた。

包んであった布に特徴なし、書置き等もなし、わざわざこんなド田舎まで捨てに足を運んだということは、よっぽど始末に困った末の犯行だろう。

魔物を寄せ付けない効果のあるアルカ竹の根元に置いていってくれたことだけは人情を感じなくもないけど。


そのまま私は平穏に村娘、セリゼとしての生活を送りました。

となったらどんなに良かったか。

成長するにつれ取り戻していく前世の記憶からしてみれば、現状はあまりにも不穏だった。

そう、義兄である!

金髪碧眼のイケメンで、性格は温厚、剣の腕も確かで、自慢の兄とも言えなくもないが、

手の甲にどう見ても偶然こうなったと思えない、カッコよくかつオシャレな(ただし中二的意味で)竜の形のアザが赤々と浮き出ている。

義父も、どう考えても義兄と血がつながっていない容姿で、なおかつこの村に住み着く以前は流れの傭兵だったという経歴。

ここまで来てピンと来たね、私は!


兄は間違いなく勇者である!

おあつらえ向きにこの世界には、魔物も、王国も、魔法もエルフもドワーフも精霊もいるよ!

そのうち魔王が復活して、兄はそれを退治しに旅立つに違いない!

がんばれ兄さん!


とまあ、ここまではいい。

問題は私の置かれた立場にある。

勇者の身内、これは結構な率で不幸な目に会う身の上であるのではないだろうか?

数多くの創作作品において、私たちは勇者の悲劇的な身の上を演出する立場にあったり、勇者が何かと敵対する動機づけとなって、死ぬ。

涙にくれる勇者の腕の中で息を引き取るのが私たちの役目である。

そんなんやってられるかYo!

私は生き延びてやる!たとえどんな手をつかってもね!

ってこれもなんか死亡フラグだし・・・


私は自身を鍛え、なおかつなるべくフラグを折るような行動を心掛けた。

幸い、転生者の恩恵というべきか、魔力保持量が高かった私は、精霊術を頑張りに頑張りぬいて修め、結果、かなりの能力を身に着けることができた。これは、ちょっと傷が治せる程度の能力の持ち主が、最初の森でゲストメンバーとして加入することはするが、その後のイベントですぐ死ぬというパターンを回避するためである。

行動にも気を使った。回復術の使い手としてそれなりに名前は売れたが、ホイホイ治療なんてしてやらん!タダじゃない!おゼゼがいるんだよ!

とまあ、村以外からわざわざやってきて治せという人にはそれなりの金銭を要求した。これは聖女とか奇跡とか、聞くだけで鳥肌出そうなアダ名がつこうもんなら絶対に死ぬだろうフラグが立つだろうからである。べ、別にお金が欲しいとか、人の努力にタダ乗りする連中がムカつくとか、そういう理由じゃないんだからね!

近隣に聞く私の評価は、「銭ゲバ」である。ちょっとやそっとで死にそうにない、素敵なアダ名ではないか。不用意に優しくしないよう注意は必要だけど。





そして今日は、私が乗り越えるべき記念日の一つ、収穫祭である。

私の知る限り、この手の話で旅立ちの理由となる事件が祭りや成人の日などのハレの日に起きる確率は、そうでない日に比べて3倍である(当社比)

今日は、なるべく兄にくっついていよう。精霊術には自信があっても、腕力にはまったく自信がないし、いざとなったら前衛職の兄に盾になってもらいたい。


夕方からの祭りの準備に向けて忙しい村で、兄を捜し歩く。

「おはようラド!兄さん見なかった?」

「いや、さっき森の泉に水を汲みに行くよう頼まれてたから、村には居ないんじゃねえかな?」

ちっ、無駄足か。踵を返しかけた私にラドが声をかける。

「なあセリゼ、祭りの後なんだけど・・・話があるんだ」

と言いながら彼の眼は私の目よりやや下を見ている。視線を合わせられないわけじゃない。彼は乳をみているのだ。彼はおっぱい星人からの電波を受信しており、私の目を見る割合と乳を見る割合は2:8である。

自慢ではないが今生の私は結構な巨乳の持ち主である。ただしこの世界で巨乳であっても、触手に絡まれてエライことになりそうでうれしくない。この世界に、男性向け18禁ゲームの要素がないことを祈ろう。

うぬぼれでなければ、彼は私に気があるのだろう。だが私は彼に乳を揉ませるわけにはいかない。もし私と彼がくっついたら、近い将来私は死に、彼は血染めの遺品を手にして、勇者に逆恨みし、はては魔物に取り込まれた挙句に死ぬだろう。

だから私はこう答えるしかない。

「祭りの後?ごめん忙しいから無理だわ。絶対無理」

意気消沈するおっぱい星人。ごめんねラド。ていうかあんたの死亡フラグも折っといてあげたんだから感謝してほしい。


よし、兄の居場所が分かった。さっさと移動して、今日という日をやり過ごそう。

そしてなるべく早く身を固めてもらって、奥さんと子供でも作ってもらえば、私が犠牲になる可能性も低くなるだろう。

地味に酷い案に対して計画を練りながら、私は泉に向かった。






兄は泉の前の倒木にぼんやり座っていた。水はもう汲まれているようだし、サボりか?

私は兄の横に腰かけた。ついでに私ものんびりしよう。

「わっ!びっくりした!セリゼか・・・もう、驚かすなよ」

いきなり現れた私に相当驚いただろう兄は、転がり落ちそうになっていた。

「別にそんなつもりなかったよ、でもごめん」

「いや、謝られることでもないよ。ただ、今、お前のことを考えてたから」

「私のこと?」

「ああ、お前がうちに来てから、もう15年になるだろ?」

「そうだねぇ、そんなになるんだ」

三つ年上の兄と共に暮らすようになってから、今日で15年。

私は捨て子なので誕生日が分からないため、今日を祝うことにしてきた。

「だからこれ、やるよ・・・うちに来てくれて、ありがとう」

兄は、私の手の中に、何かを押し込んできた。

手を開くと、そこには、可愛らしい細工の髪飾りが!

「ひぎぃぃぃぃぃ!」

「えっ、どうしたんだよ!」

私は絶叫した。兄からすれば、せっかく妹にプレゼントをやったのに、妹が悲鳴を上げているという状況だからかわいそうといえばかわいそうだが、私はそれどころじゃない。

「きっとこれからこの髪飾りは血に染まるんだ・・・私の血で!」

「はぁ!?」

「だっていかにもそういうアイテムじゃない?私の命も今日までなんだー!」

「毎度毎度、お前のその想像力、どこから来るんだよ」

半狂乱の私を押さえつける兄。しがみつく私。とんだ愁嘆場である。

「だって、だって・・・」

「あーもう、怖がりだなセリゼは」

毎度毎度わけのわからんことで騒ぐ妹をそれで済ます兄は、そうとうおおらかだと思う。

「何にそんなに怯えてるのかわからないけど、セリゼは絶対、絶対俺が守るから」

そのセリフがもう死亡フラグなんですけど!私の!

とはいえ、兄に悪意はない。私はとりあえず落ち着いて話しかけた。

「ごめん、ありがとう兄さん。大切にするね。

だから、兄さんも私に何かあったら、これを形見として大事にしてね。

装備が買えないからってまとめて売るのはやめてね!」

「お前が言ってることがさっぱりわからないんだが・・・」

兄が私を抱えなおしていった。

「15になれば、お前も成人だ。だから、ずっとこの日に伝えたいと思っていたことがあるんだ」

とうとう旅立ちの時か?

正直、兄がさっさと旅立ってくれれば、私の生存確率が上がるような気がする。

「祭りが終わったら・・・話したいことがあるんだ。笑わずに聞いてくれるか?」

ええ聞きますとも!たとえ『俺、自分が伝説の勇者だと思うんだ』って言われても、

私だけは暖かく受け入れてあげるから!

そして旅立ってください!そうすれば最初に惨劇が起きるルートは回避できる!

「兄さん、私も兄さんが言ってくれるの、ずっと待ってた気がする・・・」

「セリゼ・・・」


見つめあう私たち。

そして・・・



突然村の方で爆発音がした。

「なんだ!襲撃か?!」

こうなる予感はしてたんだ!






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