姫様、盗賊団を「建設作業員」として再雇用しました
アクアマリンを仲間にして森に戻ると、ちょうど家が完成していた。
「おぉ」
私は意識せず感動した。
平屋の3LDK。
お風呂トイレ別。
玄関を入ると木の香りが広がる、素朴な新築の家だ。
「設備はつけたけど、森の中だから火や水はまだ通してないんだ」
という大工の言葉は予想通りだ。この世界見てきた感じ電気やガスは存在していない。
飲み水も井戸を使用しているし、トイレも汲み取り式だ。
「アクアに上下水道とかライフラインをお願いしたいところだけど」
私は下を向いて覚悟を決めて言う。
「まずは服を買いに行ってきて!」
「何故です。俺はこれが正装なのに!」
「半裸アンド貝殻パンツでうろつかれても困るのよ!」
私はビシッと貝殻パンツを指差す。
「姫様さすがです! 私も数百年言いにくかったことを出会って三十分で言うとは! では早速買いに行ってきてください!」
「え、オカリナ。元々はあんたの部下でしょ。一緒に買いに行きなさいよ」
「嫌です! 私まで変な目で見られる上、魔族の地位が更に下がってしまいます! 姫様ならばうまく誤魔化せるかと」
「嫌よ。こんな変態と街を歩くなんて!」
「俺は世間一般では変態扱いされてきたのか」
そんなやりとりをしていると、リィナが
「そんなことよりもこの家、部屋が三つじゃ。今ここに四人おるぞ。宿におけるベッドが足りない問題が、今度は部屋の数が足りない問題に発展してるぞ」
言われてみたらそうなのだが、
「聞くまでもない。貴様が野宿に決まっている」
「妾はいい加減にベッドで寝たいのじゃが。もう葉っぱに覆われて寝るのは嫌じゃ」
当然のように嫌がるリィナ。
「大丈夫よ。アクアマリンは湖で生活してきたんだから」
「え?」
「え? って何よ」
「俺も出来たらベッドで寝たいんですが」
いや、公然わいせつ罪なオッサンとシェアハウスするくらいならリィナの方がマシなんだが。
傷つきそうなので言わないでおく。
「自分の家は自分で建てるくらいなさい。魔族ならば当たり前よ!」
私はビシッと再び貝殻パンツを指差すと、
「申し訳ございません! 俺としたことが姫様につい甘えてしまいました! しかし、俺には家を建てる技術はございません!」
ひれ伏すアクア。
「街の人に工賃を支払って、家を建ててもらうんだけど。あんたどう見ても資金なさそうね」
「はい。むしろ人間に狙われている立場ですので当然無職です」
私は深いため息をつくと、提案した。
「アクア。水の四天王なら清涼飲料水を作れる?」
「清涼飲料水とは?」
「清涼飲料水ってのはね、甘くて、冷たくて、飲んだ瞬間に“あ、今日生きてて良かった”って思える液体のことよ。水より飲みやすくて、酒より危険じゃなくて、でも気を抜いたら依存しちゃうタイプのやつ」
「なるほど。試行錯誤してみます」
「アクアの家もだけど、この前言った|プリンセス・サーバンツ《姫様のしもべ》の施設も街の人に作ってもらわないといけないし、家が完成したこれからは、自力で稼がないと食べていけないわ」
今抱えている問題を言うとオカリナが困った顔をして、
「ですが、一体どうすれば?」
「もうこうなったらアレしかないわね」
私は覚悟を決めて言うのであった。
街から離れたところにある盗賊のアジト。
突然現れた、上半身裸のオッサンに動揺する盗賊団相手にオカリナが麻痺の状態異常をつけた巨大な鎌で攻撃していく。
「大元帥、助太刀しますぞ!」
アクアが水圧砲で盗賊たちを吹き飛ばす。
「ヒャッハー! 久々に狩りができて楽しいわい!」
スライムもやる気満々で加勢する。
今まで人間たちに狙われて怯えてきた分、人間を襲うことにモチベーションが高いようだ。
だが一方で、
「許せ、人間の民よ。妾は人間の味方じゃ。無能な神を許してくれ」
と言いながら、リィナは自ら率先して金品財宝をせっせと袋に入れているのは気のせいだろうか。
「なんなんだ、魔族ごときが人間様に対する復讐か!?」
多分こいつが親分だろうか? 立派そうな髭が生えているからきっとそうだ。刀も高そうだし。
「復讐とは失礼な。明日の生活費のため、いや、善良な民を救うために私たちは来たのよ」
「魔族が何を言ってやがる!」
震えながら刀を持っているのがわかる。
わたしは一呼吸して言った。
「そもそも、あんたたち何で盗賊団なんかやってるのよ。闇バイトか何かの集まり?」
「なんだそりゃ。俺たちは働き口もねぇ、働いても食っていけねぇ奴らの集まりだ!」
「じゃあ食べていけるだけの仕事を与えるからうちに来るかって言ったらどうする?」
「え?」
戦いと説得が終わった。
森に戻った後は盗賊団が改心したのかはわからないが、分担して家や施設を建てている。
それを見ていた私にオカリナは聞いてきた。
「姫様良かったのですか? 奴らは人間の中でも悪党ですよ?」
「魔族の私たちだって悪党扱いされてるじゃない。正直悪いことしたわけでもないのに」
「私たちと奴らは違います。奴らは犯罪をしてきた者です」
「リィナに袋に詰めた金品財宝の一部を街に返しに行かせてるわ。今頃、街中で女神の信託のおかげとか触れ回ってるんじゃない? きっと自分が改心した魔族を利用して盗賊団も改心させたとも言ってるわよ」
「ぐぬぬ。手柄を独り占めとは卑劣な奴。やはり奴は抹殺すべきです」
「いいのよ。この辺りが女神と魔族、人間が一緒に住んでいるという認識が欲しかったから」
「どういうことです?」
「つまりこの辺りは安全って思われたかったのよ。これからは向こうから勝手に人がやってくるわ。つまり商売がしやすくなるってわけ」
私は建設ラッシュの背景を背にして、続ける。
「そしてこの辺りの家は上下水道完備。あとは火が欲しいわね。出来ればボタンを押したら火がついたり消したりするシステムにしたい。生活レベルが一角跳ね上がるわ。不便な生活と私たちの暮らし。オカリナならどっちに住みたい?」
「なるほど。そこまでお考えでしたか」
「ここに村を作るわ。そして|プリンセス・サーバンツ《姫様のしもべ》を完成させて労働と対価を一極集中させるのよ!」
そして、私はスローライフを優雅に過ごしてこの人生を満喫させる。
あぁ、夢が広がるなぁ。
私はつい妄想を広げていると、
「そして街の規模を徐々に広げて、いずれ世界征服。姫様さすがです!」
いや、そこまではしなくても。てか村から始まる世界征服って話が壮大すぎない?
オカリナが涙ぐんでいるところ、水をさしても悪い気がしたので言わないが。
「ま、そんなわけで次は火の四天王を探さないとね。冒険者ギルドで仕入れていた討伐書によると領主が住むところの近くに潜伏してるって書いてあったから今度は少し遠いわよ」
「かしこまりました。しかし、火の四天王フレアですが、ちょっとした問題がございます」
「また変態のオッサン?」
「いえ。自宅が火事になってから、奴は火を怖がるようになったのです」
「は?」




