姫様、「ネイルサロン」というものに憧れます
「ウインド。あれって」
裕美子がプルプル震わせながらリィナを指差すと、
「はい。奴は慈愛の女神リィナです。神の中の神です」
「そんなことはどうでもいいの。彼女が持っているものよ」
「あのガラクタですか?」
漢字が読めないウインドは巨大な王将の駒が何かわからなかった。
「それもどうでもいいの。カゴよ。私たちが必死に栽培した苺がいっぱい入っているわ。しかもなんか輝いてる!」
裕美子は驚きを隠せないでいると、
「どうやら合っているようじゃな。邪魔するぞ。妾こそは慈愛の女神リィナ。聞いて驚くな。なんと子供が尊敬する人物第二十八位じゃ」
「微妙っすね」
ウインドが疑いの目を向けると、
「生意気な小娘め。まあ良い。妾は皇女にこの駒と苺を渡しにきたのじゃ。皇女はどこにおるか教えてくれんか?」
「私が皇女裕美子です。女神様がなんで私に苺を?」
「いや、駒と苺じゃ」
「駒はいらないです。そんな物を置く玄関スペースがありません。で、その苺、光り輝いていますが?」
「妾が加護を与えたからな。なんと不老不死じゃ」
「え? 腐らないってことですか?」
「当然じゃ。しかし食べても無害じゃ」
「一つ頂いてもよろしいですか?」
「かまわぬ。ミナエがお裾分けにどうぞって言ってたからのう」
「古の悪魔姫が、お裾分け。ですか」
裕美子は手を口にあて考える。
苺といい、お裾分けといい、やはり悪魔姫は日本人? でも光り輝く苺をおすそわけって、食料事情豊かすぎない? こっちは毎日主食が芋なのよ? てか、こっちは二年かけてやっとしなびた苺が栽培できたのに、こんな苺を作るなんて先進国すぎない?
「ほら食え。美味いぞ」
おそるおそる苺を口にすると、
「やばいくらいに美味しいです」
なぜか一筋の涙がこぼれた。
「そうじゃろう。チヒロが思いつきで昨日畑を耕したからのう」
「え? 昨日思い付きで畑を耕してもう出来たんですか?」
信じられない。一体どうやったら、そんなとんでも展開ができるんだろうか。
「妾は夕張メロンの方が好きじゃがな」
「どうやって作ったかご教授願えないでしょうか?」
「チヒロが夕張メロンが食べたいなーって願いながら畑を耕したら翌日にはできておる」
「意味がわかりません」
「妾もよくわからぬ。で、本題じゃがこの駒を買い取ってもらいたい」
「いりません」
「協力してくれたら、そなたの願いをきいてやろう」
「え?」
裕美子は再び考える。
この苺にメロンといい、おそらく悪魔姫の国には日本人がいて、その人物は農作物のチート能力を持っているに違いない。
仲良くなれば、農作物の融通が利くかもしれない。しかし、この国は何を提供すれば良いのだろうか? 見返りなしでこの要望は聞き入れてくれないだろう。
皇国の取り柄は研究と開発しかない。
「悪魔姫が困っていることを知りたいのですが」
裕美子がおそるおそる聞くと、
「ネイルサロン誰かオープンしてくれないかなとぼやいておったな」
聞いたのが間違いだった。食べるのに必死な状況なのに、なんか暮らしの次元が違いすぎる。
「あ、そういえば、ボルトと太陽光発電とかいうので悩んでおったな。仕組みがいまいちわからんらしい」
「太陽光発電?」
「いかんせん、住居などはオール電化なのに肝心の電気が魔力依存じゃからな。いくら魔導師がいても足りんのじゃ。足りない部分は自転車をこいで自家発電じゃ」
リィナがやれやれと言った顔をする。
裕美子は考える。
そういえば、スターフィールド国には四天王という専売特許とはいえチート能力者の魔族がいる。もし彼らを戦争要員ではなくインフラ要員として特化させれば、他国を侵略しなくても国は豊かになるに決まっている。
魔族という概念に固執しすぎた。
研究者として失格だ。
しかし、これはチャンスなのかもしれない。
悪魔姫ミナエは、太陽光発電などの名前や見た目は知っている。しかし、原理や構築はわからないから、専門家に委ねるしかない。
知識を与える代わりに、食べ物をもらう。
よし、決まったら交渉だ。スターフィールド国の技術が伝われば、こちらも豊かになるだろう。
「女神リィナ様。私をスターフィールド国の悪魔姫ミナエ様に会わせていただきたく思います」
「それはかまわぬが、この駒は買い取ってくれるのかのう?」
「通貨、芋だけどいいですか?」
「持って帰るのも重いから無料でかまわぬ」
こうして、リィナが持ってきた巨大な王将の駒は雑にコンダクタ皇国の中庭に置かれ、裏面には
「ご自由にお持ち帰りください」
と、書かれているのであった。




