姫様、誠意の「さしすせそ」を毒キノコで台無しにしました
「コンダクタ皇国から使者がきた? こんな冬に?」
「はい。開国のお祝いに来たともうしております」
七海がどうするか聞いてきたので会うことにした。むしろ断る理由がなかった。
「はじめまして。悪魔姫の名声は我が国にも広がっております」
私を見るなり丁寧に挨拶をしてきた女性。魔族なのは確かだが、そんな薄手の格好で寒くないのだろうか。
「これはワサビといいまして、我が国で新開発されました。ぜひお受け取りください」
コンダクタ皇国を治める皇女は転生者だと誰かが言っていた気がする。それにしてもワサビを送ってくるとは、
「私は日本人だ」
というメッセージを送ってきたような気がする。
ならば私も誠意を贈らなければならない。
「七海。砂糖、塩、酢、醤油、味噌を用意してくれる?」
「なるほど。かしこまりました」
一礼をして用意しに行く七海。
「さて、わざわざ遠いところから来てもらって大変だったでしょう。みかんでも食べる?」
「風に乗ってきましたので時間はそんなに」
その言葉を聞き終える前に、調理室から爆発音が聞こえた。
「姫様、ついに実験が成功しました!」
真奈美が黒焦げになりながらも皿一杯に毒キノコを乗せて走ってきた。
「毒キノコを美味しく食べる方法が見つかったんです。これで食料事情はかなり良くなります!」
「毒キノコを美味しく食べたって結局は毒じゃない」
「それが、毒キノコはしっかり焼くと毒成分が抜けることがわかりました! なんと味はマツタケなんです!」
「なにその食中毒対策」
「マツタケですよ? つまりこの森はマツタケだらけなんです。採っても明日にはすぐに生えてくる。まさに宝の森なんです」
「ありがたみがなくなるような。でも食料事情が良くなるのは素晴らしいわ。ただ、なんで爆発したのよ?」
「とりあえず爆発するまで熱してみようかと思いまして!」
「子供が真似したらダメなやつじゃん!」
「とりあえず、安心安全を証明したいと思います。はい。リィナさんです」
雑に用意される慈愛の女神。
「リィナさん。どうぞ」
「え?」
「食べて下さい」
「お主、人間のくせに神に毒キノコを食せというのか? バチが当たるぞ?」
「もはや毒キノコではありません。マツタケです。金貨十枚くらいの価値がありますよ? 高級食材です」
「本当か! なら食べるとしよう」
相変わらず金に目がない慈愛の女神。
一口食べると。
「ただの焼いたキノコじゃのう。これ、本当に高級食材なのか?」
「価値がわからない人はそんな反応だよね。ま、私もそんなにわからないんだけど。ま、香りを楽しむとかあるみたいよ?」
「香りで腹は満たせぬ」
納得がいかないリィナをよそに、大量の毒キノコ。いや、マツタケを見せられては、いかにマツタケとはいえこれらをどうするか困る私だが、コンダクタ皇国の使者に、
「全部持ち帰って皇女にわたして。見た目は毒々しいけど焼けばマツタケだって言えばわかるし、喜ぶと思うよ」
毒々しい見た目に一瞬だけ視線を泳がせた使者だったが、皇女が喜ぶならと、
「かしこまりました」
と、素直に受け取ってくれた。マツタケをこんなにくれるなんて悪魔姫はふとっぱらなの。と、感謝するに違いない。私も毒キノコを処理できる。一石二鳥とはこのことだ。
「あと、あなた寒くないの? これ持って行って」
私は余っていた宇宙服を渡した。
「これは?」
「暑さや寒さに耐えられる服みたいよ」
「なんか文字が書いていますが」
「カッコいいからって仕立て屋がNASAって書いただけよ。意味はないわ。マジで」
「わかりました」
使者が宇宙服と毒キノコを持って帰っていくと、
「これで友好関係が築けるといいわね」
私は冬景色を眺めながら、そう呟くのであったが、
「そういえば使者の名や皇女の名前くらい聞いておくべきだったわ」
と、少し後悔をした。
「姫様、コンダクタ皇国から使者が来たと伺いましたが」
村の見回りに行っていたオカリナが戻ってきた。
「もう帰ったけどね。見た感じ魔族だったわ。つまりコンダクタ皇国も人と魔族が共存していることはわかったわ」
「絶滅危惧種と呼ばれた魔族がそんなところに。名はなんと申しておりましたか?」
「それが聞き忘れちゃってね」
「そうですか。ところで姫様。この焦げた毒キノコはいったい?」
オカリナが残っていたキノコを手に取って聞いてきたので、
「焼いたら毒が抜けてマツタケの味がするらしいわよ。ま、香りを楽しんでから食べるのが通らしいわ」
「焦げた匂いしかしませんが」
「そうよね。私もそう思うわ」
私たちは、黒焦げのキノコを、
「ああ、転生して良かった」
と、焦げた香りを堪能する真奈美を見てしまうのであった。




