姫様、女神の服は「パチモン」でした
森から離れた街の、少し古びた宿の一室。
二つのベッドに対し宿泊者は三名。どう考えても足りない。
「貴様は無一文のくせにベッドで寝るなど女神のプライドはないのか! 床で寝ろ!」
オカリナは、ベッドに大の字で転がるリィナを引きずり落とそうとしている。
「プライドなんかとうの昔に捨てたわ。妾はずっと地面で寝ておったのじゃ。たまにはベッドで寝たいのう」
「一緒に寝ればいいじゃない?」
と、私が提案すると、
「さっき初めて会った敵対勢力の奴と一緒に寝ろとは拷問すぎます」
……まぁ、オカリナの言う通りだ。
宿の主人にベッド追加を頼もうとしたが、当然のように追加料金と言われて私は即座にやめた。
初対面の相手のために、なけなしの財布を開きたくはない。
「せめて、家が建つまでの資金が稼げればいいんだけど」
「姫様。私に妙案がございます。こやつはこう見えても人間どもが崇拝する女神です。適当な場所に立たせて、目の前に賽銭箱を置いておけば、我々は働かずとも資金が潤います!」
「残念じゃが、それは経験済みよ。人間たちは哀れみの目を向けるだけで、賽銭どころか近づこうともしなんだ……!」
「貴様、本当に女神か?」
「妾は神じゃって言ってすぐに信用されるほど世の中は平和じゃないからのう」
リィナの話では確かに魔王は勇者に倒され、聖なる結界を張られ、平和になった。
というのは表向きの表現。
魔族という敵がいなくなった瞬間、どこの国も緊張感の糸が切れたように政治が腐敗し、犯罪が横行しているらしい。
「この街はまだ治安がマシな部類じゃ。ここの領主は自ら倹約をし、税金を安くして善政を敷いているようじゃからのぅ。しかし山賊や盗賊の襲撃はしばしばある。自警団が頑張って追い払っているがのぅ」
「姫様。その山賊や盗賊のアジトに潜り込み壊滅させるのはいかがでしょう? アジトにあるであろう金品財宝を強奪し、人間も一掃できる。ついでに街の者から感謝され、宿泊する部屋もグレードアップ。まさに一石三鳥です」
さぁ褒めろ。と言わんばかりのオカリナだが、
「それじゃ、私たちが盗賊団じゃない」
「オカリナよ。お主は戦力0のくせによくもまぁ滅ぼすという言葉が出るな」
私たちの反対に少し落ち込むオカリナ。
「少し話は脱線したが、要するに妾たちが抱えている問題はこの部屋のベッドが増やせば良いのじゃろう?」
「いや、貴様が出ていけば済む問題なんだが」
「神に路頭に迷えとは。悪魔じゃのぅ」
「私はれっきとした魔族なんだが。姫様に至っては古の悪魔姫だし」
「女神。悲しみ」
「何はともあれ、このままじゃこの不毛な言い争いが家が建つまで続くわね。仕方がない。あそこに行くか」
私は椅子から立ち上がると、リィナの手を引いた。
雑多に品物が積まれ、薄暗いランプが揺れる店内。
質屋なのか道具屋なのか相変わらず曖昧な店だ。
「姉ちゃん、今日はどうした?」
相変わらずぶっきらぼうなオッサンが私たちが入店するなり話しかけてきた。
「この人が着ている服を売って、安い服を着させたいのよ」
私はリィナの服を引っ張って答える。
「なっ! お主、神の羽衣をなんじゃと思っておるのだ!」
「神の力ないんだから、そんなヒラヒラな服いらないのよ。庶民らしい服装になさい」
「せめて見た目だけでも女神らしくいたいのじゃが」
嫌がるリィナを無視して、
「オッサン。この服いくらで買い取ってくれるの? 神の羽衣らしいから高く買い取ってくれるんでしょ?」
私の初期装備の服ですら金貨五万枚なのだ。ネーミング的にも高く売れるでしょ。
この店に金貨があれば、の話だが。
「姉ちゃん。こんな服、銅貨一枚にもならん」
「え?」
「神の羽衣だ? そんなもん、魔王が倒されてから“偽物”が市場に溢れて価値が暴落したのさ。このタグを見てみろ。本物ならここのタグに裁縫の神である織姫様のサインが書かれているんだが」
「毒舌貧乏姫って誰よ。姫しか共通文字がないじゃない」
「そんなっ! 妾はこの数百年偽物を着て人類の前に立っていたというのか!」
「多分詳しい奴は、ただのコスプレイヤーだと見てたかもしれんな」
「妾、本物の女神なのに」
悲しむリィナだが、彼女の肩をポンと叩いたオカリナが、
「安心しろ。神の力を失った時点で貴様はもう庶民だ」
「ひどい。というか、お主のその悪趣味なゴスロリドレスは売らんのか?」
「この漆黒のドレスは私の魔力で構成されているからな。ちなみに材料は布の服に焦げすぎたパンを融合させたものよ!」
「ぐぬぬ! なんでそんな材料でドレスが出来上がるのかわからぬ!」
「ちなみに、この漆黒のドレス。炎耐性がついている」
「焦げすぎたパン、恐るべし」
オカリナは自信満々に胸を張るのだが、なんという不毛な争いだろう。
聖女が張った結界により戦闘能力を発揮できない魔族と、聖女に力を与えて神の能力がなくなった女神。
ベッドが増えるのはいつになることやら。
私が不安になると、オッサンが提案してきた。
「ところで姉ちゃんたち。昨日から金に困っているようだな。それなら一つアイディアがあるぜ。物を作って売ればいい」
私は宙を見上げる。
DIYや裁縫なんか得意じゃなかったしなぁ。
「魔族なんだから魔力を吹きこむことは得意だろう? その物騒な鎌を持った姉ちゃんでもできるはずだ。なんなら自称女神を名乗っている姉ちゃんに売らせるといい」
「でも何を作ればって......」
そう言って、気づいた。
「もしかしたら......」
私は今までの出来事を思い出しては閃いたのだった。




