姫様、大元帥と女神を「小学校」に入れたら、友情が芽生えたようです
トランペット村にある小学校。
ここでは、文字の読み書きや、簡単な算数を学ぶことができる。
慈愛の女神リィナは、自分で土産屋を開店するため真面目に通うことを決意した。
「リィナさん、宿題やって来た?」
隣の席に座る獣人の子に聞かれると、
「当然よ」
学校に通うまでは勉強なんかくだらないと思っていたが、いざ始めてみて意味がわかると勉強が面白いものだと気付いたリィナはクラス一のガリ勉になっていた。
そして、自分のことを神と称えはしないが、クラスメイトとして、共に学ぶ仲間として接してくれるこの学舎を好きになっていた。
朝のホームルームにて、先生が教壇に立つなり、
「今日から新入生を紹介します。オカリナさんです」
ドアが開くと、ゴスロリドレスだが鎌は持ってきていないオカリナが教壇に立ち、
「悪魔大元帥、いや、ただのオカリナです。よろしくお願いします」
みんなの前で挨拶したのを見てリィナは、
「何があったのよ」
と、小声で呟いては窓の外でオカリナを見守る四天王たちに、
「こいつらも何してんのよ」
と、小さなため息をつくのであった。
オカリナはリィナの隣に座ると、
「女神と共に学ぶとは屈辱」
「何を言っているの。ここは学校。そんなくだらないプライドは捨てた方がいいわ。それよりも最初の授業は九九の唱和だけど、あなた九九わかる?」
「なんだそれは?」
「じゃあ、これが九九一覧だから、不慣れでも声を出していくといいわ」
こうして教室内から、「いんいちがいち」と、元気の良い唱和が聞こえてきたのであった。
実は昨日、河川敷にある竪穴住居でオカリナが一人で寝ていたところを、ナナミが訪ねた。
「オカリナさん。姫様のお言葉を伝えに来ました」
「まさかついに大元帥の位を!」
ガバッと起き上がるオカリナだったが、
「違います。学校に通えとのことです」
「今さら、私が学校なんかに通えるか」
「でも、字の読み書きや計算とかできませんよね?」
「悪魔大元帥にそんなものは必要ない」
「悪魔大元帥だからこそ、学びは必要ではないでしょうか? 姫様を見て何も気づいてないわけではないでしょう。今までは姫様に従う者として忠義に励んできたことは誰もが認めるところですが、ここからは姫様を支える忠義者にならなければなりません。そのために学が必要なんです」
「学なんかなくても、おまえやヴィオラなど頭のいい奴はいくらでもいるだろう」
「なら悪魔大元帥の座は諦めてください。では失礼します」
「待て。私にはこの死神の巨鎌で敵を斬ることを得意としている。それでは駄目なのか?」
「オカリナさん。敵を斬って褒美を得られたのは、勇者と魔王が争っていた時代の話。今は争わずにして勝つ時代ですよ? 実際姫様も戦わずにして国を得たのでは?」
そう言葉を聞いて、オカリナは半信半疑で学校に通うことにしたのだ。
「女神よ。おまえには慈愛の女神というプライドはないのか?」
放課後、女神に話があると言ったオカリナは率直な意見を聞くことにした。
「プライド? ないよ?」
「あくまで貴様は聖女に加護を与えた、すなわち魔王様と対等に渡り合えた神のはずだ」
「そうね。魔王とはこれからの世界についてお茶してたくらいだし」
「なんだと? 貴様、まるで神の中の神ではないか」
「だから慈愛の女神だって最初から言ってるじゃない。ていうか、この世界じゃナンバーワンの神よ? でも今じゃ加護を授けちゃったから能力もスキルもないただの神族だしね。生きていくだけで精一杯なわけ」
「貴様、実はすごい人だったのか」
「いまさら? でも庶民の暮らしをやってみて
分かったこともあるし、後悔はしてないわよ。今は自分で店を開くって夢を見つけたし。何、あんたは自称悪魔大元帥をやめたわけ?」
「やめてなどはいない!」
「ま、メトロノームを見たことある人は、あんたを見ても誰も悪魔大元帥なんて信じられないだろうけどね」
ケラケラ笑うリィナ。
「誰だそいつは?」
「魔王の側近、いや、腹心と言われてた悪魔大元帥よ。もちろん魔王公認。あいつはマジ何を考えているのかわからなくて面倒くさかったわ」
「おい。詳しく教えろ」
「いいけどここで立ち話もなんだから、喫茶店でしようよ。もちろんあんたの奢りで」
「下衆な女神め」
しかし、紅茶とケーキの代金でオカリナは、魔族のナンバーツーと囁かれた悪魔大元帥メトロノームのすごさを知ることができた。
魔族以上に知識を持ちながら、決して目立たず、常に先立って作戦を練り準備しておく。自らも決して弱くなく、常に見えないところで鍛練に勤しむ。
リィナが魔王は最強の強さにして最強のカリスマを持つだけだからわかりやすいが、メトロノームは本当に厄介だったと言っていた。
なお、魔王と共に勇者に倒されたかどうかも不明らしい。
「それが悪魔大元帥の真の姿」
オカリナが感動していると、
「ま、今は時代が違うからメトロノームを真似しても仕方ないけど、少なくとも鎌振り回すだけが取り柄のあんたに悪魔大元帥を名乗る資格はないわね」
「なあ、どうしたら姫様はわたしをお認めになってくれると思う? 貴様も神なら分かるだろう?」
「そもそも、あんたミナエの何もわかってないじゃない。馬鹿みたいに世界征服って言ってるけどミナエはそんなこと望んでないことに気づいてない?」
「何? 姫様はあの古の悪魔姫だぞ? 世界征服したくないわけが! それに実際国を奪ったではないか!」
「成り行きで国を治めることになったけど、基本静かにのんびりまったり暮らしたいだけよ。立場上そんなことできなくて必死なのが見ていて面白いけど」
「姫様の力があれば世界征服も夢じゃないというのにか」
「本人は全く望まないけど世界征服はするかもって思ってはいるよ? だからついていくことを決めたし。初期メンバーだったら優遇してくれるかもって期待ははずれちゃったけど」
「どういうことだ?」
「ミナエの本質は、住民の幸福度を上げれば自然と自分の幸福度が上がるって考えがあるのよ。要するに自分だけが幸せになればいいやって考えがないのよ。だけど、この世界は荒れているでしょ? だから幸福度を上げたい他の国が併合を求めてきて、やることが終わらないって感じ?」
「戦わずにして勝つというやつか」
「ま、本人は嫌だろうけど、この時代にピッタリではあるよね。で、悪魔大元帥に必要な素質。もうわかるよね?」
やはり癪だがオカリナはうなずいた。
姫様がまったり暮らせる世界を維持するために、「私が泥を被って全ての不平不満を事前に処理する調整役になる」と決意するのであった。
そして、
「教えてくれてありがとう。これからもよろしく頼む」
と、照れながらも握手を求めたのであった。




