姫様、スライムを大臣にしたら「やる気の過剰摂取」で倒られました
料理人ボーンが帰った翌日。
玉座に私はメタリックスライムを呼んでいた。
「来てもらって早々悪いんだけど、トランペット村で発生したゴミは肥料として再生してるんだけど、他の都市で発生したゴミはフレアが緊急で作った焼却炉で燃やして処理しているのは知ってる?」
「はい。見事な政治手腕でございますじゃ」
「でも、いつかわからない将来だけど、オゾン層破壊だの地球温暖化の上昇とかで新たな環境問題が発生するのは目に見えてるわ」
「おっしゃってる言葉が難しすぎてワシにはサッパリですじゃ」
「ようするに、この世界の環境が破壊されるってことよ」
「それは深刻な問題ですじゃ」
「そこであなたを環境大臣に任命するわ。大臣第一号よ。スライムは鉄でもガラスでも食べるって聞くわ。その特性を活かして共にゴミ処理問題を解決しましょう」
「環境大臣。第一号の大臣」
なんか感動しているようだが、
「ま、あまり気負わないで、まだ時間はあるから少しずつやっていこう」
「このアレクサンドリア=ダンバイン三世、命に変えましても、姫様の悲願、必ずご期待に応えて見せますじゃ!」
意気揚々とアレクサンドリアは玉座を出て行ったが、スライムなので表情からは何も読み取れない。
すれ違いにオカリナが戻ってくると、
「アレクサンドリア殿、ずいぶん張り切っておりましたが」
「わかるの?」
「ええ、表情から読み取れましたが」
「まあいいわ。メタリックスライムを環境大臣に任命したのよ。ゴミ問題は生きとし生ける者の永遠の課題だから、今のうちに取り組んでおかないと」
「確かに鉄やレンガも食べますが、キャビアとフォアグラ、トリュフという伝説に記載されている幻の食材は苦手と聞きます」
「そんな食材捨てる人いないから大丈夫じゃない?」
「それよりも姫様。アレクサンドリア殿を大臣に任命したのですか?」
「箔が付いた方がやる気出るかと思って」
「なんと羨ましい」
「オカリナは悪魔大元帥なんだからいらないでしょ?」
「悪魔大元帥は自称なんで」
「自称だったんかい! 過去の魔王が任命したんじゃなかったんかい!」
「魔王様は他人に対して『貴様』とか『おまえ』としか呼びませんでしたからね。名前を覚えるのが苦手と、たまにしか来ない上司の上司の上司が申しておられていたので、私自ら悪魔大元帥を名乗ったのです。ちなみに四天王の名も私の独断と偏見です!」
「肩書き必要あったの?」
「こうしないと魔族は『魔王様と、それ以外』になってしまうんですよ。ほら、組織図って大事じゃないですか。人間たちが描いているのを窓から見て格好いいなーって憧れたのが最初ですね! 私が悪魔大元帥を名乗るからあなたたちは四天王に任命するわって昔言った記憶があります」
「ちなみに組織図でいうと、オカリナと魔王の間に何人くらい魔族がいたの?」
「いっぱいいたかと」
「めっちゃ下っ端じゃない!」
要するにオカリナや四天王は、今まで魔族の中でも中核にいた存在ではなく、地方、それもど田舎にいる小さな会社の係長と平社員みたいな存在だったとは。
どおりで、能力はあるものの、基本インフラ要員がお似合いだし、一番必要である悪魔大元帥や、四天王としての『威厳』が全くないことに妙に納得してしまった。
下手をすれば、子供たちがやりそうな『魔族による世界征服ごっこ』疑惑まであるとは。
まあ、私としては世界征服をする気がないからどうでもいいのだが。
「さあ姫様。私を正式に悪魔大元帥に任命し、世界を征服いたしましょう!」
「説得力ないわ!」
一方そのころ、森の湖の小さな洞窟にて。
アレクサンドリアは、妻と子三人に、
「ワシはこの度、姫様から環境大臣の任を受けた。これはワシらスライム族にとって初の名誉なことである」
と、涙を堪えて伝えると妻が、
「そうねあなた、生きる者全ての最弱と世間様から馬鹿にされてから数千年。まさか大臣なんて。今夜は赤飯にしましょう」
「父ちゃんすごいよ。明日トロルキングに自慢できるよ!」
「でも父ちゃん。環境大臣って何をするんだ?」
「なんでも、生活で発生したゴミを燃やさずに処理したいと姫様はおっしゃられておった。そしてスライムはなんでも食することができると」
「もしかして姫様は私たち家族に全部を食せとおっしゃられたの? 五匹で毎日人口十万人が吐き出すゴミを? さすがに無理よ。まさか子供たちが食べ盛りってことを見越して? でも流石に無理よ!」
「そもそもゴミを食べに行くだけで国を一周するのに半年はかかるからのう。姫様だってそのくらいはわかっておられるじゃろう。少しずつ解決したいと言ってたし」
「そうね。姫様のおっしゃられた通り、できることからやりましょう。私たち家族も協力するわ!」
「いや、姫様の期待に応えるためにもワシは食って食って食いまくるぞ!」
そう決意を家族に伝え、アレクサンドリアは洞窟を飛び出していったのであった。
三日後。
「姫様。わたくし、アレクサンドリア=ダンバイン三世の妻のペルーシャと申します」
見た目がピンク色のスライムなのでメスだということはなんとなくわかるし、身を震わせて頭を下げているのも何となくわかる。
「で、アレクサンドリア環境大臣の奥さん。急に呼び出して申し訳ないんだけど」
やはり役職を与えた以上、役職名で呼んだほうが礼儀だろうと思った。
「旅立った先で食べ過ぎで倒れた件、主人に代わってお詫び致します。この度は大変申し訳ございませんでした! どうかわたくしたちの命だけで、子供達はどうかお許しいただきたく存じます!」
そう。昨日隣町の町長から、国から派遣されたスライムがゴミの食べ過ぎで病院に運ばれたと聞かされて、頭を抱え、家族に知らせたのだ。
「別に命を取ろうとは思わないんだけど、ただの『食べ過ぎ』で殉職されたら、私の寝覚めが悪すぎるわ。 大体、三日で一国分のゴミを一人で片付けようとするなんて、ブラック企業でもそこまでのノルマは課さないわよ」
「ですが、主人は姫様の第一号の大臣としての名誉を守ろうと……!」
「名誉よりも、まずは消化器系の健康を守ってちょうだい。……オカリナ! アレクサンドリアに特製の胃薬と、あと『ゴミの適正摂取量ガイドライン』を至急作って渡して。……というか、隣町の町長に『大臣が騒がせてすまない』ってお詫びの品を送っておいて」
「ハッ、かしこまりました。チヒロ産のメロンを持って行きます」
こうして、我が国初の環境大臣は、就任三日にして「労働災害(胃もたれ)」で長期休暇に入ることになった。
私の目指すホワイト国家への道は、どうやらゴミの分別以前に、部下のやる気の分別から始めなければならないらしい。




