姫様、行き倒れの女神は「絶望的なポンコツ」でした
私の名は星野美苗。
ある日、自宅で酒を飲みながらテレビを見ていたら——隣の部屋に現れたゴキブリと私を、天使が盛大に取り違え、死亡判定を出してしまった。
転生する時、私の願いは三つだけ。
スローライフな人生を送りたい。
みんなから姫様扱いされたい。
かわいい容姿で生まれ変わりたい。
……だったはずなのに。
なぜか何もない森に飛ばされて、スローライフどころかサバイバル生活を強いられ、絶滅危惧種扱いの魔族の姫として崇められ、そして未だに誰からも「かわいい」と言われたことはない。
いやほんと、どこで間違えたの私。
そんな魔族の姫と持ち上げられている私は今、
森の奥で空腹のあまり倒れている、女神を見下ろしていた。
「とりあえず、食べ物と水を与えればいいかな?」
「捨てておけばよろしいかと、姫様。女神は敵対勢力です。殺す義理はありますが、助ける道理はございません」
オカリナがさらっと物騒なことを言う。
「まぁまぁ。種族問わず困ってるなら助けるべきよ」
「さすが姫様。敵対勢力にも寛大……では、そこに生えているキノコでも食べさせましょう」
そう言うやいなや、オカリナはキノコを雑にむしり取り、
「食え。餌だ」
と、倒れている女神の口に強引に突っ込んだ。
「ちょ、ちょっと! 念のために聞くけど、大丈夫なキノコよね?」
「さぁ。適当に選びましたので。女神なんで毒耐性スキルくらい持っているでしょう」
「あんたねぇ……!」
私がツッコむより早く、女神が目を覚ましては私を見るなり、
「あっ、閻魔大王!」
「誰が閻魔大王よ。会ったことないけど」
静かな口調で答えると、オカリナが残ったキノコを見せつけてきて、
「姫様。どうやらこのキノコは幻惑を見せる効果がありそうてす」
「女神は毒耐性あるんじゃなかったの?」
「多分、こいつは女神の中でもポンコツの部類なんでしょう。神も星の数くらいいますから」
私とオカリナの会話を聞いて、
「黙って聞いておれば誰がポンコツじゃ。聞いて驚くな。妾こそが慈愛の女神リィナ。世界に聖なる結界を張る力を小娘に授けた神じゃぞ」
立ち上がりドヤ顔を見せてくるリィナ。
「姫様。こやつが我々の力を削いで絶滅危惧種にした真犯人てす。抹殺しましょう」
オカリナが巨大な鎌に手をかける。
「何! お主魔族じゃったか! てっきり森に住む熊かと思ったぞ!」
「誰が熊だ!」
「しかし、聖なる結界の前では魔族は無力! その爪で妾には傷一つつけられぬ!」
「ぐぬぬっ! 由緒正しき死神の巨鎌を熊の爪と戯言を!」
オカリナは悔しさを抑えながらも鎌を振った。
「!!」
思わずリィナがしゃがむ。その上を鎌が放った真空の刃が木を真っ二つに斬った。
「何故このような力があるのじゃ......」
「今まで何も斬れなかったのに......」
二人とも不思議そうな顔をしている。
「まさか、この閻魔大王が聖なる結界を無力化しているとでもいうのか!?」
「だから誰が閻魔大王よ!」
「とりあえず水を飲ませてくれ。幻惑が解けんと妾も話辛い」
少し離れた湖で顔を洗うリィナ。
見れば見るほどアニメに出てきそうな女神である。
「魔族の小娘たちじゃったか」
どうやら幻惑が解けたらしいリィナは切り株に座る。
「姫様。油断なされぬよう」
オカリナはずっと警戒していた。
「よせ。妾の力は全てあの小娘に授けた。よって妾に力は残っておらぬわ。戦う気などない」
「貴様を殺せば、この忌々しい結界は消えないのか?」
「妾を殺しても、結界はもはや結界そのものを破らぬ限り消えぬ。そして破れるのは伝説と言われる古の悪魔姫のみよ」
「しかし先ほどは私の力が発揮出来たぞ」
「おそらく今はその力が発揮できぬよ。ほれ、試してみるがいい。妾の首でも斬ってみよ」
ほら、やってみろと自分の首を叩くリィナ。
「知らんぞ」
オカリナは鎌を振るうが、鎌の刃は不思議な力で寸前で首に届かない。何かに防がれているようにも見える。
「この通り、ここは結界がきちんと働いておる。今お主たち、森の中心で家を建ててるじゃろう? あそこから妾が倒れていた辺りまで、結界が無力化されているのじゃ」
「何で?」
私は会話に首を突っ込んだ。
「昨日あの辺りから、それこそ古の悪魔姫のみが使えるスキル、絶望の波動を感じた。あれこそ結界を破る力じゃからな」
私は昨日のことを思い出す。そういえば理想の転生人生と現実の転生人生がかけ離れすぎて叫んだ時、空間が闇に包まれ、時が一瞬止まったのを思い出した。
あれが絶望の波動なんだ。
おそらく発動条件はストレスを声を大にして発散することなんだろうか?
私は考えることにした。
「ま、古の悪魔姫がこの世界に現れた。妾はこれを知っただけで満足じゃ。正直妾にはどうしようもできんしな」
「姫様。その絶望の波動をいっぱい放って結界を全て打ち消しましょう!」
無茶苦茶なことを言ってくるオカリナ。
「よせ。お主が言う姫様も絶望の波動の発動条件が何となくはわかってそうじゃが、実際無理じゃ」
そう。あの時はあまりにも理不尽な出来事に怒りが込み上げたが、今はそんな怒る理由がない。
多分、心底怒った時に絶望の波動は発動するのだろう。そして範囲はあの理不尽さで半径100メートルほど。
世界中に貼られている結界なんて全て打ち消すのは不可能に近い。
リィナが種明かしを堂々とやっている理由が、出来ないから。その一言に尽きる。
「しかし私が姫様に協力すれば!?」
食い下がるオカリナだが、
「見たところお主は姫様、いや、ミナエと申したか。彼女に絶対の忠誠を誓っているように見えるが?」
「当然だ。魔族たるもの、姫様には忠義を尽くすまで」
「絶望の発動条件は、ミナエによる心からの怒り、憎しみ、妬みなどじゃ。協力すると言ったが、忠義を尽くす者に対して怒りや憎しみは生まれん」
「だったらどうすれば」
「知らぬ。何故妾の全てを捧げた結界に泥を塗らねばならぬのじゃ。忘れるな。妾はお主らたと敵対する勢力じゃ。本来ならこんな話もする必要すらない。毒キノコとはいえ妾を救おうとした礼をしたまでじゃ」
「そういえば、なんであんなところで空腹になって倒れてたの?」
返答に困るリィナだが、
「腹が減ったが、金がなくて冒険者ギルドで薬草の採取ならできそうと思って受注したが、薬草なんか採取したことがないから、どれが薬草かわからなくて、とりあえず生えている草を食べていたら、痺れ草にあたって倒れていただけじゃ」
「神って働くんだ」
「仕方なかろう。神の力を聖なる結界に注ぎ込んだら、神の力を失ったんじゃから」
「で、私たちは家が完成したら住んで、その後の生活を今から考えているんだけど、リィナはあてがあるの?」
「ない! ゆえに妾は決めた! そなたらについていく! いや、ついていかせてくれ!」
は?




