姫様、三千の兵を「全裸の四天王」と「毒カレー」で迎撃しました
「姫様。これから戦争だと聞きましたが我らに戦うなとご指示されたとか」
大広間の玉座の前にて四天王三人が私に聞いてきた。
「そうじゃ。お主らだけではない。この村全てのものは戦ってはならぬ」
「何故です! 我らの力があれば数千の人間くらい根絶やしにできます」
「自然破壊の復旧や死体の処理なんかしたくないからじゃ。お主らの今までの努力を無駄にしてはならぬ」
「しかし戦わずにどう勝つつもりなんです?」
「お主らは立っているだけで良い」
四天王が去った後、ヴィオラが尋ねてきた。
「姫様。ついに戦争だと聞きましたが|プリンセス・サーバンツ《姫様のしもべ》にて傭兵を募集してはならないと聞きました」
「そうじゃ。どちらかと言うと、炊き出しを行う者が欲しいのう」
「炊き出し、ですか?」
「そうじゃ。あとチヒロに農作物の生産を増やせるだけ増やしてくれと伝えてくれればよい。あと、森の入り口に毒キノコがいっぱい生えてますので危険です。ていう看板を立てておいてほしいのう」
「それではまるで敵を歓迎しているみたいではないですか」
「そうじゃよ?」
「迎え入れてどう勝つつもりなんですか?」
「戦争にはいろんな種類がある。お主らに教えてやるから言うことを聞いておけば良い」
納得をしていないヴィオラが帰った後、ユリエル、バスク、クラリが来た。
「お主らはちょっと忙しくなるが許せ」
私は頭を下げると、
「本当に争わず戦争が終わるなら構わん」
「でも姫さん。相手に傷ひとつつけないなら俺たちいらないんじゃ?」
「勝手に傷だらけの重症患者であふれかえるはずじゃ」
「特別報酬ってもちろん出るんですよね?」
「残業代くらいは支払ってやるつもりじゃ」
「残業確定なの!?」
こうして準備は整った。
後は攻めてくるのを待つだけだ。
そう思い紅茶を一口飲んだ。
一週間後。
「姫様。森に向かう兵、約三千がこっちに向かって行進しております」
密偵の勤務をしているエルフが私に教えてきた。
「兵士の状況は?」
「仕方なく従っている者、意気揚々としている者、様々です」
「兵隊の隊長がわかったら教えるのじゃ」
「かしこまりました!」
エルフは大広間を出ていくと、私はテーブルに広げられた地図と手作りの駒を見て、
「いつの時代の戦争漫画じゃ」
と、呟くのであった。
一方、森の入り口。
ヴィオラ作成による、「我が領内に侵入する愚か者たちへ。この先、毒キノコが生えています。決して食べないように」という立て札を読んで、兵隊たちは敵にわざわざ忠告してくるなんて馬鹿な奴らだと一笑する。
しかし、少し歩くと道端や少し奥に、
「なんて食べたくなるキノコなんだ」
「こんな素晴らしいキノコ見たことがない!」
「腹が減っているんだ。多少の毒くらいなんともない!」
「見ろ。このキノコ七色に輝いているぞ!」
兵士たちは忠告を無視して食べ始める。もちろん全てが毒キノコである。
私はこの森に来て、お腹がすいた人たちがキノコを食べなかった例を見たことがなかった。
そしてみんな食当たりを起こして倒れている。
ようするに頭ではわかっているが食べたくなる魅力がこのキノコにはあるのだ。
そしてこの毒キノコ。種類は様々だが、睡眠、毒、麻痺、混乱など効果も様々である。
兵士たちの進軍が当然のように止まった。
「くっ、毒キノコを生やすとは悪魔姫。許すまじ!」
比較的、あらかじめ食事をとっていた兵士たちだが、
「ピキーッ!」
目の前にメタル製のスライムが現れた。
「あれはメタリックスライム! 倒せば経験値が莫大にもらえるぞ!」
「あっ、逃げる!」
「追え!」
メタリックスライム、本名はアレクシア=ダンバイン三世は湖に向かって誘導するのであった。
その湖の中央には、上半身裸、貝殻パンツを履いている男が浮かんでいた。
彼の名はアクアマリン。水の四天王の一人である。
「なんてヤバそうな奴だ。簡単に近づくなよ!」
兵士たちはアクアマリンの外見のヤバさから警戒を怠らない。出来れば関わり合いになりたくなさそうでいる。
「しかし、あれはなんですか?」
「巨大な滑り台に見えるが、なんか楽しそうだ」
「乗ってみるか?」
アクアマリンが聞くと、
「いいのか?」
「音速水流ジェットコースターはアトラクションだからな。乗りたいなら乗ればいい」
次々とジェットコースターの魅力に取り憑かれたように乗っては、次々とどこかに飛ばされていく兵士たちなのであった。
一方、メタリックスライムに釣られなかった兵士たちは毒キノコの誘惑にも負けず先を進む。
「なんかヤバそうなやつが現れたぞ!」
兵士たちの前には上半身マッチョ、セクシーパンツを履く火の四天王フレアが行く手を阻んでいた。
「こいつ、変態か?」
近づきたくない表情の兵士たち。
「それにしても奴は何者だ? 暑いんだが」
フレアの放つ自然熱風と鎧がさらに身体を熱くすることに耐えられない兵士たち。
「くっ、暑すぎる!」
鎧を脱ぎ出す兵士たち。
その鎧を、伝書鳩が次々と盗んでいく。
「ムッ、あれが勇者を襲ったという鳩か。しばし待たれよ。奪い返してきてやる!」
鳩を追うフレア。
「寒い! 寒いんだが!」
フレアがいなくなった後、寒暖差に耐えられない兵士たちなのであった。
それでも鎧を脱ぎ捨てなかった兵士たちは行軍を進めた。
「ここまで来たか」
黒いローブを着た男が現れた。彼の名はサムス。土の四天王である。横にはチヒロが腕を組んで立っている。
「また変なやつが現れたぞ!」
警戒を怠らない兵士たちだが、
「これを見てそう言えるかな!?」
チヒロがローブをめくると、
「こいつ何も着ていないんだが!」
「せめてパンツは履け!」
サムスが一歩兵士たちに寄ると、一歩兵士たちは後ずさる。
全身裸の知らないおっさんは目の前にいるだけで恐ろしい存在である。
「姫様はオラたちに戦うなと言ってたが関係ねぇ。ほら戦うだよ!」
「嫌だ。こんなヤバい奴と戦いたくない!」
一目散に逃げていく兵士たちなのであった。
ボロボロになった兵士たちが先に進むと、休憩所と書かれた小屋を見つけた。
「休める、のか?」
兵士たちは安堵した。
「なんかいい匂いがする」
「しかし気をつけろ。この森はヤバイ。危険な食べ物しかないし、全裸のおっさんが次々と現れる!」
その前に現れたのが、
「やっと来たわね。慈愛の女神リィナが炊き出しをしてあげるんだから感謝しなさいよ」
「慈愛の神だと?」
「どう見ても慈愛の女神にしか見えないでしょ」
「だまされんぞ。こんないかにもポンコツそうな女が慈愛の女神様なわけがない!」
「失礼ね! せっかく毒キノコカレーを作ってあげたのに何様のつもりよ!」
「毒キノコって自分で言ってるじゃないか!」
「女神の加護で毒成分は抜いてあるわ!」
「騙されんぞ!」
疑いの目でリィナを見ている兵士の前に、
「女神よ。何をしているのだ?」
オカリナが現れた。
「兵士たちに炊き出しを行っているんだけど毒だと言って食べてくれないのよね」
「まあ、信じるやつがいたら顔を見てみたいもんだが」
と言いながらも、一口食べるオカリナ。
「外で食べるカレーは格別だと姫様がおっしゃられていたがその通りだな」
「隠し味は毒草よ」
平気そうに食べるオカリナを見て、
「本当に食べても大丈夫なのか?」
「見ての通り私が毒味をしている。敵に塩を送る姫様に感謝をして食うがいい」
兵士たちにカレーが配られ、兵士たちは食べると、
「ぐぶっ、やはり毒!」
バタバタと倒れていく兵士たち。
その姿を見たオカリナが、
「私は完全耐性がついているからな。それにしても女神よ。試食はしたのか? どうやったらこんなに不味くなるんだ? 外で作るカレーは確かに格別にまずい」
「試食するわけないじゃん。私、耐性ガバガバなんだから。毒キノコ成分すら抜いてないし」
「嘘を平気でつくなんて、女神の風上にもおけんな。さて、ほとんどが戦意を喪失したわけだが、あとは医療班と姫様次第だな」
オカリナは毒キノコと痺れ草に当たった兵士たちを見ながらそう呟くのであった。




