姫様、庭の雑草を食べつくす「草食系薬師」が現れました
リィナが泣きながら村人に謝罪と返済をすませた翌日の朝。
私は目覚めてリビングに行くと、
「姫様。おはようございます」
オカリナは挨拶をすると、
「試作品ですが」
テーブルに紅茶を置いた。
「あ、美味しいじゃない」
「ありがとうございます。女神ごときに無職扱いされたままでは悔しいですからね。アクアに協力してもらい、色々調合してみました」
「喫茶店を開いても人気が出ると思うよ」
「そうなったら、飲まないと生きていけなくなるように中毒性のある紅茶を作り、魔族に忠誠を余儀なくさせましょう」
「それ。ダメなやつだからね!」
釘を刺したあと、山積みになっている書類を見た。
「なんか段々書類の数が増えてる気がするんだけど」
私は一枚目を読むと、チヒロによる畑による収穫結果報告書が書かれていた。それが何枚にも渡り続く。
それが終わり、次は草案書だった。
一行目から私は頭を押さえた。
「アトランティス帝国への宣戦布告草案書って、そもそもアトランティス帝国ってどこにあるの?」
「かつて世界を二分したと言われる海洋国家です。ムー帝国と共に数百年前に滅びてしまいましたが」
「滅んだ帝国に宣戦布告してどうするのよ」
「私としたことが。つい先走ってしまいました」
「てか、この村が世界のどこにあるのかすらわからないくらいなんだから」
せめて世界地図は欲しいなと思いながら、手に入れたら手に入れたで世界征服への妄想シュミレーションを毎日聞かされそうだ。
というか、よく読んでみると村の住民の日記のような内容ばかりだ。
「自分の働きを姫様に知ってもらおうと皆、懸命なのです」
「だからといって、村人全員の一日の食事内容を読まされても仕方ないわ。私に伝えたいことがあるなら、それぞれの所属長に言って、その所属長が私に直談判しに来るよう通達しといて」
「かしこまりました。姫様のおふれとして村人に伝えておきます」
「あと、絵で伝えようとしてる人が何人もいるわ」
たぶん識字率が低いのだろう。学校って必要なんだなって初めて思った。
パラパラと捲ると、よくわからないイラストが多数あった。多分みんな同じものを書いていそうなのだが、何を書いているんだろう?
私はつい目を細めてしまう。そんな私を診てオカリナは鎌を抜いた。
「姫様を困らせる手は不届者です。中央広場で公開処刑しましょう」
「なんで自分の頑張りを必死に表現して処刑されないといけないのよ。多分世の中で上位に入るくらいの納得されない理由だわ」
「姫様は人間に優しすぎる気がしますが」
「私は魔族であれ人間であれ、差別をするつもりはないわ」
「なるほど。さすが姫様です。甘い蜜を吸わせ、魔族な奴隷として労働力を少しでも確保なされるのですね」
「いや、違うんだけど」
私は言いかけると家の外からガサゴソ聞こえる。
「誰かいる?」
「朝から知らない男が裏庭で草を食べてます」
「不審者じゃん! 何で教えてくれないのよ」
「無害と判断しましたので」
私は一枚の下手な絵を見て、
「もしかしてこの絵って?」
「多分。その人物を書いたんでしょう」
やはり学校って必要ね。考えておかなければ。
私はそう思いながらも、家の裏庭にまわった。
巨大な男が背中を向けて夢中で草を食べているのがわかる。ある意味怖い。でも服を着ているだけマシに見える。
「あんた、人の家で何してんのよ」
私は勇気を出して声をかけると、
「見てわからんか? 草を食べてるんだ」
「森にいっぱい生えてるじゃない。わざわざ人の家の裏で食べる必要なんかないじゃない」
大男がカバンから雑草を取り出す。
「これは湖の近くで採った雑草。そして庭に生えている雑草。違いがわかるよな?」
「同じ草にしか見えないんだけど」
「わからんのか。アホだな」
急に現れた不審者にカチンときた。最近忙しすぎて怒りやすくなっていたのもあるだろう。
「これは......絶望の波動? 古の悪魔姫って本当にいたんだな」
周りの草木が波動に呑まれ、枯れていく。
「そのへんにしておけ。生態系が崩れる」
冷静な口調で大男は言われて我に返った。
草木は何事もなかったかのように再生する。
「ああ、全くの別もんになっちまった。食い直しだな」
「見た目は同じよ」
私の言葉を無視して、草をひとかじりすると、
「毒草に毒が重なって薬草になっちまってる」
「何、その敵の敵は味方理論。敵の敵も結局は敵なはずよ」
「毒を殺す毒で中和されてるって言った方が良かったか?」
「というか、あんた誰よ」
「それはすまんかった。俺はバスク。世界を跨ぐ薬師してる」
「薬師って病気を治せるんだっけ?」
「それもあるが、筋力増強大や睡眠薬や麻酔も作れるかな」
「サプリメントも作れるのね。まるで調剤薬局じゃない」
「言葉の意味がよくわからんが、ま、姫さんが思っているようなもんだな。で、話は戻すが、世界を見ても実は薬草って珍しいんだ。多分この家の周りは全部薬草になっているから宝庫になっちまってる」
「そうなの? 薬草なんかどこにでも生えてると思ってたわ」
「それならみんな草を食べる習慣があって根こそぎ食い尽くされてるよ」
言われてみればそんな気もする。
風邪をひいて、雑草食べたら治るなんか聞いたこともない。
「そんなわけで、草もらえないか? どうせこの庭の様子だと手入れしないんだろ? 無料で庭師を雇ったと思ってくれてもいい」
「薬剤師として村の住民になるならいいわ」
「それはかまわんが、俺はあくまで薬師だ。病気などは診れる奴、つまり医師がいないと効果は期待できないな」
「知り合いとかいないの?」
「いると言えばいるけど、姫さんたち魔族だろ? 俺は神族しか知り合いがいないからな」
「気にしないわ。すでに女神が住んでるくらいだし」
「え? なんで共存できてるの?」
バスクはあり得ないと言った顔をしながらも、連れてきてみると言い、一度去って行ったのであった。
その背中を見て私は一言つぶやいた。
「薬師ってみんな草を食べるのかしら?」




