姫様、人材不足を嘆いたら木から「エルフ」が降ってきました
翌日の朝。
「ちょっとチヒロって子のところに行ってみたいんだけど、案内してくれない?」
朝食をとりながら私は向かいに座っているオカリナに頼んでみると、
「かしこまりました。近いですから徒歩でもよろしいでしょう」
朝食を終え、オカリナに案内される形でついていく。
建築ラッシュの一帯を抜けると静かな森が続く。住むために村を作るためとはいえ、森を開拓し、環境破壊を指示していることに罪悪感を感じた。
「こちらです」
歩いて十分ほどで着いた先には、ちょっとした山に穴が掘ってある、かまくらみたいのがあった。多分住居だろう。
その隣には小さな畑があった。
そこには、メロン以外にも、鮮やかな緑色のレタスや、ツヤツヤと光るトマトなど、どれも異世界とは思えないほど均整の取れた野菜が育っていた。
「へぇ、家はあれだけど思っていたよりも本格的ね」
私は感動すら覚えて野菜を見ていると、
「あら、昨日の今日で来たわけ?」
汗を垂らしながらチヒロが樽を持って帰ってきた。
「何してたの?」
「水を汲んで来たのよ。湖まで遠いったらありゃしない」
「大変そうね」
「当たり前じゃない。重いのなんの」
「そんな大変な思いをしているチヒロに昨日のお詫びとして、インフラをプレゼントしに来たわ」
「どういうこと?」
私はオカリナに、
「アクアを呼び出せる?」
「かしこまりました」
そう答えたオカリナは目を閉じて集中しているように見えた時、彼女の影からズズズ......と、上半身裸、貝殻パンツのアクアがマッスルポーズをしながら生えてきた。
「あんたら、さらに強盗致傷、拉致監禁の上、性犯罪を重ねるわけ? 魔族って犯罪が好きなの?」
ひきつった顔で後退りするチヒロ。
「なんかこれが正装らしくて、服を着ろって言っても聞いてくれないのよね。で、見た目はこんな変態だけど、彼の力で水道を通せるわよ。もちろん水洗トイレも!」
「マジで!?」
途端に目が輝く。やはり水道と水洗トイレは日本人には必要な物なのはわかる。
「住む家も私が手配するわ。希望があったら言って」
「あんた神なの?」
感激しまくりのチヒロに、私はフフンと鼻を鳴らす。
「ついでにと言ってはアレだけど、火は?」
痛いところをつかれた。私も今、とても火が欲しい。盗賊団の知識で火起こしを教えてはもらったが、やってみると大変なのだ。
まぁオカリナにやらせてるけど。
そんな知識も何もないチヒロは、生野菜で生活しているのだろう。野菜の種類がそれを物語っている。
「火の四天王の居場所はわかってて、今、女神が仲間になるよう説得に行っているんだけど、いつ戻ってくるのか見通しがついてないのよね」
「そっかぁ。でも女神様が説得に行ってるから大丈夫そうね」
「その女神、横領、着服の前科があるっていうかポンコツなのよね」
「この世界、みんな犯罪好きなの?」
「罪の意識が低いのよ。多分」
「ま、気長に待つよ」
「チヒロの家が建つまで、近くの空き家に住んでもかまわないよ。水道は通ってるし。さすがに洞窟に見えるこれじゃ、いつ何者かに襲われても文句言えないからね」
「うーん。そうしようかな。正直生きるだけで精一杯だし」
私たちは畑に水をやった後、チヒロを連れて来た道を戻ることにした。
「ねぇ、昨日も思ったけど、あのデカい建物なに?」
「あれは|プリンセス・サーバンツ《姫様のしもべ》っていう、簡単に言うとハローワークよ。しもべとして登録したら仕事をもらえて、報酬を得れるシステムにしようと思って。いずれ畑を手伝う人手も増やせるし、商店街も作るからチヒロも店を出すといいわ」
「考え方、日本人くさいけど、あんたも転生者?」
そう言われて正直に答えるか悩んだ。
ゴキブリと間違えられて死んだとは言いにくかったし、彼女は夏休みに死んだと言っていたからおそらく学生だったはずだ。
四十五歳で望んだことが、姫様扱いされたいとは言いにくかった。
「かつて私に知識を与えた人がそんなことを言っていたわ」
「そうなんだ。でもすごいね。実践するなんて。てっきりめっちゃ仕事が出来る経営者だと思ったよ」
将来働かずスローライフしたいから今頑張ってるとは言えなかった。
「でも今は森だけだけど、徐々に支配地域を増えそうだよね。そうなったら人口も増える一方だし、管理も大変になっていくね」
え?
「だって、プリンセスなんとかも事務仕事とはいえ管理大変そうじゃん」
言われて気づいた。
オカリナにやらせると、やって来たしもべを次々に抹殺したいとか言い出しそうだし、アクアにやらせたら、まず誰も来ないだろう。そもそも彼には炭酸水を作ってもらわないといけないし。
リィナは。やめておこう。仕事なんか危なくて任せられない。報酬もピンハネしそうだし。
そうなると、優秀な事務職が欲しい。
あと最終的には寝転がっている私に忠実な村長。
問題が山積みすぎる。
絶望の波動が私の体内から溢れ出す。
「何よこれ! 全身が痺れる感じ!」
チヒロが私から離れようとすると、オカリナが腕を掴んで阻止した。
「絶望の波動。溜め込まれた姫様の負の感情が解放され、聖女の結界も破る力を持っておられる」
「それってただのストレス発散じゃない!」
私はついイライラして大木を蹴ってしまった。
物にあたるとは情けない。
気を取り直すと、絶望の波動が静まる。
同時に木から何か落ちてきた。
三人は落ちて来たものを見て同時に言った。
「エルフ......?」




