姫様、中抜きした女神を「ボート」で遠島に処しました
森に建てられた私たちの家のリビングにて。
テーブルに少しばかりのお菓子を置いて、周りに座る私とオカリナ。そしてアクア。
「さて。火の四天王に会いに行くわけなんだけど、交通手段を考えないといけないわ」
これまでは徒歩か、オカリナに背負ってもらって空を飛んでいたのだが、彼女の鎌がお腹に当たって痛いのなんの。
「飛んで半日です」と聞いて、さすがに耐えられないと思ったのだ。
かといって徒歩だと何日かかるやら。盗賊団を食べさせられる金品財宝もそこまであるわけではない。
リィナにお願いをして金品財宝の一部を街に返したからだ。もうすぐ帰ってきてもおかしくない頃合いだ。
「姫様。交通手段とは移動方法のことでよろしいですか?」
「そうよ。馬車をレンタルする資金はないし」
「俺の秘術、高速ウォータースライダーを使う時がきたようですな!」
アクアが嬉しそうに言う。
流れるプールというか急流の滝を想像してしまったが、こいつはまず服を着て欲しい。
「女神リィナ。帰還したぞ」
紙袋を両手に持ってリィナが戻ってきた。
「街の者は感謝していたぞ。妾のおかげじゃな」
「あんた、金品財宝を袋に入れてただけじゃない」
「ああ見えても、きちんと入れないと袋に入らないのじゃ」
スーパーの買い物袋を思い出しながらも、
「その紙袋は何?」
「この男の衣服じゃ。街の者からもう着ない服を何着かもらってきた。この女性しかいない場所で半裸の男の存在はどうかと思ってな」
「気がきくじゃない」
「妾は神じゃ。ほれ、好きなのを選べ」
リィナは紙袋を逆さにすると、
「エプロンばかりじゃない」
「ムッ! 妾としたことが袋を間違えたようじゃ。まぁ裸よりはマシじゃ。神に感謝をして身につけると良い」
裸にエプロンに貝殻パンツ。
「変態度が上がったように見えます」
「言わないでオカリナ。仕方がないからエプロンを何枚か融合させて服にして」
「一日二回しか使えない固有レアスキルの無駄遣いです」
文句を言いながらもオカリナは衣服を作成した。
「おお。これが服か。ありがたい!」
「ちなみに、リバーシブルながら夏は涼しく、冬は暖かい品物だ。そして背中に堂々と「流されたら負け」のフレーズがオシャレだろう? 貴様はすぐ上手い話に流されるからな!」
「さすが大元帥!」
「水の四天王なんだから水を流してなんぼじゃないの?」
「さすが姫様。一度のフレーズで二度美味しい」
「それで女神よ。もう一つの紙袋はなんだ?」
リィナは言われて何故かドヤ顔をする。
「浮き輪とゴムボートじゃ。妾が先日、湖で溺れされそうになったと話したら、恵んでくれたのじゃ。なんでも空気を入れると膨らむらしい」
これはあれだ。アクアのウォータースライダーに乗るパターンだと次の展開を察した。
「では妾は疲れたから一眠りするとしよう」
リィナはリビングから出て行こうとすると、ガッチリと腕をオカリナがつかんだ。
「待て。食い意地がはった貴様が、この菓子を前に手を出さないとは不可解だ。街で腹一杯食べてきたな?」
「なんのことじゃ」
「盗賊団から奪い返した金品財宝を一部だが街に返したんだよな?」
「当然じゃ。妾は神ぞ。食費くらいは中抜きしたがな」
「気のせいか胸がおかしな形で膨らんでいるが?」
「成長期じゃな!」
するとオカリナは遠慮なく服の中に手を入れると、金のインゴットを取り出した。
「貴様、本当に返したのか?」
「返したとも! 街の者には残念じゃがこれしかなかったと銅貨三枚を渡したぞ!」
「街の者の反応は?」
「そんなん返されてもって微妙な顔をしていたのぅ。じゃが、感謝はしてたぞ」
「姫様。こやつはやはり抹殺すべきです。本来であれば街の者が姫様に感謝すべき事案が、空気の読めない姫様と認識されていることでしょう」
「妾、毎回殺されかけてないかのぅ?」
「大丈夫よ。リィナ。私、気にしてないから」
私は笑顔をリィナに見せる。
「さすが古の悪魔姫よ。懐が広いのう」
「リィナにしかできないお願いがあるの」
「ついに妾を頼りにする時がきたか。何でも申すが良いぞ」
「アクア。火の四天王がいそうな場所まで水流を作れるのよね?」
「正確に言うと、そこまで飛べるジャンプ台を作るって感じですね」
「じゃあリィナ。そのゴムボートに乗って火の四天王をスカウトして来てね。無理なら連れてくるだけでもいいから」
「ん? 妾一人で行くのか?」
「だってそのボート、どう見ても一人乗りじゃない。ま、帰り道の資金が必要だからその金のインゴットを使えばいいわ」
「妾の自腹で、会ったこともない敵対勢力である四天王も食べさせながら戻れと?」
「そうなるわね」
「嫌じゃ」
「なら、着服した分の資金を清算してもらうけど。もちろんその金のインゴットは没収した上でね」
「喜んでスカウトに行ってくるのじゃ!」
「だいたい、この辺りがいいな」
急勾配の坂道に来た私たちに、アクアは、
「だいたいこの角度だな。よし、ジャンプ台を作る」
「待て。さっきから『だいたい』と言っておるが、正確に居場所まで着地してはくれんのか?」
「俺、火の四天王フレアの詳しい場所知らんし、どうしようもない。ま、『だいたい』合ってるから安心しろ」
「ちなみにどれくらいの誤差じゃ?」
「歩いて一ヶ月くらいかな」
「お主、『だいたい』の定義わかって言っておるのか? ミナエからもらった地図を見る限り、ここからその危険にしか見えないジャンプ台を使わなくても徒歩一ヶ月くらいじゃぞ?」
「ま。細かいことは気にするな」
「一番気にするとこじゃ!」
「女神よ。あきらめろ。貴様のことは明日まで忘れんぞ」
「明後日には忘れ去られる女神、悲しみ」
オカリナに浮き輪をつけられ、頂上に連れて行かれ、ゴムボートに乗せられる。
「よし。この角度ならジャンプ台に乗るな」
「せめてジャンプ台までコースアウトしないように壁作ってほしかったのじゃが」
「女神よ。旅先では資金がかかる。これは選別だ」
「七色に光るキノコをよこすな。死ねと言ってるようなもんじゃ!」
恐怖心で泣き出してるリィナにアクアが、
「別れの挨拶は済んだか?」
「死ぬ前提!?」
「多分、大丈夫だ!」
「多分って今一番言ってほしくない言葉じゃ!」
そう叫びながらも、ボートは離され勢いよく滑り出し、ジャンプし、空の彼方に飛んで行った。
スキージャンプ実際に見たらこんな感じなんだろうなぁ。と、私は感動すらしながら見守っていたのであった。




