第一話 開戦の狼煙
閲覧してくださってありがとうございます。
ハルシャの叙事詩、記念すべき第一話目です。
「なんだと!! ほぼ壊滅?!」
怒鳴りつけるように声を上げて、手のひらで勢いよく机を叩きつけると大臣は席を立ち上がった。
信じ難いという心情を抑えられずわなわなと机の上に置いた手を震わせて、目の前で萎縮する政務官の姿を睨みつけるように見つめる。
今し方知らされたその報告にまだ信じられない気持ちが抑えられないでいると、一拍おいて息を呑み、大臣はゆっくりと席に腰を戻しながら政務官に向き直る。
「……生存者は何名だ。町の被害は?」
大臣のそんな激昂した姿を見て気圧されていた政務官もその言葉にはっと我に変えり、恐る恐る報告の続きを口にする。
「……現在、確認されている生存者は町の外で待機していた別働隊だけになります。町の内部にいた警官隊及び、任務に従事していた部隊の兵士の消息は未だ掴めておりません。今回、襲撃の遭った町、リリーベル、ウィスペンブルック、クラグフット、そして……ノールトン。その全てにおいて同様の事例が発生。町民の生存者もまだ確認出来ずにおります……」
「……」
最後の報告を聞いて、大臣は目を瞑って数分の間を沈黙する。
眉間を指でつまんでぐっと堪えると、ようやくしてその内容を受け止めることができたようで、静かに言葉を発した。
「では、やはり壊滅なのだな……」
「……っ」
大臣に返す言葉が思いつかず、政務官も思い詰めるように眉をゆがめて沈黙する。
この部屋に控える他の補佐官たちも皆同じくして、大臣の言葉に息を飲んでこの状況を静かに見つめていた。
「……わかった。報告ご苦労。下がれ」
「はっ、失礼します……」
大臣に向かって一礼をすると、政務官は速やかに部屋から退室する。
後に残された大臣と数人の補佐官はその後も誰一人と口を開かず、しばらくの間を時間だけが過ぎた。
部屋に備え付けられた振り子時計のちっ、ちっ、という音だけが部屋の中を鳴り続ける。
刻、一刻と時間が過ぎる中、ようやくして大臣が最初に口を開いた。
「連日の町への奇襲と被害状況から察して、恐らく"魔女"は我々に本格的な侵攻を開始している。今日もまた魔女たちがいつ他の町に襲い来るやも気が知れん。早急に対処しなければ……」
大臣が口を開くと同時、それまで静かだった補佐官たちも詮がはずれたように皆が口々に言葉を述べ立てる。
「魔女の奇襲はいずれも大森林方位より北西部近辺の町から夜間に襲撃されております。順当に行くなら次は国の北西部方向からの侵攻になるはずですが……」
「なる訳が無い。奴らは空を飛ぶことが出来るのだぞ。その気になればどこへでも攻撃を仕掛けられる連中がわざわざ北西部を選んでこのまま侵攻を進める理由が無いではないか」
「だが、ならばなぜ……奴らはわざわざ北西部から奇襲をしかけてきたのか。飛行手段を持っているのなら、首都を直接叩くことも出来たはず……」
「ましてや、話に聞く限り"魔女の王"は単騎で町にいる全ての人間を蹂躙できるほどの力を持っているのだろう? そんな存在がなぜ首都を攻撃しないのか……」
補佐官たちのそんな会話を耳にしながら、大臣もまた思考に集中する。
北西部方向からの連日の夜間襲撃に、"魔女の王"の出現ーー。
恐らく魔女たちが夜に襲撃を行う理由は、銃撃を免れるための対策なのだろう。
夜間であれば人の目が効かない。狙撃をされる心配もなく襲撃がしやすい。
加えて、就寝の時間は人間が最も安心し休まる時間帯だ。襲撃もしやすく、心身ともに油断しきっている怨敵のそんな隙を奴らが見逃す筈がない。
ーーだが、夜間による襲撃の意図はそうであったとして。自分たちの住処より一番近い北西部をわざわざ最初に選んだ理由はなんだ?
北西部に意識を集中させる為?
そちらに人員を割く事を意図的に促して国の外周に兵を設置させるのが狙いか?
ならば、その隙を突いて防備の薄くなった首都を叩く。という戦略ならば、話が分かる。
つまり、敵の戦力を外に分散させ、注意を引いた上で首都を攻略する陽動という事だ。
顎に手をかけ、眉をひそめる。
見逃していることはないかと考えを巡らせ、大臣は思案に耽る。
何より、奴らには"魔女の王"という最大の戦力がある。
報告を聞く限り、今まで記録されてきたどの魔女よりもその力は間違いなく強大で凶悪だ。
現時点で、私たちには奴に対し有効な対抗手段をまだ確保できていない。
魔女の王と接触した場合、恐らく今回の襲撃のように一瞬で壊滅させられるのが関の山。
だがもしも、敵の狙いが戦力の分散による本拠地への打撃なら、魔女の王も相当数の戦力には対応しきれないという事だろうか。
ならば、やはり戦力を固め防衛に徹するべきか。
ーーどのみち、奴らの狙いがそうでなかったとしても今取るべき最善の策はそれしかない。
「至急、各町の警官隊、及び軍の全部隊に通達」
以前議論を交わす補佐官たちの会話を割って、大臣は徐に言い放つ。
「"魔女"は宣戦を表明した。いつ何時魔女たちの襲撃が起きてもおかしくない状況だ。我々は奴らを迎え撃たなくてはならない。よって、今日より国は防衛作戦を開始する」
目先を見据え、真っ直ぐと宣言するその大臣の姿に、先ほどまで口々にしていた会話を瞬時にやめて補佐官たちも背筋を正す。
「奴らは昼間は人目を気にして活動できない筈だ。恐らくまた夜間を狙う。昼間のうちに首都ルイデンブルンクトを主体に各地域にて防衛戦を張り、魔女たちの襲撃に備えよ」
「首都より離れた地域や町はどうされますか?」
「やむを得ない……奴らは戦力を分散させる意図があるやもしれん。どのみち、そこでは防衛戦を張れない。町民には申し訳ないが、ルイデンブルンクトに一時的に避難させる。……だが万が一、国が陥落した際に備えて南東方面への避難経路も確保しておけ」
「はっ!」
「直ちに各方面へと通達しろ。我々は生き抜かなくてはならない。あの恐ろしく悍ましい魔女たちから。何人たりとも気を抜くな。以上」
「「「はい閣下!」」」
そして、最後の号令と共に威勢よく返事をすると補佐官たちは各々の役目を果たす為、踵を返すようにして部屋から即座に退室した。
一人、また一人と順に補佐官たちが部屋の外へと抜けていく中、別の政務官が入れ替わりに部屋の中へと入ってくる。
「レンデリック閣下」
部屋に入るや、政務官は大臣に呼びかけた。
「どうした? 何かあったか?」
大臣は立ち上がり自身の背広を正して身を整えていると、入ってきた政務官に気づいて声をかけた。だが、政務官は何か遠慮をするように顔をしかめて大臣の問いかけに渋々と答える。
「それが……ご子息様より先ほどから頻繁に連絡が入っております。"本日はいつ帰宅するのか"と」
「アーサーか……」
内容を聞いてすぐに誰のことかを理解した大臣は、視線を逸らして息を吐く。
「"今日も遅くなるから相手はできない。すまない"。そう伝えてくれ」
「はっ……かしこまりました」
短く返事をして、政務官は一礼を返すと丁寧に大臣の元から去っていく。
ーー自分もすぐに取り掛からなければならない責務がある。
国の防衛作戦を首相と各省庁へと報告して、すぐに会議を開かなくては。
そう思い、大臣もまた部屋の中を後にしようとした。
だが、一歩を踏み出そうとした足がすぐに止まる。
「……すまない、アーサー」
執務室にただ一人残った大臣は、どこかを見つめてその一言を呟いた。
ーー自宅で今も自分の帰りを待つであろう幼い息子に対して、また同じ言葉を掛けることしか出来なかったことに胸の内を痛めて。
こういう場面を書き上げた自分を心の底から褒め称えたい。
一話目からこれだから。本当に大変でした。
プロローグはまぁまだ良かったけど、こういう政府の中のお偉いさんの会話って再現するの大変よね疲れたっっっ((
お読みいただきありがとうございました。
よければ気軽に評価をください!
評価たくさんいただけたら頑張って続き書きます((




