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ハルシャの叙事詩 ー The 747th Epic ー  作者: 夜雨やおか
第一章 戦禍の幕開け
1/5

プロローグ

どうも、作者の夜雨やおかです。

こちらの作品は他の小説投稿サイトでも掲載している作品になります。

なろうさんではどれくらいの評価を貰えるのか推し量りたかったので掲載させて頂きました。


今後も気になるという方は評価して貰えるとありがたいです。

その都度、随時更新していきますのでよろしくお願いします。



それは、ずっと昔から続いてきた。



古きに曰くーー"魔女"の口を信じるな。


彼らの言葉を聞き入れば、心は一度(ひとたび)失われ、己も次第に忘れゆく。

耳を塞いで、口を縫え。魔女に操られるその前に。



古きに曰くーー"魔女"の(まなこ)を見据えるな。


見たらば最後、己の咎と死を見られる。

お前の死にゆく行末を、魔女に気取られ知らせるな。

(おもて)を下げて、眼を潰せ。

魔女に見られるその前に。



そして、古きに曰くーー。



"魔女"は我らに仇なす(かたき)なり。我らを憎む敵なり。

足を穿ち、首を断て。

魔女を許すな、その心に。

許さば我らに栄光(ひかり)無し。


用心せよ、先の子らよ。

我らが潰えたその(のち)も。


我らを憎む悪しき"魔女"たちをーー。




そう、古くより。

人々は魔女と呼ばれる種族と争っていた。



ーー"魔女"



それは人の女と同じ容姿を持ちながら、人よりもずっと長い寿命(いのち)を持っており、その相貌は一目見た男が(みな)心酔するほど若く美しい姿をしている。だが、そのうちに秘められている性分はおぞましい悪そのものであり、心は常に人間への憎悪で満ちていると言う。


そうして、人智を超えた力を振るって魔女は人を取り殺してきたーー。


人の歴史が刻まれるようになる前から魔女たちは幾度となく、止むことも無く、人の町に現れては恐ろしい災いを(もたら)してきた。

それが女であれ男であれ、老いも若くもなく、時には魔女と同じく幼い姿の子供でさえ無慈悲に、非情に、魔女たちは手をかけてきた。



魔女を許すなーー。



代々より祖先から受け継がれてきた言葉のその通り、そんな遠い過去からずっと、人々もまた魔女たちを恐れ、憎み、心している。



そして、今日のこの時も人間と魔女の戦争(たたかい)は絶えず止んでいないーー。







夜の闇に覆われた空が、真っ赤に染まり上がっている。



たくさんと伸びる煙突と煉瓦(れんが)造りの街の中、至る所からは空高くに煙が立ち上り、その上空は炎を上げて倒壊する建物によって赤々と夜の闇を染められていた。

火事を告げる警鐘は未だ鳴り止まず、とっくの前に夜が更けたこの時間を人々は悲鳴と共に通りを駆け巡っている。


小さな子供を何人と連れた母親、火を消そうと水バケツを手に持ち走る男たち。足が悪いのに、杖を付いて急いで避難しようとしている老いた夫婦。通りの陰では、親とはぐれたらしい子どもが一人泣いている。



そして、この事態の発端となった"魔女"を探して、町の警官たちは絶えず駆け足を鳴らす。



人の町が、また一つ。

魔女の災禍に見舞われていたーー。





「いたぞ! こっちだ!!」


「魔女を逃がすな! 裏に回れ!!」




 警官たちは街の路地裏につながる通りの道を駆け抜けた。外気を吸わないようにその口元を頑丈なマスクで覆って、背中には小銃を携えて。

標的を見つけた警官の一人が声を上げると、隊は二手に分かれて一方は右手に、一方はまっすぐとその道を駆けていく。



「はっ……! はっ……! はあっ……!!」



道に沿って建てられた街灯の光が小さな人影の姿を捉える。

背は小さく、体の至る所は煤けたように汚れ、か細い足で必死に道を走るそれはとても幼い少女の姿をしていた。



「回り込めっ!!」


「はあっ……!! はあっ……!!」



少女は角を超えると、建物と建物の間にある路地裏の道の一つに入る。その後を追って、警官たちもぞくぞくと路地裏の道へと入っていく。

たっ、たっ、たっと走り続ける少女の足音に、ずらずらずらと続いていく大勢の足音。



(捕まる訳にはいかない……!! こんなところで処刑されてなるものかっ……!!)



自分を追ってくる人間たちの音を耳にしながら、擦り傷の入った華奢な足に力を込めて、少女は一層にひた走った。右へ、左へ。次から次へと、迷路のように現れる道をでたらめに選んで突き進みながら。できるだけ後ろの追っ手を撒けるように。


だが、次の角を曲がって通りに出た時だ。



「っ……!?」



少女の躍り出た通りの道の行く末に、後ろを追っていた警官たちとは別の警官隊が小銃を構えて待ち伏せていた。



「しまったっ……!」


「撃て!!」



 少女が思うよりも早く、隊長らしき男の声が一喝するとすぐにたくさんの発砲音がその場に鳴り響くーー。



「っぁああああああああああ!!!!!」



途端に、幼い子供の金切り声が通りの中に響き渡る。


小銃の煙と火薬の臭いが辺りに立ち込め、気が付くと、通りの真ん中で全身から血を流して少女は倒れていた。

衣服は赤黒く血に染まり、血溜まりが少女の体の周りに広がる。少女も苦痛に身を悶えさせ、苦しそうに呻いている。


だが、息はまだ絶えていない。



「やはりしぶといな」



先ほど、一喝していた隊長らしき警官がその光景を見て吐き捨てるように呟いた。



「とどめを刺しますか?」



 そのすぐ傍にいた警官の一人も隊長に向かって投げかける。警官たちは依然、小銃を少女に向けたまま顔色一つ変えることなく身構え続けている。



「いや、確保しろ。拘束した(のち)尋問にかけ、その後処刑せよ」


「「「「はっ!!」」」」



 隊長の指示に警官たちは一斉に声を上げると迅速に少女に駆け寄った。

先ほどまで少女を追いかけていたであろう他の警官たちも、路地裏から姿を出して次第に集まってくる。

そんな中、先ほど隊長に向かって投げかけていた警官が、他の隊には混じらず一人だけその場に立ち尽くす隊長に向かって静かに歩み寄った。



「いいですか」


「任務中だぞ。後にしろ」



隊長は警官に取り囲まれる少女を見つめながら冷徹に彼に言い放った。だが、そんな隊長の言葉に歩み寄った警官も怖気る事なくその後を続ける。



「いえ、早急にお伝えしたいことが。”魔女の王”についてです」



すると、それまで一貫して現場を見つめていた隊長も、その言葉を聞いて初めて隣に来た彼に対して目を向けた。



「手短に話せ」


「はっ。各小隊より別行動を行っている魔女の集団の報告を先ほど受けました。集団の数は何組かに分かれており、それぞれが町に襲撃を行っているようです。同時に各所で”黄金(こがね)の髪をした魔女”の姿が上がっております」


「……現れたか」



 眉間に(しわ)を寄せて、隊長は唸るように呟く。そんな隊長の姿を見つめて警官も言葉を続ける。



「報告の各所、全てに”黄金(こがね)の魔女”の姿が上がっております。まさかとは思いますが、やはりこちらにも居合わせる可能性が高いかと」


「そうだろうな。噂に聞いていた通り、あちらも本格的に私たちを潰しに来たのだろう。王様の準備が整った、といった所か」


「殲滅を、ですか」



短く唱えられた警官のその言葉に、隊長の視線が向けられる。だが程なくして、彼からすっと目を離すと隊長は皺の入った頬をしかめてため息を吐いた。



「それが本格化したと思うと肝が冷える。こっちは連日の襲撃で疲弊しているのにな。……いや、それも奴らの策か。全く、面倒だ。苛々する」


「防衛省にはすでに報告に上がりました。恐らくすぐにまた通達が来るかと」


「はぁ……まぁいい。他の隊にも連絡しろ。”黄金の魔女”に遭遇した場合、直ちに撤退し接敵を避けよ、と。市民の救助、及び町の防衛を優先し魔女への追撃はするな」


「は……」


「隊長!!!!」



そう隣の彼が返事をしようとしたその時、別の警官の大声が二人の会話を別つ。



「なんだいった……っ」



 間が悪く声を掛けてきた警官に、苛立ちを覚えて隊長は叱責しようとした。だが顔を向けた時、この状況に"異変"が起きていることにすぐに気がつき口を止める。


さっきまで身柄を確保する為に少女の周りを集まっていた警官たちも、皆口々に声を荒げて現場は騒然としていた。

そして、警官たちの視線は倒れている少女ではなく、その上空へと向けられている。



「あれは……っ!!」



隊長の隣の警官も同じくして、上空に浮かんでいる"それ"を視認すると声を漏らして身をたじろがせた。

隊長もまた”その存在”の姿を凝視すると、強く握りしめた拳を震わせる。



「まさか、こんな都合よく現れるなぞ……っ」



皆が身を強張らせて空を見る。


町の火事に赤く染め上げられ、火の粉を散らす漆黒の空。その上空に、不自然にはっきりとした人の姿が浮かんでいた。

遠くからでも伺い知れるその姿は、先ほどの少女よりも成熟していて恐らく成人になる手前の少女だった。

手足は細く、肌は白い。顔だちはやはり整っており、息を飲むほど美しい。


だが、何よりもその少女の印象を決定的に表していたのは、彼女の持つその美しい”黄金(こがね)色の髪”だった。


その場に居合わせたならば間違いなく誰もが瞬時に目を奪われる。

艶を帯びた長髪は風に揺られてその輝きを一層に増し、火事の光に照って黄昏のように輝いていたーー。



そして、黄金の少女はじっとその光景を見つめる。

自分の足元のずっと下でこちらを見上げて慌てふためく警官たちと、その中心で血の海の中倒れる同胞の姿を。



「全隊員聞けえええええっっっ!!」



刹那、隊長の轟音のような声が鳴り響くーー。



「隊員は直ちにこの場から撤退せよ!! 上空の目標は”魔女の王”だ!! 奴には銃が通用しない!! 直ちにこの場より撤退し、生還しろ!! 己の身を守れ!!」



その一声に、状況を理解した警官たちは一斉にその場から駆け出した。


無我夢中に、一心に。目の前の敵が自分たちには敵わない存在であると肌身に直感しながら。


その場に、血溜まりの中倒れる小さな体を一人置いて。



(けだもの)め……こうも一族の子を手にかけられるか」



 その光景を見て黄金の少女は冷ややかに、だけど重たく、静かに言葉を吐きだす。彼女の髪が一陣の風に舞って、また大きく美しく乱れる。



「退避、退避ーーーっ!!!!」



隊長の声の後を追うように、警官たちは退去を促す声を上げて必死に向こうへと駆けていった。


ーーさっきまで、悠々とこの場に居座っていたくせに。


少女は言葉を続ける。



「昔、お前たちのように我らに相対(あいたい)する人間がいた」



警官たちの駆け足は次第に遠のき、火の粉が舞って辺りに風が吹き荒む。



「自らを心を持った賢い存在であると称し、我らを蔑み愚弄した」



少女は片腕を持ち上げると目の前に向かってすっと添える。



「ならば今、私も返そう。お前たちに」



力強く目の先を見つめ、添えた手をぱっと開くと、少女は敵対する人間たちに向かって言い放つ。



「ーーお前たちこそ、愚かで弱く、醜い存在であると」



瞬間、少女の開けた手の中から黒く(おぞ)ましいドロドロとしたモノが湧きあがり勢いよく噴き出した。

噴き出たそれは異様な速さで量を増し、まるで鉄砲水の如く大きな濁流となる。

黒い濁流はその一瞬の間に通りの向こうへと流れ込み、最後に見えていた警官たちの後ろ姿をあっという間に飲み込んでいく。

通りの中を一瞬で埋め尽くした黒いそれは、まるでこの町を寸断する大河のように隅々までを流れゆくと町に居座る全ての人間を蹂躙した。


後に残された黄金の少女は上空でただ一人その光景を眺めていると、しばらくして、浮いた体をゆっくりと下降させて黒い泥が満たされた通りにそっと足を下す。


すると、その足に呼応するように黒い泥が波紋を描いて引いた。


少女が降り立った場所を中心に徐々に泥が円状になって引いていくと、泥の中から血に濡れた少女の姿が現れる。体は小さく震えていて、腹部がゆっくりと上下している。

先程よりも息は小さいが、まだ事切れてはいないようだった。



「……よくやった。お前のおかげで、人間たちをたくさん倒せたよ。我らの無念も、いよいよこれで果たせるだろう」



黄金の少女はそう言うと少女の傍に歩み寄り、その体を丁寧に優しく持ち上げる。



「だから、後はゆっくりおやすみ。ーー私の中で」



そして、”魔女の王”は同胞である彼女の首筋に鋭く食らいついたーー。



「はっ、あっっっ……!!!!」



小さな少女の体はその反動でびくんと一度脈打って、小刻みに震えながら硬直する。すると次第に、黄金の少女が噛みついた首筋から全身に向かって、少女の体が真っ黒に染まりあがった。それはまるで、この町を飲み込んだ悍ましい黒い泥のように。


最後に、彼女の黒く覆われた体は勢いよく流動して、黄金の少女の口元へと瞬く間に吸い込まれる。



「あとは任せろ……人間たちは必ず根絶やしにしてやる。我らを愚弄し続けてきた報いを、必ず受けさせてやる」



口元を拭って立ち上がると、また一つ人間たちを抹殺できた悦に薄く笑みを浮かべて、黄金の少女は天を仰ぎ見る。




ーー思い知れ、人間よ。我らが屈辱を、無念を。



我らの味わった全ての凌辱を、お前たちの全てに味わわせてやる。

お前たちがどれほど命を乞おうと、我らに(かしず)こうと、我らはお前たちを許さない。


惨たらしく喚いて、無様に野垂れて死んでゆけ。


滅びの時だ。人間よ。

今こそ我らの、復讐を果たす時だ。



高らかに、天の頂きに届くまで、黄金の少女の笑い声が大きく不気味に町の中を木霊したーー。

お読み頂きありがとうございました!


よければ気軽にコメントや感想、評価をお願いします(*・ω・)*_ _))ペコリン

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