前世で選べなかった二人の幼馴染への後悔が残る俺が異世界転生したら、幼馴染も転生していた件
前世で選べなかった二人の幼馴染への後悔が残る俺が異世界転生したら、幼馴染も転生していた件
「アレン、また寝ぼけているのか?」
クラスメイトのマルクスの声で、俺は現実に引き戻された。
グランディア魔法学園の3年C組、いつもの教室だった。
俺の名前はアレン・フォレスト。
17歳の魔法剣士で、この学園の3年生だ。
でも、それは表向きの話。
本当の俺は、前世で28歳まで生きた森田翼という名の平凡なサラリーマンだった。
交通事故で命を落とし、この異世界に転生して早3年が経つ。
前世で最も後悔していることがある。
それは二人の幼馴染、白石奈々と緑川花音のどちらかを選べなかったことだ。
奈々は静かで上品な文学少女。
いつも図書館で本を読んでいて、俺が悩んでいる時はそっと寄り添ってくれる優しい子だった。
花音は明るく活発なスポーツ少女。
いつも俺を励ましてくれて、一緒にいると元気になれる子だった。
二人とも俺のことを想ってくれているのはずっと分かっていた。
でも、俺はどちらかを選ぶことができず、結果的に大学進学と共に3人はバラバラになってしまった。
そのことを死ぬまで後悔していた。
「今度こそ...」
俺は小声でつぶやいた。
転生したからには、今度こそちゃんと答えを出したい。
でも、まさか二人がこの世界に転生してくるなんて思ってもいなかった。
昼休み、担任のグレイ先生が教室に入ってきた。
「皆、席に着け。今日は転校生を紹介する」
俺は何気なく顔を上げた。
そして、教室の扉から入ってきた二人の少女を見て、心臓が止まりそうになった。
一人目は長い黒髪を持つ清楚な美少女。
知的な雰囲気と上品な物腰は、間違いなく...
「エリス・ホワイトです。よろしくお願いします」
その声、その表情、すべてが前世の白石奈々そのものだった。
二人目はショートカットの活発そうな美少女。
明るい笑顔で手を振っている姿は...
「カノン・グリーンです!みんな、よろしく!」
緑川花音だった。間違いない。
俺は混乱した。
まさか、本当に二人が転生してくるなんて。しかも、同じ時期に、同じ学園に。
エリスが教室を見回した時、俺と目が合った。
その瞬間、彼女の表情が驚きに変わった。
まるで俺のことを知っているような...
カノンも俺を見つけて、明らかに驚いている。
三人の視線が交錯した瞬間、俺は確信した。
きっと彼女たちも前世の記憶を持っている。
先生に案内されて、エリスは俺の右隣に、カノンは俺の左隣に座った。
「よろしく、アレン君」
エリスが小さな声で話しかけてくれる。
「よろしく、アレン!」
カノンも元気よく挨拶してくれる。
放課後、俺は二人に声をかけた。
「少し、話さないか?」
「はい」エリスが頷く。
「うん、私もお話ししたい」カノンも同意してくれた。
三人で学園の屋上に向かった。
夕日が魔法都市の街並みを赤く染めている。
「まず確認したいんだけど」俺が口を開く。
「君たち、前世の記憶があるよね?」
エリスとカノンが顔を見合わせた。
「...はい」エリスが小さく頷く。
「私も」カノンも認めた。
「やっぱり」
俺は安堵と困惑を同時に感じた。
「それじゃあ、前世の名前も...」
「白石奈々」エリスが答える。
「緑川花音」カノンも続けた。
「そして、あなたは森田翼君ですね」
「翼!」
二人の声が重なった。
重い沈黙が流れた。
夕風が頬を撫けていく。
「俺は3年前にこの世界に来たんだ」
「私は2週間前に転生したの」
カノンが続ける。
「私も最近です」
エリスも説明する。
「でも、どうして同じ学園に?」
「転生した時に、なぜかこの世界の神様から聞いたの」カノンが説明する。
「『森田翼がグランディア魔法学園にいる』って」
俺は驚いた。
まさか、意図的にこの学園に導かれたということなのか?
「それで、前世の最後のことも...」
「覚えてる」
エリスが悲しそうに言う。
「翼君が、私たちのどちらも選べなかったこと」
「結局、3人とも一人ぼっちになっちゃったこと」
カノンも続けた。
「ごめん…」
俺は頭を下げた。
「俺が優柔不断だったせいで、君たちを傷つけた」
「でも、今度は違う」
俺は決意を込めて二人を見つめた。
「今度こそ、ちゃんと答えを出す」
でも、二人の反応は予想と違った。
「ちょっと待って」
カノンが手を上げる。
「それって、前世と同じ考え方じゃない?」
「一人を選んで、一人を諦めさせるっていうのは」
エリスも続ける。
「前世と何も変わらないと思うの」
「でも、曖昧にしていたから失敗したんじゃ...」
「そうじゃないと思う」
カノンが俺の手を握った。
「翼が選べなかったのは、私たち二人とも大切だったからでしょ?」
「だったら」
エリスも俺の手を握る。
「無理に一人を選ぶ必要なんてないんじゃないかな」
「前世とは違うよ」
カノンが微笑む。
「だって、今度は3人とも前世のことを覚えてる」
「お互いの気持ちも分かってる」
エリスも微笑んだ。
「だったら、3人で新しい関係を築けばいいじゃない」
その時、俺は気づいた。
確かに前世では、お互いの本当の気持ちを知らないまま、勘違いや遠慮で関係がこじれていった。
でも今は違う。
「分かった」
俺は二人と見つめあった。
「今度は、3人でしっかり向き合おう」
「はい」
「そうしましょう」
夜風が頬を撫けていく。
魔法の街の明かりが瞬いている。
こうして、俺たちの新しい関係が始まった。
屋上での話し合いから数週間が経った。
エリスとカノンは、すぐに学園生活に馴染んでいった。
二人とも前世の記憶があるだけあって、勉強や魔法の習得も驚くほど早い。
「アレン君、これ見てください」
昼休み、エリスが魔法学の教科書を見せてくれた。
「氷魔法の応用なんですが、すごく興味深いんです」
エリスが手のひらに小さな氷の花を作って見せてくれる。
その美しさに、周りの生徒たちからも感嘆の声が上がった。
「アレン!見て見て!」
今度はカノンがやってきて、俺たちの間に割り込んだ。彼女の手には炎が踊っている。
「炎魔法覚えたの!綺麗でしょ!」
カノンが炎を剣の形に変化させる。
炎の剣術、この世界では高度な技術の一つだ。
「エリスちゃんは頭脳派だから、私とは正反対ね」
「でも、お互いの得意分野が違うから、良いコンビネーションが取れそうですね」
前世では何となくライバル関係にあった二人が、今は自然に仲良くしている姿を見て、俺は嬉しくなった。
そんな時、俺たちに新しい試練が訪れた。
「年に一度の魔法大会が開催されます」
担任のグレイ先生が教室で発表した。
「3年生は全員参加が義務です。チーム戦で、3人1組で戦います」
授業後、俺たちは自然と集まった。
「3人1組って、私たち完璧じゃない?」
カノンが嬉しそうに言う。
「もちろん私たち3人でチームを組みましょう!」
「はい、ぜひ」
エリスも賛成する。
翌日から、俺たちは魔法大会に向けた特訓を始めた。
エリスの氷魔法、カノンの炎魔法、そして俺の風魔法。
バランスの取れた構成だった。
「氷と炎って、普通は相性が悪いのに」
「でも、風魔法で調整すれば、うまく組み合わせられるね」
「翼君の風魔法が要になってますね」
練習を重ねるうちに、3人の息はどんどん合っていった。
大会当日、学園の大闘技場は観客で埋め尽くされていた。
「第一回戦、アレン・エリス・カノンチーム対ブルーノ・マリア・ケンチーム!」
俺たちの最初の相手は同級生のチームだった。
「作戦通りにいこう」
「はい」
「うん」
戦闘開始の合図と共に、俺たちは練習通りの陣形を取った。
エリスが氷の壁で防御を固め、カノンが炎の攻撃で相手を牽制する。
俺は風魔法で二人をサポートしながら、隙を見て攻撃に転じる。
「氷壁展開!」
「炎弾連射!」
「風刃斬!」
3人の連携がスムーズに決まった。
「今です、アレン君!」
エリスの合図で、俺は風魔法を集中させる。
「疾風剣舞!」
「勝負あり!アレン・エリス・カノンチームの勝利!」
初戦は完勝だった。
二回戦、三回戦と順調に勝ち進んでいく俺たち。
そして迎えた決勝戦。
相手は学園最強と言われるダリウスのチームだった。
「ついに来たね」
「学園最強との戦い...」
「でも、ここまで来たんだから、最後まで諦めない」
決勝戦の会場は異様な熱気に包まれていた。
相手の攻撃は圧倒的だった。
ダリウスの雷魔法は俺たちの防御を易々と突破してくる。
「うわあ!」
カノンが雷撃を受けて吹き飛ばされる。
「カノンちゃん!」
エリスが氷の盾で守ろうとするが、相手の土魔法に阻まれる。
「くそ、このままじゃ...」
俺は考えた。正面から戦っていては勝ち目がない。
その時、俺は前世のことを思い出した。
奈々と花音、二人の想いを受け止められなかった自分。
でも今は違う。今は3人で力を合わせている。
「エリス、カノン」
俺は二人に声をかけた。
「今度は、俺が二人を守る番だ」
「でも、危険です」
「一人じゃ無理よ」
「大丈夫」
俺は微笑んだ。
「俺には、君たち二人がいるから」
その言葉で、エリスとカノンの表情が変わった。
「分かりました」
「翼を信じる」
二人が俺の後ろで詠唱を始める。
俺は相手の攻撃を全て受け止めた。
「氷雪嵐!」
「紅蓮炎舞!」
エリスとカノンの最大魔法が発動した。
氷と炎が渦を巻いて相手チームに襲いかかる。
「これが俺たちの絆だ!」
「三位一体魔法『氷炎風嵐』!」
相手チームは為す術もなく吹き飛ばされた。
「勝負あり!アレン・エリス・カノンチームの勝利!」
会場が大きな拍手に包まれた。
「やった...」
「勝ったのね...」
「俺たち、やったんだ...」
3人で抱き合って喜んだ。
優勝トロフィーを受け取りながら、俺は二人を見つめた。
前世では守れなかった二人を、今度は守り抜くことができた。
そして二人も、俺を支えてくれた。
これが、俺たちの答えなのかもしれない。
魔法大会での優勝から数日が経った。
瞬く間に学園中の話題になっていて、廊下を歩くたびに注目を浴びる。
でも、優勝の興奮が落ち着くと、また前世のことを考えるようになった。
あの決勝戦で感じた絆は確かに本物だった。
でも、それは恋愛感情なのだろうか?
それとも、深い友情なのだろうか?
ある夜、俺は一人で学園の屋上にいた。
星空を見上げながら、前世のことを思い返していた。
「翼君」振り返ると、エリスが立っていた。
「また考え事ですか?」
「ああ」
俺は正直に答えた。
「魔法大会での俺たちの絆について」
「あの時の気持ち、とても素晴らしかったですね」
エリスが星を見上げる。
「3人で一つになったような感覚でした」
「エリスは、あの時どんなことを考えてた?」
「翼君を信じて、自分の全てを託そうと思いました」
エリスが俺を見つめる。
「それは、前世では感じたことのない気持ちでした」
「私、気づいたんです」
エリスが俺の手を握る。
「前世で翼君を想っていた気持ちと、今の気持ちは違うということに」
「違うって?」
「前世は、翼君に選ばれたくて、認められたくて、そんな気持ちが強かった」
「でも今は、翼君とカノンちゃんと、この3人で一緒にいられることが幸せなんです」
その時、屋上の扉が開いた。
「あ、やっぱりここにいた」
カノンが現れた。
「何の話してたの?」
「前世と今の気持ちの違いについて」
「あー、私もそれ考えてた」
カノンが俺たちの間に座る。
「前世の私は、翼のことが好きで、奈々ちゃんに負けたくなくて、必死だった」
「でも今は違う」
カノンが俺とエリスを見回す。
「翼も奈々ちゃんも、大切な家族みたいな感じ」
「家族...」
「うん。恋人とか夫婦とかじゃなくて、もっと深い絆」
カノンの言葉に、俺ははっとした。
確かに、今の3人の関係は恋愛の枠を超えているのかもしれない。
「でも、それって...俺たちは結局、前世と同じように答えを出せずにいるんじゃないか?」
「そんなことないよ」
カノンが首を振る。
「答えは出てるじゃない」
「この私たち3人の絆が答えなのよ」
「カノンちゃんの言う通りです」
エリスも頷く。
「無理に恋愛の形に当てはめる必要はないと思います」
俺は二人の言葉を噛み締めた。
確かに、3人でいることが自然で、それ以上のことを求めていない自分がいる。
「分かった」
俺は決心した。
「俺も、今の関係を大切にしたい」
「良かった」
「はい」
3人で手を繋いで、星空を見上げた。
前世では味わえなかった、深い絆。
恋愛とも友情とも違う、特別な関係。
これが俺たちなりの答えなのかもしれない。
それから2年の月日が流れた。
俺たちは無事にグランディア魔法学園を卒業し、それぞれの道を歩み始めていた。
エリスは魔法研究者の道を選んだ。
彼女の氷魔法と知識への探求心は、学術界でも高く評価されている。
カノンは魔法騎士団に入団した。
彼女の炎魔法と剣術の腕前は、騎士団でも一目置かれる存在となっている。
そして俺は、魔法学園の教師になった。
後輩たちに魔法剣術を教えながら、仲間との絆がどれほど大切かを伝えている。
物理的には離れて暮らしているが、俺たちの絆は変わらない。
毎週末には必ず3人で集まり、近況を報告し合っている。
「研究の方はどう?」
俺がエリスに聞く。
「とても充実しています」
エリスが嬉しそうに答える。
「新しい発見がたくさんあります」
「カノンの方はどう?」
「最高よ」
カノンが拳を握る。
「毎日魔物と戦って、すごく鍛えられてる」
俺も自分の近況を話す。
「教師の仕事も面白いよ。生徒たちに協調魔法を教える時、君たちとの経験が役に立ってる」
「私たちの話もしてるの?」
「もちろん。『真の絆とは何か』っていう授業で」
こうして、3人は離れていても心は繋がっていた。
ある日、思わぬ知らせが届いた。
「第2回異世界交流大会が開催されます」
学園から連絡が来た。
「各世界から代表チームを選出し、技術と絆を競い合います」
「面白そうじゃない」
カノンが目を輝かせる。
「私たちも参加しない?」
「卒業生チームも参加可能って書いてあります」
エリスが資料を読み上げる。
「それなら...久しぶりに3人で戦ってみるか」
申し込みから数ヶ月後、俺たちは大会会場にいた。
参加チームは各世界から選抜された精鋭揃い。
予選から始まって、俺たちは順調に勝ち進んでいく。
学生時代よりもさらに成長した3人の連携は、他のチームを圧倒していた。
「氷雪の庭園!」
「紅蓮剣舞!」
「疾風の護り!」
それぞれが独自に磨いた技術を組み合わせて、より美しく、より強力な協調魔法を創り出していく。
決勝戦では、俺たちは最大の合体魔法を発動した。
「合体魔法『絆の世界』!」
俺たちの魔法が会場全体を包み込んだ。
それは攻撃魔法ではなく、その場にいる全員を幸せな気持ちにする、愛の魔法だった。
会場中が温かい光に包まれる。
審査員たちも、観客たちも、みんなが優しい気持ちになっていた。
「結果発表を行います」
大会委員長が立ち上がる。
「今回の優勝は... 全チーム同点優勝とします」
会場中が拍手に包まれた。
「最後の魔法を見て、私たちは気づきました」
委員長が続ける。
「真の絆とは、競争することではなく、お互いを高め合うことなのだと」
大会が終わって、3人で会場を後にした。
「良い大会だったね」
「はい。また新しい経験ができました」
「私たちって、なんかやっぱり特別よね」
カノンが嬉しそうに言う。
「前世から続く絆があるから」
「そうだね」
俺は二人を見つめた。
「前世では答えが出せなかったけど、今は分かる」
「何がですか?」
「俺たちにとって最高の答えは、一緒にいることだったんだ」
「そうですね」
「うん」
夕日が空を染める中、3人は手を繋いで歩いた。
前世では選べなかった答え。
でも今は、選ぶ必要がないことが分かった。
俺たちは俺たちらしく、3人で歩んでいく。
それが一番の幸せなのだから。
これからも、俺たちの物語は続いていく。
前世で選べなかった二人の幼馴染への後悔。
でも今は、後悔ではなく感謝の気持ちでいっぱいだ。
二人に出会えて、二人と一緒にいられて、本当に良かった。
そして、この絆は永遠に続いていくのだろう。
たとえどんなことがあっても、俺たちは一緒だ。
前世で果たせなかった約束を、今度こそ叶えながら。
―完―