貴族の陰謀と、黒い聖獣
私とセレスティアの共存を快く思わない保守派貴族が、陰謀を巡らせる。彼らは、禁断の闇の魔術で、聖獣を凶暴な「黒い聖獣」へと変え、私を陥れようと画策。リオが、その罠にかかってしまう!
私とセレスティアが、手を取り合い、新しい国づくりを、始めようとした矢先。それを、快く思わない者たちの、妨害が、始まった。
特に、神殿の権威を、傘に着て、これまで、甘い汁を吸ってきた、保守派の貴族たちにとって、私たちの存在は、目障りで、仕方がなかったようだ。
彼らの筆頭は、古くからの名門、ヴァルモン公爵。神官長の、実の兄でもある、狡猾な、老人だ。
彼は、正面から、私たちに、敵対するのではなく、陰で、じわじわと、私たちの、評判を、貶める、作戦に出た。
「魔の森の聖女は、聖獣という、得体の知れない、化け物を、手懐けている」
「いつ、その牙が、我々に、向けられるか、わかったものではない」
そんな、根も葉もない噂が、王都に、流され始めた。
そして、彼らの陰謀は、さらに、悪質なものへと、エスカレートしていく。
ある日、王都の、郊外の村が、何者かに、襲撃された、という報せが、入った。
現場に、駆けつけた、リオと騎士団が、見たものは、無残に、破壊された家々と、怯える、村人たちの姿だった。
そして、その犯人として、村人たちが、口を揃えて、証言したのは。
「……黒い、ユニコーンでした」
ユニコーン。清浄と、慈愛の象徴であるはずの、聖獣。そのユニコーンが、村を襲ったというのだ。
「馬鹿な! 聖獣が、人を襲うなど、ありえない!」
リオは、信じなかった。しかし、現場には、確かに、ユニコーンのものと、思われる、蹄の跡と、黒く、焼け焦げたような、体毛が、残されていた。
その報せは、すぐに、王宮にも、届いた。
ヴァルモン公爵は、ここぞとばかりに、国王に、詰め寄った。
「陛下! これこそが、我々が、危惧していたことです! エリアーナ様が、連れてきた、あの忌まわしき獣たちが、ついに、本性を、現したのですぞ!」
「……待て、公爵。まだ、そうと、決まったわけでは……」
「いいえ! エリアーナ様を、野放しにしておけば、いずれ、この国は、獣たちに、滅ぼされます! 彼女と、聖獣たちを、森へ、お返しいただくべきです!」
保守派の貴族たちが、一斉に、同調する。会議は、完全に、私への、糾弾の場と、なっていた。
私は、唇を、噛み締めた。ありえない。私の、可愛い、ユニコーンたちが、人を襲うなんて。
「……何か、おかしい」
私の隣で、シルヴァンが、低い声で、唸った。
「ユニコーンの体毛は、純白だ。黒く、焼け焦げるなど、ありえん。……これは、何者かが、仕組んだ、罠だ」
「罠……?」
「おそらくは、闇の魔術の類だろう。聖獣に、呪いをかけ、無理やり、凶暴化させたのだ。我々は、それを、『黒い聖獣』と呼ぶ」
ヴァルモン公爵の、陰謀だ。彼らが、裏で、闇の魔術師を雇い、この事件を、引き起こしたのだ。私を、王宮から、追い出すために。
しかし、証拠がない。
このままでは、私は、全ての、罪を、着せられてしまう。
その時、リオが、進み出た。
「陛下! この件、俺に、調査の許可を、いただきたく存じます!」
「リオ……?」
「俺は、エリアーナ様と、聖獣たちを、信じます。彼らが、無実であること、この俺が、必ずや、証明してみせます!」
彼の、まっすぐな、瞳。国王は、しばらく、考え込んだ後、頷いた。
「……よかろう。リオ、お前に、全権を、委ねる。三日のうちに、真実を、突き止めてまいれ」
リオは、すぐに、騎士団の、精鋭を、率いて、調査を開始した。
そして、二日目の夜。彼は、ついに、犯人の、アジトを、突き止めた。それは、ヴァルモン公爵の、別邸だった。
彼は、応援を待たずに、一人で、その屋敷に、潜入した。そこで、彼が、見たものは。
地下の、秘密の儀式場で、黒いローブの魔術師たちが、捕らえられた、一頭の、グリフォンに、呪いをかけている、光景だった。
「やはり、お前たちの、仕業だったか!」
リオは、剣を抜き、魔術師たちへと、斬りかかった。
しかし、それは、巧妙に、仕組まれた、罠だった。
「――かかったな、小僧!」
地下室の扉が、閉ざされ、リオは、完全に、閉じ込められてしまった。そして、呪いをかけられ、正気を失った、黒いグリフォンが、彼に、襲いかかった。
「くっ……!」
狭い、地下室で、グリフォン相手に、戦うのは、あまりに、分が悪い。リオは、たちまち、追い詰められていく。
そして、ついに、グリフォンの、鋭い爪が、彼の肩を、深く、抉った。
傷口から、闇の呪いが、彼の体の中へと、侵食していく。意識が、遠のいていく。
「……エリアーナ……様……」
彼は、愛する人の名を、呟き、その場に、崩れ落ちた。