第3話 スキルシステム/壊れた勇者の力
世界のことを知った、元勇者の羊飼い。エディデア・ダンデライオンは、いつものように羊たちの世話をしていた。
彼らの世話をする上で、ボクは新しく気づいたことがある。
それは自身のスキル。「女神の眼」でのぞいた結果によると、自分には妙な力があると知った。
「『羊飼いの極意・勇』。これが一体、なんなのか......」
頭の中に浮かぶスキル名。よく分からない能力が、自分には宿っていた。
そしてこのスキルが一体、なんの役に立つのか。まるで分からないのだ。
(三歳で羊飼いの技ができたのが理由? いやでも、父さんの持つスキルは『羊飼いの極意』だけだったし)
こっそり父のことも、「女神の眼」で覗いたのだ。
するとボクと同じく「羊飼いの極意」という名称のスキルは持っていた。しかしそのスキルと自身のモノの違いがまるで分からない。
前世の世界では「スキル」という個人の特徴を振り分けるような仕組みは存在しなかった。生まれ変わって初めて目にした概念だ。
「スキルシステム」......これは一体、どういう仕組みで成り立っているのか......まるで別世界に迷い込んだような感覚で不思議だなぁ。
「『羊飼いの極意・勇』がボクの特殊技能。”あの人”はそう言っていたな」
スキルの存在を知ってすぐ、ある人の所を訪ねて話を聞いた。最初は訳分からん話だったけど。
あの人の説明では、この世界にあるスキルは二種類に分けられる。
一つは普通の技能。これは誰もが得られる物だ。
(母さんのスキルは『剣豪』だった。道理で強いわけだな)
元勇者の目から見ても、母さんの強さは本物だった。彼女のスキルは普遍的な物だが、剣術の道を極めた先にあるスキルであり、実質”特殊技能”のような立ち位置である。
そしてそんな両親から生まれた自分には、謎の特殊技能が宿っていた。特殊技能は生まれながらに持つ力と、成長して化ける二つの可能性があるとか。
そんな特別な力の一つが「羊飼いの極意・勇」だ。これの意味はよく分からない。
そしてもう一つが......「女神の眼」を通しても読むことができない、”文字の羅列が壊れたスキル”だ。
まるで壊れた何かが残り続けているような。目にしたときはそんな印象を感じたが、一文字たりとも読むことができないので、現状は謎のままだ。
小さく肩を落としてため息を吐く。杖を下ろし、少し休む。ちょっとだけボーッと空の様子を眺めて、ふと思いついたのでやってみる。
「......『羊飼いの極意・勇』。発動!」
天に向かってバッと手を伸ばし、自身のスキル名を口にしてみた。
だが、何も起こらない。「やっぱりか、はは」と笑って、冗談も大概にしようかなぁと、陽の光を浴びながらゆったりしていた。少しづつ停滞するような穏やかな日常は、確かにつまらないけど楽しくて......ん?
「ワン!!」
「!! 獣か?」
牧羊犬のビッツがいきなり叫び、羊たちも動揺する様子を見せた。なんだ、どうした!?
慌てて体を起こして杖を構える。そして前を向くと、ビッツが近くの森に向かって「グルルル」と唸り、全身の毛が逆立ち、明らかに警戒していた。
杖を持つ。一瞬、父を呼ぶかどうかと迷い、その思考を振り払う。
(追い払うなら、ボク一人の方がやりやすい)
今までは森から出てきた獣の対処は、母と父が行なっていた。いつもなら両親を呼ぶべき事態だ。
しかしちょうど今は試したいことがある。元勇者の力を引き出すためにも、敵が来たのなら見過ごせない。
そう思い、ボクは草原を駆け出して、牧羊犬が警戒する方向から森の中へと入って行った。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆
昔、幼い頃に父に言われた。
「森は危ない動物がいっぱいだから、入らないこと。何かあったら親に頼るんだよ」と。
(その言いつけを破ります。ごめんなさい!)
ボクは少年の体を、小さな手を精一杯に振って、細く頼りない両足で懸命に地面を蹴って駆け出す。
この体は強いわけじゃない。傷を負えば、勇者の時のようにはいかない。おそらく即死する。でも窮地に陥る時こそ、力は出てくるものだ。ダメもとで試してみよう!
ボクの中に恐れは無い? さあ、どうかな。自分の力に対する好奇心は強いし、簡単に死ぬような自負はない。なんとかなるさと思ってボクは、森の中をぐんぐんと進んでいく。
「木が折れてる?」
走り続けて、やがて周囲の異変に気がついた。少し開けた場所へ通じるのだが、その道中の木々が不自然な折れ方をしている。
まるで雷に打たれたような割れ方だ......。しかし雷の音はおろか、今日は空に雲ひとつ無い晴天のはず。
不審に思って立ち止まる。持ってきた羊飼いの杖を槍のように構え、魔力を流す。これは修行で身につけた......もとい、思い出したと称すべきだな。武器に魔力を流し、強化する戦術だ。
生前の動きには届きえないけど、魔力で無理やり体を動かせば、並大抵のヤツ相手に舞えるはずなんだ。よし、行くぞ!
いまいち心許ないが戦闘態勢を整えた。意を決して、ザッと地面を蹴って駆け出し、森の開けた場所に行き——。
「......」
「......銀狼の、巨大な狼?」
「グゥゥ、ゥゥゥ!」
「まさか、魔族か!?」
銀狼の狼が、森の開けた場所で傷つき、体を丸めるようにその場に座り込んでいたのだった。
「スキルシステム」により振り分けられた結果、エディデア・ダンデライオンには二つの特殊技能こと「ユニークスキル」があります。
一つ目が「羊飼いの極意・勇」
そしてもう一つが「文字が読めない未知のスキル」です。これは本人の目から見て「文字列がバグった」ようにしか見えない状態で、現状は不明の能力です。