表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

6/9

2-2 失って、得た力

 父が羊の世話に行ったので、自室に戻り、従魔のライカと話し合う。


(ご主人様。学舎に行かれると言うのは、本当なのです?)


「ん〜、そうだねぇ。ボクはこのまま、皆と一緒に羊飼いとしても過ごしてもいいとは思うんだ」


「ワン!(ご主人!)」


 嬉しそうに尻尾を振り、飛びかかってくるライカの頭に手を置いて押さえ付ける。代わりにゆっくりと頭を撫でながら、満足そうな彼女の声を聞きつつ、静かに微笑んで考えを巡らせる。


 前世では世界中を渡り歩いた。勇者という責務に縛られていても、僅かな好奇心は旅を豊かにし、仲間とはかけがえのない時間を過ごした。


 その生涯は確かに楽しかった。同じくらい、辛いこともあった。


 もう一度、そんな生き方をするのも良いのかもしれない。少なくとも生まれ変わって一度は、そういった考えも抱いたことがあった。


(でももう、旅をするのはいいかな。前世とは違う生き方も面白そうだ。それに、父との約束もできた)


 悩みはある。消えた神の気配。その理由は知りたい。


 というかここが本当に”未来の世界”なら、知りたいことは山ほどある。


 その迷いは、振り捨てるには大きすぎる。


(”勇者”としての勘が訴えてくる。けど、あえてボクはそれを捨てよう)


 膝の上にライカが乗っかってくる。小さく姿を変化させた従魔の頭を優しく撫でながら「ボクについてきてくれるかい?」と、確かめるように話しかける。


 ライカは念力で会話せず、ただ「ワン」とひと吠えするだけだった。


 決まりだ。勇者はその矜持を忘れ、一人の人間として、当たり前の世界を生きていく。


「ボクは羊飼いのエディデア。行こうじゃないか、”王立学院”に」


 前世のしがらみは無い。ただ一人の少年としての立場を考え、王立学院に進学する道を決めた。


(そのためにはもう少しだけ準備が必要だな)


 ふむと顎に指を当てて考える。


 王立学院に進学するにあたって、ボクは自分の力をもう少し深く学ばないといけない。


(もう少し、羊と”スキル”の研究を進めるとしよう)


 そうして残りわずかな期間。ボクは自らに芽生えた能力と向き合うことになったのだった。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 ——ダンデライオン王国。王立学院。


 その入試は、とても簡単だった。


 プライベートが確立された個室の中で、能力値とスキルの診断をこれから行う。ボクたちは列に並び、手続きを進めていくのみ。


 実質、王国の入試というのは、ただの形骸化された手順に他ならない。まるで「王立学院への入学は当然」と言わんばかりだ。なんせ、書類を出して後の手順を進めれば、誰でも入学できるのだから。


(......凶と出るやら、吉に転じるやら。不安しかない)


 はぁとため息を吐いて、同じ志を持つであろう他者に紛れて、書類の入った封筒を受付に提出する。


 ここでバレることはない。だが他にも懸念すべきことはある。


 父から聞いた話では、”能力測定”があると聞いた。


 そしてそれは、色々な能力を数値化し、個人が持つ適性を「技能(スキル)」という枠組みに当てはめて、隣にある半透明の情報板に映し出す。


 無対策でこれに臨めば、ボクは自らの”秘密”を曝け出してしまうことになっていただろう。


「次! エディデア・ホフマー」


「はい」


 手筈通りに母の旧姓(ホフマー)を名乗り、王立学院に書類を提出した。これでひとまず、第一の難関は突破できた。


 しかし第二の問題がある。口元をキュッと引き締め、一歩、二歩と進んでいく。ボクは手を、蒼い水晶玉の上にゆっくり乗せる。


 ------------------


【名前】エディデア・()()()()

【年齢】十五歳

【性別】男性

【種族】ヒューラン


【能力値】魔力が多い。それ以外、平均以下。魔術の適正あり。


【技能】—— 羊飼いの極意

  —— ○▲......


 ------------------


(やはり名前まで明らかに......危なかったな)


「ん? ......スキル『羊飼いの極意』。ああ、羊と犬を操るだけの力ですか。なんてことない平凡な技能ですね」


「あはは......」


「まあスキルが全てとは言いません。もう一つ、計器の故障でしょうか。何か......見えるような?」


「あはは、き、気のせいでは〜......」


「ふむ......やはり故障か。お疲れ様です。測定は終わりました」


「ありがとうございました」


 水晶玉から手を離す。上手くいったと確信を抱き、心の中でガッツポーズを取る。少し心臓がドキドキして、取り繕っていた化けの皮が剥がれかけそうになったが......。


(本来なら王族『ダンデライオン』を名乗って、父の約束に近づくのも一手だけど......。相手は王族、しかも父を追放する連中だ、地道に考えを読んでいかないとな)


 実は、水晶玉に手を置く前に、ボクはちょいと細工をした。


 それは自らの「能力と名前」を擬態する方法。魔力を抑えるだけでなく、”羊毛布”を使って、能力測定の結果を誤魔化した。


 これはスキル「詐称」という力だ。しかし、ボクは羊飼いである。ただの羊飼いに、盗賊が持つようなスキルは存在しない。


(やはり予想通りだ。使い所はハッキリ言ってポンコツだけど、このスキルは応用が効く!)


 腰に忍ばせていた”紺色の羊毛布”がスゥッと消えていく。役目を果たし、自然界へと還元されていったようだ。


 ギリギリのところでこのスキルは形になった。これまで苦労したものだと、”四年前の出来事”を脳裏に思い浮かべた。

次回更新日は明日の20~22時の間です。

2-3を投稿します。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ